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薩摩人活動記録書:第七日目

薬草採取の変革と「捨て奸」の萌芽


記録日時: 聖暦2525年4月7日、午前中

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


今朝の薩摩寮は静かだった。


いや、静かすぎて不気味だった。


彼らはまた何か企んでいるに違いない、と私は警戒を強めた。


温州みかん畑は着実にその面積を広げ、もはや学園敷地の景観を大きく損ねている。


学園長は完全に白旗を上げており、この問題についてはもはや私の一存で対処すべき段階ではない。


午前中の授業は「薬草学」。


担当は、優しく知識豊富なベテランの薬師、ユリウス先生である。


この授業は座学と実習が半々で、今日は座学を中心に薬草の基礎知識を学ぶことになっていた。


ユリウス先生は、様々な薬草の効能や見分け方について、丁寧に説明していた。


生徒たちは熱心にメモを取り、中には匂いを嗅ぎ分ける練習をする者もいた。


薩摩人たちも、珍しく静かに授業を受けていた。


しかし、彼らの目は、机上の薬草の図鑑ではなく、窓の外の森に向けられていることが多かった。


ユリウス先生が、「薬草は非常に繊細なものです。


根や葉を傷つけないよう、優しく採取することが重要です」と語ったその時だった。


 「先生、薬草は、数が多ければ多いほど良いのではないか?」


一人の薩摩人が手を挙げ、真剣な顔で問いかけた。


ユリウス先生は困惑しながらも、「確かに、種類や量が多いに越したことはありませんが、品質が何よりも重要です。乱雑な採取は、薬草そのものを傷つけ、その効能を損ねてしまいます」と答えた。


 「品質か……。しかし、数で圧倒すれば、品質の多少の劣りは補えるのではないか?」


別の薩摩人も続く。


 「チェストの精神で、根こそぎ採取すればよか!」


彼らは、薬草採取の概念すらも「力任せ」に変換しようとしていた。


ユリウス先生は、薩摩人たちの独特な発想に頭を抱え、最終的には「……採取の際は、各自の判断に委ねます」と、疲労困憊の様子で呟いた。




記録日時: 聖暦2525年4月7日、午後1時

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


午後の授業は、再び「薬草学」の実習。


学園からほど近い、薬草が自生する小さな森での採取が目的であった。


ユリウス先生は、「薬草を傷つけないように、慎重に採取するように」と、念を押して指示を出した。


しかし、指示が終わるや否や、薩摩人たちは一斉に森の中へと突入していった。


彼らは網や大きな袋、そしてどこから調達したのか、小型のシャベルや熊手まで持ち出していた。


 「おい! 待て! そんなもので採取するんじゃない!」


ユリウス先生が慌てて呼び止めるが、彼らは聞く耳を持たない。


彼らは森の奥へ向かって走り去ると、間もなく、森の中から彼らの叫び声と、地面を掘り返すような激しい音が響き渡った。


 「チェストォォォォォ!!」


 「根こそぎじゃあ!」


 「この薬草もすめが! おとなしく捕まらんか!」


我々が森の奥へ進んでいくと、目を疑うような光景が広がっていた。


薩摩人たちは、薬草の根っこを傷つけないように優しく採取するどころか、まるで魔物を狩るかのように、地面を掘り返し、周囲の土ごと薬草を根こそぎ引き抜いていたのだ。


彼らは「これで効率が上がるじゃっど!」と満足げな顔をしている。


中には、まるで兵糧を確保するかのように、大量の薬草を袋に詰め込んでいる者もいた。


ユリウス先生は、その光景に顔面蒼白となり、膝から崩れ落ちた。


 「ああ……私の、私の愛する薬草たちが……」


彼は悲痛な声を上げ、ただ呆然と森の惨状を見つめていた。


薩摩人たちは、大量の薬草を抱え、「先生、これだけあれば、当分の間は困らんじゃろ!」と、達成感に満ちた顔でユリウス先生に差し出した。




記録日時: 聖暦2525年4月7日、午後4時

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


午後の実習を終え、薩摩寮へ戻ろうとした時だった。


学園の裏門付近で、数名の学園警備隊員が慌ただしく集まっているのを目撃した。


彼らは深刻な顔で、何やら話し合っている。


様子を伺うと、どうやら近隣の村で盗賊団が暴れているという情報が学園に届いたらしい。


警備隊員だけでは手が足りず、国王に救援を要請すべきか、と議論しているところだった。


薩摩人たちは、その会話を耳にするや否や、互いに顔を見合わせた。


 「盗賊団じゃと? 薩摩隼人が、そげな無法者どもを見過ごせるか!」


 「チェストして、血祭りに上げてやる!」


彼らは警備隊員の制止を振り切り、一斉に裏門を突破し、村へと続く道へ走り出していった。


その手には、自慢の刀が握られている。


彼らは「困っている民がいるなら、命ば懸けて助けるのが武士の務めじゃ!」と叫びながら、あっという間に視界から消えた。


学園の許可なく、学園外へ出て、しかも盗賊団を相手にするという、またも前代未聞の暴挙。


彼らが帰ってくる時には、一体何が起こっているのか。


そして、この行動が、彼らが持つとされる「捨て奸」という冷徹なまでの戦術の片鱗を見せることになるのではないか、私は大きな不安を感じずにはいられない。




私の胃は、もはや薬では誤魔化せない領域に入っている。


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