第3話:四畳半のアパート
結衣が次に目覚めたのは、見慣れない天井の下だった。
「…どこ、ここ?」
カビと湿気の匂いが鼻につくグランデールとは違う、畳の匂いが部屋を満たしている。壁には、見たこともないポスターが貼られ、窓の外からは車の走行音が響いている。そして、何より彼女を驚かせたのは、部屋の隅に置かれた、テレビという名の奇妙な箱だった。
結衣は、ゆっくりと体を起こす。腕には、あの日の無法者につけられた、痛々しい傷跡が残っていた。しかし、その痛みは奇妙なほどに薄れている。まるで、すべてが夢だったかのように。
「ここは…」
彼女は、自分のものではない学生手帳と制服、そしてなにより、部屋中に飾られたアニメのグッズの数々を見て、さらに混乱した。
そこには、グランデールには存在しなかった、きらびやかで可愛らしい「魔法少女」や、巨大なロボットが描かれていた。彼女の魔法とは全く違う、カラフルで華やかな世界。そして、それらのグッズは、誰が見ても分かるように、部屋の持ち主が、それらの文化を愛していることを示していた。
結衣は、この現実を理解できなかった。
異世界での悲劇は、どこへ行ったのか。
家族の死、友人の死、そしてあの絶望。
それが現実だったのか、それともただの悪夢だったのか。
結衣は、目の前の現実が、あまりにも平和で穏やかで、かえって恐ろしく感じていた。