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薩摩人活動記録書:第八日目

盗賊団壊滅と罪人の「血祭り」


記録日時: 聖暦2525年4月8日、午前中

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


昨夜から今朝にかけて、私はほとんど眠ることができなかった。


薩摩人たちが学園の許可なく村へと向かい、盗賊団と交戦しているという情報が入ってきていたからだ。


警備隊長とランドール先生は、彼らを追って村へ向かったが、私も彼らの無許可行動がどのような結果をもたらすのか、気が気ではなかった。


午前7時、学園の裏門が開き、全身を返り血で染めた薩摩人たちが戻ってきた。


彼らの顔には疲労の色は見えず、むしろ達成感に満ちた表情を浮かべていた。


 「ただいまじゃあ! 盗賊どもは、全員チェストしてまいったじゃっど!」


彼らは自慢げにそう報告すると、その手には、盗賊団が村から略奪したと思われる金品や物資、そして盗賊たちの武器までが握られていた。


警備隊長とランドール先生も、彼らの後ろから憔悴しきった顔で戻ってきた。


警備隊長が報告してくれた話は、私を震撼させた。


薩摩人たちは村に到着するや否や、迷うことなく盗賊団のアジトへと突入したという。


彼らは「チェストォォォォォ!」と雄叫びを上げながら、容赦なく盗賊たちに斬りかかり、あっという間に壊滅させたのだ。


 「生け捕りにすべき者もいたはずだ! なぜ全て斬り殺した!?」


警備隊長が問い詰めると、薩摩人たちは首を傾げた。


 「なぜ生かす必要がある? 悪しき者はチェストあるのみじゃ」


 「盗賊どもは、民から奪い、命ば脅かしたじゃろがい。そげな者に、情けなど不要じゃ!」


彼らは、悪人を「血祭りに上げる」ことに一切の躊躇がない。


彼らの「正義」は、この世界の法とは相容れない、あまりにも過激なものであった。


しかし、村人たちは彼らを「救世主」と呼び、感謝の言葉を述べていたという。


この事実は、彼らの行動の是非を一層複雑なものにしていた。


学園長は、この件について王宮からお咎めを受ける可能性を危惧し、早急に国王へ報告するために奔走していた。


私の胃は、もはや薬ではどうにもならない。




記録日時: 聖暦2525年4月8日、午後2時

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


午後の授業は「魔法実習」。


エアル・グリーンドラゴン先生は、昨日の剣術訓練場と化した教室の件で、すっかり意気消沈していたが、何とか授業を再開しようと努めていた。


今日のテーマは「初級攻撃魔法の詠唱練習」であった。


エアル先生が、基本の魔法陣の描き方と、短い詠唱文をゆっくりと教えていく。


他の生徒たちは真剣に呪文を唱え、小さな火の玉や風の刃を作り出していた。


しかし、薩摩人たちは、またしても独自の解釈を見せた。


 「先生、これでは威力が足りんではないか!」


一人の薩摩人が、自作の「温州みかん畑」から持ってきたと思しき、無数の熟れた温州みかんを魔法陣の上に並べ始めた。


 「こげな小さか火の玉では、魔族の毛皮すら焼けぬじゃろがい!」


 「数で圧倒すれば、威力も増すはずじゃ!」


彼らは、魔法の詠唱をほとんどせず、ただひたすら温州みかんを魔法陣の上に積み重ねていった。


そして、全員で同時に叫び出した。


 「チェストォォォォォ!!」


その叫び声と同時に、魔法陣の上に積み重ねられた温州みかんが、まるで爆発したかのように弾け飛び、教室中に温州みかんの破片と果汁が飛び散った。


教室は一瞬にして甘酸っぱい匂いに包まれ、床はみかんの破片で埋め尽くされた。


エアル先生は、その光景に目を見開いたまま、言葉を失っていた。


生徒たちは、全身に温州みかんを浴び、呆然と立ち尽くしている。


薩摩人たちは、満足げな顔で散らばったみかんの破片を見つめていた。


 「ふむ、これなら、少しは使えるかもしれんな」


 「しかし、やはりたましいの方が確実じゃ」


彼らは、魔法の概念を理解しようとせず、あくまで彼らなりの「チェスト」の精神で、魔法を物理的に利用しようとしているのだ。


エアル先生は、この日の授業を最後に、数日間、病欠することになった。彼の心労は、察するに余りある。


私の任務は、薩摩人たちの活動を記録することだ。しかし、彼らの規格外の行動は、私の想像を常に遥かに超えてくる。




この記録は、いつかこの世界の歴史の闇に葬られることになるだろう。


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