薩摩人活動記録書:第四日目
不審者確保と新たな「落とし前」
記録日時: 聖暦2525年4月4日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝、薩摩寮の温州みかん畑がさらに勢いを増している。
彼らは最早、学園の敷地であることを完全に無視し、寮の裏手にある広大な空き地まで開墾を始めていた。
しかも、昨日のオーク討伐で得た魔物の素材を、見慣れない露天商と交渉し、シャベルや鍬といった農具に交換しているのを目撃した。
彼らの行動力と、目的のためには手段を選ばない強かさには、正直なところ舌を巻くしかない。
午前中の授業は、学園の歴史と法規を学ぶ「学園概論」。
担当は、規則に厳格なことで知られる副学園長のディートリヒ先生だ。
私はこの授業こそ、彼らの無許可行動に歯止めをかける良い機会だと期待していた。
ディートリヒ先生は、学園の歴史を語り終えると、生徒手帳に記載された様々な規則について説明を始めた。
特に、学園敷地内での無許可の開墾や、禁じられた森への立ち入り、そして私闘の禁止について、厳しく注意を促した。
「これらの規則を破った者には、厳重な罰則が科せられます。最悪の場合、退学処分となることもありますので、肝に銘じておきなさい!」
ディートリヒ先生が薩摩人たちをちらりと見ながら強調すると、彼らはいつもと変わらず、真剣な表情で先生の話を聞いていた。
しかし、その顔に反省の色は一切見えない。むしろ、時折ニヤリと口元を緩める者すらいた。
彼らがこの注意をどのように受け止めたのか、非常に不安になった。
記録日時: 聖暦2525年4月4日、午後2時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
午後からは、勇者学園の敷地内にある「闘技場」での自由訓練の時間であった。
生徒たちは各自、剣術の鍛錬に励んだり、魔法の練習をしたりと、思い思いに時間を過ごしている。
薩摩人たちは、闘技場の片隅で黙々と素振りを続けていた。
彼らの素振りは、もはや基本の域を遥かに超え、実戦さながらの鋭さを持っていた。
その迫力に、他の生徒たちは近づくことすらできなかった。
そんな時、闘技場の入り口に、不審な人影が滑り込むのが見えた。
フードを目深に被り、見るからに怪しい雰囲気を醸し出している。
学園の警備隊員が近づこうとしたその瞬間、薩摩人たちが一斉に動き出した。
「おい、そこな不審者! 何ば企んでおるか!」
彼らは一瞬にして不審者を取り囲み、あっという間に地面に押さえつけた。
不審者は「ひっ!」と情けない声を上げ、持っていた小型の袋を落とした。
中からは、学園生徒の私物がいくつか転がり落ちる。
どうやら、学園に忍び込んだ窃盗犯だったようだ。
警備隊員や教師たちが慌てて駆け寄る中、薩摩人たちは不審者を取り押さえたまま、厳めしい顔で彼を見下ろしていた。
「この卑怯者め! 人様の物を盗むとは、薩摩隼人の風上にも置けぬ所業じゃ!」
「貴様のような臆病者には、切腹で落とし前をつけさせてやる!」
薩摩人たちは、不審者を立たせると、彼の腰に差してあった短剣を引き抜き、不審者の腹部に突きつけた。
不審者は恐怖に顔を歪ませ、「ひいいいいっ!」と悲鳴を上げた。
「な、何を! やめなさい!」
警備隊長とランドール先生が慌てて割って入り、薩摩人たちを制止した。
「こ、こいつは我々が正規の手順で捕らえ、裁きを受けさせます! 勝手な真似は許されません!」
薩摩人たちは渋々短剣を引っ込め、「チッ」と舌打ちをした。
「ちぇっ、つまらん。これしきの不始末で腹ば掻かんとは、武士の風上にも置けぬじゃろがい!」
彼らは不満げな表情を浮かべながらも、大人しく不審者を警備隊に引き渡した。
しかし、彼らの「落とし前は切腹」という独特の価値観は、学園関係者にとって衝撃的なものであった。
この一件は、学園に彼らの存在がどのような影響を与えるのかを、改めて強く認識させるものとなった。
私の胃の痛みは、日に日に増していく一方である。




