薩摩人活動記録書:第二日目
勇者学園初の実技授業と薩摩寮の異変
記録日時: 聖暦2525年4月2日、午前8時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
早朝、私は薩摩寮の監視を強化するため、学園に隣接する小高い丘から寮の様子を観察していた。
昨日の一件で、彼らの行動が予測不能であることが改めて認識されたためだ。
すると、私の目には信じられない光景が飛び込んできた。
薩摩寮の敷地内に、昨日までは存在しなかったはずの、整然と並んだ柑橘系の木々が植えられているではないか。
しかも、その木々の間には、小さな水路まで掘られている。
私はすぐに寮へ駆けつけ、当直の職員に問い詰めた。
「これは一体どういうことだ!? いつ、誰がこんなものを!?」
当直の職員は、顔面蒼白で震えながら答えた。
「それが……昨夜遅く、薩摩人の皆さんが『故郷の味を恋しがり、畑ば作っど!』と、突然シャベルとツルハシを持ち出して……止めようにも、その気迫に圧倒されて……」
薩摩人たちは、一晩のうちに寮の庭を勝手に開墾し、「温州みかん畑」なるものを作り上げていたのだ。
彼らは「これがあれば、いつでも故郷ば思い出せる!」と満足げに笑っていたが、学園の敷地内で無許可に大規模な土木工事を行うなど、前代未聞の暴挙である。
この件については、後ほど学園長に報告し、厳重な対処を求める必要がある。
だが、果たして彼らに「厳重な対処」が通用するのか、一抹の不安を覚える。
記録日時: 聖暦2525年4月2日、午前10時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
本日は、勇者学園で最初の実技授業「基礎剣術」が行われた。
担当は、歴戦の勇者でもあるベテラン教師、グレン・ストーンウォール先生である。
私は薩摩人たちの行動を注視するため、授業の見学を許可してもらった。
授業が始まると、グレン先生は基本の構えと素振りを指導した。
他の生徒たちがぎこちなく剣を振るう中、薩摩人たちは既に完璧な構えで、流れるような動きを見せていた。
彼らは幼少の頃から徹底的に剣術を仕込まれているという話は本当だったようだ。
グレン先生も彼らの剣技には目を見張るものがあったようで、満足げに頷いていた。
しかし、その満足は長くは続かなかった。
「では、次は実際に模擬刀で打ち合ってみよう。相手を傷つけぬよう、慎重に!」
グレン先生の合図で、生徒たちはそれぞれペアになり、模擬刀を構えた。
薩摩人たちは迷うことなくペアを組み、互いに向かい合った。
その顔には、既に戦場に赴くかのような真剣な表情が浮かんでいる。
「チェストォォォォォ!!」
一人の薩摩人が叫ぶと同時に、もう一人の薩摩人に向かって猛然と斬りかかった。
その一撃は、模擬刀とは思えないほどの速さと重さを持っていた。
受け止めた相手の薩摩人もまた、「うぉおおお!」と雄叫びを上げながら、力強く打ち返す。
他の生徒たちが恐る恐る模擬刀を合わせる中、薩摩人たちの打ち合いはまるで本物の斬り合いのようであった。
金属と金属がぶつかり合う鈍い音と、彼らの吠えるような気合の声が、訓練場に響き渡る。
そして、悲劇は起こった。
「ぐああああっ!」
突然、一人の薩摩人が模擬刀を取り落とし、地面に膝をついた。
彼の右腕からは、血が滴り落ちている。模擬刀とはいえ、薩摩人たちの全力の打ち合いは、怪我人が出ることを避けられなかったのだ。
グレン先生は顔面蒼白になり、大慌てで駆け寄った。
「ま、待て! なぜ本気で斬り合うんだ!? 模擬戦だぞ!?」
薩摩人は、痛みに顔を歪めながらも、何でもないかのように立ち上がった。
「はっはっは! 先生、何を言うか! 刃こぼれ一つせん刀は、真の刀とは言えんじゃろがい!」
「これしきの傷で、薩摩隼人がへこたれるか! まだまだ斬り足りん!」
負傷した薩摩人は、その場で模擬刀を拾い上げ、再び相手に向かって構え直した。
グレン先生は、もはや言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすばかりであった。
周囲の生徒たちは、薩摩人たちの狂気じみた戦闘スタイルに恐怖を覚え、誰も彼らに近づこうとはしなかった。
この調子では、学園生活の一年間でどれだけの騒動が巻き起こるか、想像もつかない。
私の胃は、既に穴が開きそうだ。




