薩摩人活動記録書:第十三日目
王宮への道中と予想外の「視察」
記録日時: 聖暦2525年4月13日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝、薩摩寮の庭には、昨日から新たに設置されたらしい物干し竿がずらりと並び、その上には、彼らの独特な衣装が干されていた。
しかも、その間には何故か魔物の皮まで干してあり、異様な臭気を放っていた。
学園長はもはや何も言わず、遠い目をして空を仰いでいた。
私の胃痛は最早、生活の一部と化している。
午前中、王宮への謁見のため、薩摩人たちは馬車で出発することになった。
学園長は、彼らが王宮で粗相のないよう、出発直前まで礼儀作法について口を酸っぱくして言い聞かせていた。
特に、「国王陛下には、決して『チェスト』などと叫ばないように」と、何度も念を押していた。
しかし、薩摩人たちは、馬車の外で待機していた王宮騎士団の厳めしい騎士たちを見るなり、興奮した様子を見せ始めた。
「ほう、王宮の騎士殿か! なかなか強そうじゃのう!」
「おい、この騎士殿たちも、おれたちの刀が見えるのか?」
彼らは、騎士たちの鎧や剣に興味津々の様子で近づき、無遠慮に触れ始めた。
騎士たちは困惑した表情を浮かべ、戸惑っていた。
学園長は顔面蒼白になり、「やめなさい! 陛下がお待ちだ!」と必死に制止した。
何とか馬車に乗り込ませたものの、彼らは窓の外を流れる景色に興奮し、馬車の窓から身を乗り出して、大声で叫び続けた。
「おぉ! これは見事な畑じゃのう! これなら温州みかんもよく育つじゃろがい!」
「あの森には、さぞかし強か魔族がおるじゃろな! チェストしに行きたい!」
彼らの騒がしさに、街道を行く人々は驚いて足を止め、馬車を二度見していた。
王都に近づくにつれて、人々の視線は一層好奇と困惑に満ちたものとなっていった。
記録日時: 聖暦2525年4月13日、午後2時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
馬車は王都の郊外にある広大な農地を通りかかった。
そこでは、多くの農民が作物の手入れに勤しんでいた。
薩摩人たちは、その光景を見るなり、突然、馬車を降りると言い出した。
「先生、おいはこの畑の様子ば見に行くじゃっど!」
「まさか、国王陛下に謁見する前に、この国の食料事情ば確認せんわけにはいかんじゃろがい!」
学園長や騎士団が止める間もなく、彼らは馬車から飛び降り、農地へと駆け出した。
私は絶望的な気分で彼らを追いかけた。
農民たちは突然現れた集団に驚き、作業の手を止めていた。
薩摩人たちは、農民たちに近づくと、いきなり畑の土を手に取って匂いを嗅ぎ、作物の葉を無遠慮に触り始めた。
「ふむ、なかなか良い土じゃ。これなら温州みかんも作れるじゃろがい!」
「しかし、水捌けが悪いのではないか? もっと水路を整備せねばならんぞ!」
彼らは、まるで熟練の農家であるかのように、畑の状況について口々に意見を述べ始めた。
農民たちは最初こそ困惑していたが、彼らの真剣な眼差しと、的確な指摘に、次第に耳を傾けるようになった。
「あんたがたは、一体何者なんだ?」
一人の農民が尋ねると、薩摩人の一人が胸を張って答えた。
「おいたちは薩摩隼人じゃ! この国の食料事情ば、国王陛下に直訴するんじゃ!」
その言葉に、農民たちは目を丸くした。
薩摩人たちは、そのまま数十分間、農民たちと熱心に農業談義を繰り広げた。
彼らは、この世界の農業技術に感心する一方で、自分たちの故郷の農法について熱く語っていた。
中には、実際にシャベルを借りて、その場で畑を耕し始める者まで現れた。
学園長と騎士団は、王宮への謁見が遅れることに焦りを感じながらも、彼らのあまりにも自然な「視察」の様子に、ただ呆然と立ち尽くすばかりであった。
最終的に、薩摩人たちは農民たちに別れを告げ、「また来るじゃっど!」と言い残して、再び馬車に乗り込んだ。
彼らは、農民たちから「頑張ってくれよ!」と声をかけられ、満面の笑みを浮かべていた。
王宮への到着は大幅に遅れた。
しかし、彼らのこの「寄り道」は、王国の食料問題に対する国王陛下の関心を引くことになり、後に意外な結果をもたらすことになる。
私の胃は、もはや悲鳴を上げる気力すら残っていなかった。




