薩摩人活動記録書:第十六日目
学園の崩壊と「殺魔もん」の誕生
記録日時: 聖暦2525年4月16日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝、私は薩摩寮の見張り台に、新たに「薩摩国」と書かれた巨大な幟がはためいているのを目にした。
彼らは、もう完全にこの学園を自分たちの領地と化している。
学園の各所に、薩摩人たちが勝手に設置した
「チェスト禁止」ならぬ「チェスト推奨」の張り紙が貼られ始めたのは、もはや笑うしかない。
私の胃は、もはや痛みを超越し、存在そのものが曖昧になりつつある。
午前中、学園内は混乱の極みにあった。
昨日の薩摩寮への「介入」失敗が、学園全体に衝撃を与えたのだ。
教師たちは疲弊しきっており、多くの授業が自習となり、校舎の廊下には諦念と無力感が漂っていた。
一部の生徒たちは、薩摩人たちのあまりの強さに畏敬の念を抱き始め、こっそりと薩摩寮の近くで彼らの鍛錬を見学している者まで現れた。
そんな中、学園長は完全に憔悴しきっていた。
彼は学園長室に閉じこもり、誰とも会おうとしなかった。
緊急事態に際して、学園の運営は事実上、停止状態に陥っていた。
しかし、薩摩人たちは、学園の混乱をよそに、いつもと変わらぬ日常を送っていた。
彼らは朝食を摂り、温州みかん畑の手入れをし、そして広大なグラウンドで剣術の鍛錬を始めた。
その雄叫びは、学園中に響き渡り、最早誰も彼らを止めようとはしなかった。
記録日時: 聖暦2525年4月16日、午後2時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
午後の時間、学園に緊急の連絡が入った。
学園の西方に位置する、これまで比較的安全とされてきた「緑の森」で、突如として魔族の襲撃が発生したというのだ。
通常ならば警備隊や教師が対応するところだが、彼らは薩摩人との衝突で消耗しきっており、すぐに対応できる状況ではなかった。
学園長は青ざめた顔で、残された教師たちに指示を出した。
「そ、そこまで魔族の数がいるとは……。このままでは、近隣の村に被害が出てしまう。誰か、誰か救援に向かってくれ!」
しかし、誰もが顔を見合わせ、躊躇していた。魔族の襲撃は危険であり、教師たちの疲弊は明らかだった。
その時だった。
「先生! おいたちが行くじゃっど!」
薩摩人たちが、剣を携え、自ら名乗り出たのだ。
彼らの目は、まるで獲物を見つけた猛禽類のように、鋭く輝いていた。
学園長は一瞬ためらったが、他に選択肢がないことを悟り、藁にもすがる思いで薩摩人たちに懇願した。
「頼む……君たちしかいない。村の民を、どうか守ってくれ!」
「任せておけ! 薩摩隼人が、民を見捨てるわけにはいかんじゃろがい!」
薩摩人たちは、自信満々にそう言い放つと、一目散に「緑の森」へと走り出していった。
彼らの足取りは軽く、まるで遊びに出かけるかのようであった。
森へと向かう薩摩人たちの姿を見送りながら、私はある予感を覚えた。
彼らは、王都での盗賊団壊滅の一件で、既にその名を轟かせている。
そして今、彼らは「緑の森」で、この世界に彼らの存在を決定づけることになるであろう、新たな伝説を作り出すだろう。
翌日、緑の森の魔族は完全に壊滅状態に陥っていた。
彼らが「殺魔もん(さつまもん)」と恐れられる存在となるのは、時間の問題であった。
そして、私の精神は、もはや現実と幻想の境目が曖昧になり、空を見つめるばかりであった。




