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第4話:もう一人の私

結衣は、部屋の隅にある鏡台の前に立ち、自分の姿を映した。そこに映っていたのは、血と埃にまみれた異世界での自分ではない。清潔な制服を着て、髪も綺麗に整えられた、見慣れない少女だった。腕の傷跡だけが、あの日の惨劇が夢ではなかったことを証明していた。


「結衣……」


鏡の中の少女は、自分と同じ名前だった。しかし、彼女は、自分がこの世界の「結衣」であるという実感が持てなかった。


戸惑いながら、結衣は部屋の中を探索する。机の上には、ノートパソコンという名の奇妙な箱が置かれていた。おそるおそる電源を入れると、画面にはたくさんのアイコンが表示された。その中の一つに「Pixiv」という文字を見つけた。


クリックすると、そこには、彼女が具現化した魔法少女やおもちゃの人形とよく似た絵や漫画が、数えきれないほど投稿されていた。それらは、ただの絵ではなく、物語や設定が細かく書かれており、この世界の「結衣」が、それらを愛し、創作活動をしていたことを物語っていた。


彼女は、自分と全く同じ名前の少女が、この平和な世界で、かつて自分が「無力」と蔑まれた魔法を、一つの文化として楽しんでいたことに、大きな衝撃を受ける。


「魔法は、ただの力じゃない。想像力は、世界を豊かにする力だ」


彼女の頭の中に、誰かの声が響いた。それは、グランデールで姉が言った言葉に似ていた。


結衣は、ゆっくりと自分の手のひらを見つめる。

そして、無意識のうちに、心の中で「想像」した。


次の瞬間、彼女の手のひらに現れたのは、小さな小さな魔法少女のフィギュアだった。それは、かつて彼女が作ったクマのぬいぐるみのようには温かくなく、冷たいプラスチックの感触だった。


だが、そのフィギュアは、彼女がグランデールで最後に見た、絶望と怒りに満ちた表情ではなく、満面の笑顔を浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
「最弱の魔法」が異世界では無力でも、現実では創作として輝く…この逆転の発想がめちゃくちゃ良いですわ! 攻撃じゃなく“表現力”が武器になるところに、テーマ性と独自性を感じますの!!
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