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薩摩人活動記録書:第三日目

禁じられた森での遭遇と新たな波乱


記録日時: 聖暦2525年4月3日、午前中

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


今朝、薩摩寮の温州みかん畑がさらに拡張されていることを確認した。


彼らは夜中にせっせと土を耕し、どこからか見つけてきた苗木を植え続けている。


しかも、昨日の剣術の授業で右腕を負傷した薩摩人も、包帯を巻いたまませっせと作業に加わっているのだ。


負傷者も容赦なく働かせる彼らの精神には、恐ろしさすら感じる。


学園長に畑の件を報告したところ、案の定、学園長は頭を抱え込んだ。


 「彼らは言っても聞かないだろう…」と諦め顔で、結局のところ、黙認せざるを得ない状況に陥っている。


午前中の授業は、「魔法基礎理論」。


担当は、穏やかな物腰で知られるエルフの老魔術師、エアル・グリーンドラゴン先生である。私はまたも、彼らの行動を監視するため、教室の後方で記録を取っていた。


エアル先生は、魔法の歴史、魔力の流れ、属性の基礎など、懇切丁寧に講義を進めていた。


他の生徒たちが真剣にノートを取る中、薩摩人たちは一見、大人しく座っているように見えた。


しかし、エアル先生が「魔法とは、自然の摂理を理解し、その力を借りて現象を操るものです。決して、力任せに使うものではありません」と語った時だった。


一人の薩摩人が突然、立ち上がり、大声で発言した。


 「先生! わざわざ回りくどいことをせんでん、直接チェストすればよかじゃろがい!」


エアル先生は、その唐突な発言に目を丸くした。


 「ええと、それは……魔法は、剣術とはまた異なる、奥深い知識と研鑽が必要なのです」


 「しかし、直接斬りかかった方が手っ取り早いのではないか? わざわざ杖など振るう手間が面倒じゃ」


別の薩摩人も続く。



 「魔力とかいうよく分からんもんば使うくらいなら、たましいを研ぎ澄ませた方がよか!」


彼らは、魔法という概念そのものに対して、根本的な疑問を抱いているようであった。


魔法を習得する手間と時間を「面倒」と一蹴し、物理的な力で解決しようとするその発想は、この世界の住人にとっては理解不能なものであった。


エアル先生は、最終的に「……各自、信じる道を極めるのが一番でしょう」と力なく答えるしかなかった。




記録日時: 聖暦2525年4月3日、午後3時

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


午後の実習は、「基礎探索術」。


学園の敷地外にある、通称「禁じられた森」の入り口付近での地形把握と、痕跡の識別が目的であった。


この森は、危険な魔物が生息しているため、教員の許可なく生徒が立ち入ることは厳しく禁じられている。


実習が始まって間もなく、生徒たちが地形図とにらめっこしている最中、異変が起きた。


薩摩人たちが、突然一斉に森の奥へ向かって走り出したのだ。


 「おい! どこへ行く! 待ちなさい!」


引率のベテラン探索術教師、ランドール先生が慌てて呼び止めるが、彼らは振り返りもせず、あっという間に森の奥深くへと消えていった。


私もランドール先生も、他の生徒たちも呆然とする中、森の奥から、けたたましい咆哮と、薩摩人たちの独特の叫び声が響き渡った。


 「チェストォォォォォ!!」


 「この魔族もすがぁあ!」


 「命ば捨ててかかってこい!」


嫌な予感がし、私たちは慌てて彼らの後を追った。


森の奥へ進むにつれ、生々しい血の匂いが漂ってくる。


そして、開けた場所に出た時、我々の目の前に広がっていたのは、地獄絵図であった。


数体のオークが、無残な姿で地面に転がっている。


オークの巨体を、薩摩人たちが返り血を浴びながら、まさに今、次々と斬り伏せている最中だった。


彼らは「魂」と呼ぶ刀を振り回し、猿のような奇声を上げながら、容赦なくオークに斬りかかっていた。


その動きは洗練されており、迷いがない。


死を恐れぬ彼らの剣は、まさしく死神の如くであった。


ランドール先生は、その光景に腰を抜かしてしまった。


 「ば、馬鹿な……オークを、こんな短時間で、それも許可なく討伐するなど……!」


薩摩人たちは、最後のオークを仕留めると、満足げに刀の血を払い、我々の方へ向き直った。


 「先生! これが探索術でよろしいか? 邪魔な魔族は、全てチェストしてきたじゃっど!」


彼らは悪びれる様子もなく、むしろ手柄を立てたかのように胸を張っている。


ランドール先生は、蒼白な顔で震えながら、ただ一点を見つめていた。


この一件で、学園内での薩摩人の評判は、恐怖と混乱と、そして微かな期待が入り混じったものになっていくだろう。




私自身、彼らの規格外な行動に、早くも記録係としての職務を全うできるか不安を覚えている。


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