薩摩人活動記録書:第十七日目
魔族の急減と「討伐隊」へのスカウト
記録日時: 聖暦2525年4月17日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝、薩摩寮の見張り台には、昨日までの「薩摩国」の幟に加え、新たに魔族の頭蓋骨が飾り付けられているのを発見した。
彼らは完全に自分たちの流儀で生きている。
学園の警備隊員たちは薩摩寮に近づくことすら避けるようになり、もはや彼らは学園内の一つの独立国家と化していた。
私の精神は完全に疲弊しきっており、まともな判断能力を失いつつある。
午前中、学園長は憔悴しきった顔で、教員会議を招集した。
昨日の「緑の森」での魔族壊滅の一報は、王都にも届き、国王陛下からの緊急の連絡が入ったという。
「昨日の緑の森の件だが……薩摩人たちが、あの大規模な魔族の群れを、一夜にして完全に壊滅させたそうだ」
学園長の言葉に、会議室は静まり返った。
誰もが、その信じがたい報告に言葉を失っていた。
「さらに、驚くべきことに……国王陛下は、彼らを『魔族討伐隊』にスカウトしたいと仰せだ」
その言葉に、教師たちの間にどよめきが走った。
勇者学園に入学したばかりの新入生が、国王直属の討伐隊にスカウトされるなど、前代未聞の出来事である。
「しかし、彼らは学園の規則を一切守りません! 礼儀作法も滅茶苦茶です!」
ロドリゴ先生が抗議した。
学園長は深いため息をついた。
「国王陛下は、彼らの『規格外の才能』と『死を恐れぬ精神』こそが、長引く魔族との戦に終止符を打つ鍵となるとお考えのようだ。彼らが討伐隊に着任すれば、その地域の魔族被害率が激減するだろう、と……」
実際、過去に例を見ない速さで魔族を壊滅させた実績は、王国にとって何よりも魅力的だったのだろう。
教師たちは不満を滲ませながらも、国王陛下の決定には逆らえないことを理解していた。
記録日時: 聖暦2525年4月17日、午後1時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
午後の時間、国王陛下からの使者である王宮騎士団長が、直接薩摩寮を訪れた。
彼は薩摩人たちを討伐隊にスカウトするため、正式な辞令を伝えに来たのである。
私は、この重要な瞬間を記録するため、薩摩寮の近くで息を潜めていた。
王宮騎士団長は、数名の騎士を伴い、薩摩寮の門の前に立つと、毅然とした態度で声をかけた。
「国王陛下の御命令である! 勇者学園新入生、薩摩人一同に告げる! そなたたちを、国王直属の魔族討伐隊に任命する!」
その言葉に、薩摩寮の中から、驚きと喜びの雄叫びが上がった。
「おお! 討伐隊じゃと! チェストし放題じゃろがい!」
「やっと本物の戦ができるじゃっど!」
彼らは、まるで子供のように喜び勇んで寮から飛び出してきた。
王宮騎士団長は、彼らの素直な反応に少し戸惑いながらも、辞令を読み上げた。
しかし、辞令の最後に「ただし、討伐の際は、上位魔族は生け捕りを試み、情報収集のため、不必要な殺生は避けるように」という一文が読み上げられた時だった。
薩摩人たちの表情が、一瞬にして険しくなった。
「生け捕りだと? なぜ魔族を生かす必要がある!」
「殺さねば、魂が宿らぬではないか!」
一人の薩摩人が、王宮騎士団長に詰め寄った。
「おいは幼き頃から、敵は全てチェストせねばならぬと教わってきた! それを今更、生け捕りなどと……武士の誉れに泥を塗る行為じゃ!」
彼らは、討伐隊への任命は喜んだものの、「生け捕り」という条件には断固として反発した。
王宮騎士団長は、彼らの剣幕にたじろぎながらも、「これは国王陛下の命令である!」と譲らなかった。
しかし、薩摩人たちは一歩も引かず、最後にはこう言い放った。
「ならば、討伐隊は引き受ける。しかし、生け捕りは困難じゃ。捕縛対象の場合、おれたちは留守番をしておるじゃっど!」
彼らは、国王の命令にもかかわらず、自分たちの信念を曲げようとしなかった。
王宮騎士団長は、彼らのあまりにも強硬な態度に、結局折れるしかなかった。
こうして、薩摩人たちは異例の条件で魔族討伐隊に任命されたのである。
彼らのこの「妥協案」は、後に王国中に「薩摩人が討伐隊に着任したら、生け捕りは諦めろ」という暗黙の了解を生むことになる。
私の精神は、完全に擦り切れていた。
このままでは、私は本当に故郷へ旅立つしかなくなるだろう。




