幕間:ノートの中のサヨ
― 榊サヨ遺稿集より抜粋「日記(仮綴・13歳頃)」
××××年6月14日
今日は学校で、トモミちゃんが「女子はトイレ長いよね」って言って、みんな笑った。
わたしは笑えなかった。
だってほんとうに、休み時間、毎日トイレが行列になるのは、ぜんぶ設計のせいだと思うから。
男子の個室より少ないのに「女子は時間がかかる」と言われる。
でも男子は座らないし、ナプキンもかえないし、清潔に拭いたりしない。
なのに「女子は非効率」って言われる。
非効率なのは、建物の方じゃないの?
家に帰ってからそれをママに言ったら、「まあそういうもんでしょ」って。
でも、なんで「そういうもん」は、ぜんぶこっちにだけガマンさせるの?
××××年6月20日
男子の名前って、呼びやすい。
リョウくん、ケンタくん、ユウタくん。
三文字で、音が強くて、すぐ覚える。
女子の名前は、やわらかくて消えそう。
ナナミ、アヤネ、ユイ。
誰かが付けた「かわいさ」のための音みたい。
わたしの名前もそう。
「サヨ」って、なんか…笑うと消えそうな音。
それがいやで、今日はノートにこう書いてみた。
― 私の本当の名前はまだない。
漢字でもカタカナでもなく、まだ知らない言葉で、自分に名前をつけたい。
誰にもつけられていない、わたしだけの音が、きっとある。
××××年7月3日
今日の保健体育の授業で、先生が「出産は女性の使命です」と言った。
そんなこと一度も思ったことない。
でもクラスの子たちは、誰も何も言わなかった。
あの空気、怖かった。
「使命」って誰が決めた?
世の中にとって、わたしは子を産む「道具」なの?
××××年7月12日
明日、またあの演説の人が街に来るらしい。
ママは「変な女」って言ってた。
でも私はこっそり見に行くつもり。
だって、「変」と言われてる人の方が、
ちょっとだけ、わたしの言いたかったことを知っていそうな気がするから。
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