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薩摩人活動記録書:第十日目

礼儀作法講習と異文化交流の破綻


記録日時: 聖暦2525年4月10日、午前中

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


今朝、薩摩寮の見張り台に、見慣れない旗が掲げられているのを発見した。


それは、この世界のどこの国旗でもない、赤地に白丸、そして独特の文様が描かれたものであった。


彼らは「故郷の旗を掲げれば、気合が入るじゃっど!」と満足げに語っていたが、学園の敷地内に無許可で旗を掲げるという暴挙に、私はもはや驚きを通り越して諦念しか感じなかった。


温州みかん畑は順調に拡大しており、もはや学園の「名物」と化しつつある。


午前中の授業は「異文化交流と礼儀作法」。


担当は、貴族出身で礼儀作法に厳しいことで知られるマダム・エレーヌだ。


この授業は、多種族が共存するこの世界において、相互理解と円滑なコミュニケーションを図る上で非常に重要なものとされている。


私は、彼らの粗暴な振る舞いがここでどう出るか、ある意味で期待していた。


マダム・エレーヌは、各文化圏の挨拶の仕方、食事のマナー、社交の場の立ち居振る舞いについて、優雅に講義を進めていた。


他の生徒たちは真剣に学び、異文化への理解を深めようとしていた。


薩摩人たちも、珍しく静かに座って講義を聞いていたが、その視線は常にマダム・エレーヌの指す図版の「武器」や「戦闘」に関する部分に集中していた。


そして、マダム・エレーヌが「他者とのまじわりにおいては、常に相手への敬意を忘れてはなりません。特に、言葉遣いや態度には細心の注意を払う必要があります」と語った時だった。


 「先生、お尋ねしてもよろしいか?」


一人の薩摩人が手を挙げた。


マダム・エレーヌは、何が飛び出すか分からないという警戒心からか、やや顔をこわばらせながら「どうぞ」と答えた。


 「相手への敬意とは、すなわち、相手をチェストすることであるか?」


その質問に、マダム・エレーヌは目を丸くした。


 「ええと、それは……敬意とは、相手を尊重し、穏やかに接することです」


 「しかし、真の敬意とは、命を懸けて相対することではないか? 敵も味方も関係なく、真剣にチェストし合うことで、互いの魂をぶつけ合う。これこそが、最高の礼儀ではないか!」


別の薩摩人が続く。


 「おいは幼き頃から、武士道とは死ぬことと見つけたり、と教えられてきたじゃっど。生きるか死ぬかの瀬戸際でこそ、真の人間性が見えるというものじゃ!」


彼らは、礼儀作法という概念すらも「戦闘」と結びつけ、彼らの独特な死生観で解釈しようとしていた。


マダム・エレーヌは、彼らの言葉に戦慄し、優雅な顔に冷や汗が流れ落ちるのが見えた。


最終的に彼女は、「……各々、自らの文化を大切にすることも重要ですわね」と、力なく答えるしかなかった。




記録日時: 聖暦2525年4月10日、午後2時

記録者: 薩摩人活動記録係 筆頭調査官 エルヴァード・フォン・グロリアス


午後の授業は、「実戦応用:魔物学」。


今日は、座学で魔物の生態や弱点を学び、その後、学園が管理する模擬戦闘施設で、実物大の訓練用魔物模型を用いて実践的な対応を学ぶことになっていた。


担当は、筋骨隆々のベテラン教師、ガストン先生だ。


彼は、これまで薩摩人たちに一度も遭遇していないため、彼らの実力を測る良い機会になるだろうと、私は密かに期待していた。


ガストン先生は、魔物模型の前に立ち、ゴブリン、オーク、そして比較的小型のワイバーンの模型を指差しながら、それぞれの特徴や対処法を熱心に説明していた。


 「このゴブリンは、数は多いが単体では弱いです。連携して対処すれば問題ありません。そして、このオークは力は強いですが、動きが鈍重です。その隙を突くのが良いでしょう。最後に、このワイバーンは素早い動きで上空から襲い掛かってきますが、翼が弱点です!」


説明が終わると、ガストン先生は生徒たちに、それぞれの魔物模型を相手に、模擬戦闘を行うよう指示した。


他の生徒たちが、慎重に距離を取り、教えられた通りの戦術を試す中、薩摩人たちはまたしても規格外の行動に出た。


 「おい、先生! そんな回りくどいことをせんでん、全部チェストすればよかじゃろがい!」


一人の薩摩人が叫ぶと、他の薩摩人たちもそれに続いた。


 「ゴブリンなど、まとめて斬り潰せばよか!」


 「オークは力が強いだと? そんなもの、気合でねじ伏せればよか!」


 「ワイバーンの翼が弱点だと? そんなもの、飛ぶ前に首を落とせばよか!」


彼らは、ガストン先生が説明した魔物の特性や弱点を完全に無視し、目の前の全ての模型に「チェストォォォォォ!!」と叫びながら、猛然と斬りかかっていった。


彼らの剣は、まさに嵐の如く。訓練用とはいえ頑丈に作られた魔物模型は、彼らの猛攻によって次々と破壊されていった。


ガストン先生は、その光景に目を疑った。


彼は、これまで数多の生徒を見てきたが、このような破壊的な戦闘スタイルを持つ者たちを見たのは初めてであった。


彼は「ま、待て! 模型は壊すな! 実践的な訓練に支障が出る!」と叫んだが、薩摩人たちは聞く耳を持たない。


彼らは、まるで本物の魔物を相手にしているかのように、猿叫を上げながら模型を破壊し続けた。


訓練時間の終わりには、ゴブリンの模型は文字通り「斬り潰され」、オークの模型は頭部を粉砕され、ワイバーンの模型は翼どころか胴体までが寸断されていた。


ガストン先生は、破壊された模型の残骸を呆然と見つめ、口を開けたまま立ち尽くしていた。


彼の顔には、怒りよりも深い困惑と、ほんのわずかな恐怖の色が浮かんでいた。


私の精神は、もはや正常を保てているか怪しい。




この記録は、いつか私の正気の証として、歴史に刻まれることを願うばかりである。


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