薩摩人活動記録書:第十八日目
最初の討伐任務と「殺魔もん」の烙印
記録日時: 聖暦2525年4月18日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝の薩摩寮は、異様な静けさに包まれていた。
彼らは早朝から、魔族討伐隊としての最初の任務に赴いたのだ。
彼らが不在の寮は、まるで嵐が過ぎ去った後の廃墟のようだ。
温州みかん畑だけが、すくすくと育っている。
私の精神は、この数日で完全に燃え尽き、もはや残骸と化している。
午前中、学園の教師たちは、薩摩人たちが不在の間に、学園の秩序を取り戻すべく動き出していた。
壊された図書館の書架の修復や、訓練施設の整理などが急ピッチで進められた。
しかし、薩摩人たちがいつ戻ってくるか分からないという恐怖が、常に彼らの頭から離れることはなかった。
私自身も、彼らが任務先で何を仕出かすのか、気が気ではなかった。
国王陛下から「生け捕りは困難なため、捕縛対象の場合は留守番」という異例の条件を引き出したとはいえ、彼らがその条件を本当に守るのか、私には確信が持てなかった。
記録日時: 聖暦2525年4月18日、午後4時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
午後遅く、学園に緊急の伝令が届いた。
それは、薩摩人たちが向かった討伐地域からの報告であった。
報告書に目を通した学園長は、その内容に顔面蒼白になった。
そして、その報告書は教師たちの間を回覧され、彼らの間にも同じような動揺が広がった。
報告書には、こう記されていた。
「討伐隊着任地、魔族被害、完全に鎮静化。しかし、捕獲対象である希少種魔族『影歩き(シャドウウォーカー)』を含む、全ての魔族が文字通り『塵と化した』との報告あり。生け捕り、失敗。討伐隊員(薩摩人)たち、全員無傷で帰還中」
学園長は震える声で呟いた。
「生け捕りが困難だから留守番……ではなく、生け捕り対象を完全に消滅させただと……」
ロドリゴ先生は「彼らは、捕獲対象だろうが何だろうが、敵は全て『チェスト』するつもりだったのですね……」と、呆れたような、しかしどこか恐怖を帯びた表情で言った。
報告書はさらに続けていた。
「現地住民より、討伐隊員に対し『殺魔もん』との呼称が広まりつつあることを確認。その残忍極まる戦い方に、魔族のみならず、人間からも恐れられている模様」
「殺魔もん」──それは、彼らの強さと、そして容赦ない殲滅能力を示す、新たな呼称であった。
この名は、これから王国中に広まり、魔族たちにとっての悪夢となるだろう。
同時に、彼らが「生け捕りは困難なため、捕縛対象の場合は留守番」という異例の条件を得たのは、最初から生け捕りをする気がなかったが故の、周到な策略であったことを私は悟った。
夕刻、薩摩人たちは学園に戻ってきた。
彼らは、返り血一つ浴びておらず、むしろ清々しい顔をしていた。
「先生! 今回の討伐任務も、見事チェストしてまいったじゃっど!」
「これで、しばらくはあの地域の民も安心じゃろ!」
彼らは自慢げにそう報告すると、温州みかん畑の収穫時期が近いことを理由に、さっさと薩摩寮へと戻っていった。
彼らは、自分たちの行動がどれほどの衝撃を周囲に与えているか、全く気にしていないようであった。
私の精神は、この日の出来事を境に、完全に限界を超えた。
彼らの活動記録係としての職務を続けることは、もはや不可能だと判断せざざるを得ない。
私は、遠い西の空を見つめ、静かに旅立つ決意を固めた。
この報告書が、彼らの恐るべき活動の、始まりの記録として残されることを願うばかりである。




