薩摩人活動記録書:第十一日目
図書館での騒動と「本」に対する独特の解釈
記録日時: 聖暦2525年4月11日、午前中
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
今朝、薩摩寮の温州みかん畑の拡大は一段落したようだが、彼らが何やら怪しげな薬草を畑の片隅に植え始めているのを目撃した。
ユリウス先生から根こそぎ奪い取った薬草だろうか。
彼らは「これがあれば、いつでも元気ば出せるじゃっど!」と楽しげに話していた。
彼らの行動には本当に際限がない。
私の胃はもはや慢性的な痛みを訴えている。
午前中の授業は、「図書館利用法」。
担当は、厳格な司書長であるミネルヴァ先生だ。
この授業は、学園の膨大な蔵書を効率的に利用するための基礎を学ぶもので、静粛と秩序が最も重んじられる場所である。
私は、ここで彼らがどのように振る舞うのか、ある種の緊張感をもって見守っていた。
ミネルヴァ先生は、図書館の利用規則、本の探し方、そして何よりも「図書館内での静粛」を厳しく指導した。
特に、「本は知識の宝庫であり、大切に扱うこと」を強調していた。
薩摩人たちも、普段の荒々しさとは裏腹に、静かに席に座って耳を傾けていた。
彼らが大人しくしていることに、私は安堵の息を漏らした。
しかし、ミネルヴァ先生が「質問はありますか?」と尋ねた時だった。
「先生、お尋ねしてもよろしいか?」
一人の薩摩人が、堂々と手を挙げた。
ミネルヴァ先生は、その威圧感に一瞬たじろぎながらも、「どうぞ」と答えた。
「この図書館には、人をチェストするための奥義が記された本はあるか?」
その質問に、図書館内の空気が一瞬で凍りついた。
他の生徒たちは、薩摩人のあまりにも直球な問いに目を丸くしている。
ミネルヴァ先生の顔には、困惑と怒りの色が入り混じった表情が浮かんだ。
「チェスト……? 君、図書館は暴力を推奨する場所ではありません。知識を深め、平和を築くための場所です!」
「しかし、知識とは戦を有利に進めるためのものではないか? 優れた戦術を学ぶことは、より多くの敵をチェストすることに繋がるじゃろがい!」
別の薩摩人が続く。
「この分厚い本には、一体どれほどの魂が宿っちょるか! これを読めば、おれたちの刀も、もっと研ぎ澄まされるはずじゃ!」
彼らは、図書館の本を「戦術書」や「奥義書」として捉え、知識を「戦闘力」に直結させようとしていたのだ。
ミネルヴァ先生は、彼らの独特な解釈に反論する言葉を見つけられず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
記録日時: 聖暦2525年4月11日、午後2時
記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス
午後の授業は、引き続き「図書館実習」。
生徒たちは、各自興味のある分野の本を探し、ミネルヴァ先生の指導のもとで資料検索の方法を学ぶことになっていた。
他の生徒たちが書架の間を静かに巡り、慎重に本を選んでいる中、薩摩人たちはまたしても規格外の行動に出た。
彼らは一斉に、歴史、戦術、そして武術に関する書架へと向かって走り出したのだ。
「待ちなさい! 走ってはいけません!」
ミネルヴァ先生が注意するが、彼らは聞く耳を持たない。
彼らは書架から次々と分厚い本を引き抜き、床に広げて読み始めた。
その読み方は、まるで戦場の最前線で敵の情報を読み取るかのように、異常なまでの集中力と速さであった。
そして、悲劇は起こった。
「うおおおおお! これぞ、真の『釣り野伏』じゃあ!」
一人の薩摩人が、興奮した様子で本を抱きしめ、立ち上がった。
そして、次の瞬間、その本を力いっぱい握りしめ、まるで刀を振るうかのように、空中で激しく振り回したのだ。
「この書に宿る知識を、我が身に宿す!」
彼が振り回した本は、その勢いのまま、隣の書架に激突した。
鈍い音を立てて、書架から何冊もの本が崩れ落ち、埃が舞い上がった。
ミネルヴァ先生は、その光景に悲鳴を上げ、倒れた本に駆け寄った。
「何をするんですか! 本は丁寧に扱わなければならないと、何度言えば分かるんですか!?」
薩摩人は、何が悪いのか理解できないといった表情で、目を輝かせながら答えた。
「先生、おいはこの本に魂を込めて、真剣に読み込んだじゃっど! これこそが、本への最大の敬意じゃろがい!」
他の薩摩人たちも、同様に本を激しく「読み込み」始め、図書館内は本のページが破れる音、書架が揺れる音、そして彼らの雄叫びで、カオスと化した。
ミネルヴァ先生は、もはや涙目になりながら、本を抱きしめて「やめて……私の本たちが……」と呟くばかりであった。
この日、学園図書館は一部の書架が半壊し、蔵書の一部が破損するという甚大な被害を被った。
ミネルヴァ先生は、その場で心労から倒れ、数週間の静養を余儀なくされた。
私の胃は、もはや限界を超え、常に差し込むような痛みに苛まれている。




