第2話:地獄絵図
結衣の目の前で、グランデールの分厚い石壁が崩れ去った。外の世界から、飢えた獣のような無法者たちがなだれ込んでくる。彼らの顔は憎悪と欲望に歪み、手には血塗られた武器が握られていた。
「母さん! 姉さん! 弟!」
結衣は悲鳴を上げ、家へと向かって走り出した。心臓が今にも破裂しそうなくらいに高鳴る。頭の中には、かつて見たおもちゃの剣や魔法少女のステッキが浮かんだ。だが、彼女はそれらを具現化する力がない。いや、たとえ具現化できたとしても、それはただの無力なオモチャでしかない。
「もし、私がもっと強かったら……!」
彼女は、自分自身の無力さを呪った。
家に着いたとき、彼女の人生は絶望のどん底に突き落とされた。母親が、弟が、そしていつも優しく微笑んでくれていた姉が、無法者たちに嬲られ、無残に殺されていく姿を、結衣はただ見ていることしかできなかった。
「やめて! お願いだから、やめて!」
結衣は泣きながら叫んだ。だが、彼女の声は、地獄の喧騒に飲み込まれていく。
無法者の一人が、嘲るように血塗られた剣を振り上げる。結衣は目を閉じ、死を覚悟した。その瞬間、彼女の脳裏に、これまでの人生で見てきた、大切だった人々の笑顔がフラッシュバックする。
楽しかった家族の食卓。
魔法学校で笑いあった友人たち。
そして、無残に命を奪われた、愛する家族の顔。
「何で……何も、できないの……!」
心の中で、叫びがこだまする。
その怒り、悲しみ、絶望が、結衣の奥底に眠っていた「想像の具現化」の魔法を、全く違う形で目覚めさせた。
だが、それは彼女を救う力ではなかった。
爆音が響き、結衣の体は吹き飛ばされる。彼女は宙を舞い、近くを流れる川へと落ちていく。冷たい水が全身を包み込み、重力に逆らえず、結衣は深い闇の中へと沈んでいった。
その意識が途切れる寸前、彼女の心は燃え盛っていた。
「ふざけるな。ふざけるな。いつもいつも私の平穏な生活を壊しやがって。大切なものたちを傷つけやがって。」
そして、深い意識の闇の中で、結衣は思う。
『この世界は、ただ私を苦しめるためにあるのか?』
その問いかけは、やがて彼女の魂を、全く別の場所へと導いていく。




