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はいはい結局はねって話ね。

屋敷を出てから1時間半程。深い森を抜けてワタの村にたどり着いた。するとすぐに顔馴染みの村人に見つかる。


早朝の収穫を終え、飼い犬を連れ、積荷車を引くおばさんに出くわしたのだ。木に釘を打ち込んで固定した大型の籠。長く加工した鉄棒部分を袖まくりした腕に力を込めてがっしりと握っている。底に付けた車輪が少しだけ軋む音を立てる。


子供が何人でも乗りそうな籠には、殻付きの綿がどっさり。手を離して籠を傾けてしまえば、一気に溢れ落ちてしまいそうだ。


「まあ!おはよう、ツナギ君!魔物でも出てきそうな、ひどく濃い霧だね!昨日はうちの子もパーティーに呼んでくれてありがとうねえ。ケーキも美味しく頂いたわよぅ」


ややふくよかな三十路終わりの女性。額に汗にしながら力強く地面を踏みしめて荷車を引く。ツナギはその女性の飼い犬に唸われながら後ろに回って一緒に押し始めた。


「おばさんが16歳になった時は何を?」


「同い年の子はみんな夢見がちだったねえ。錬金術や魔術を習いたいとか。おしゃれなお店で働きたいとか。町のアカデミーを受験して冒険者になった子もいたかねえ。その点あたしは、この村が気に入っていたから。


綿や綿、麻なんかの栽培はやりがいがあったし、あと羊もね。今の村長に変わった頃だったから、村民全員で一旗上げるぞ!っていい雰囲気だったしねえ。村に残ってよかったって思ってるよ」



「なるほど。いい旦那さんとも出会えましたしね」


「鉄のように頑固な性格で町からこんな村に流れ着いた変わり者さ。今朝も、ツナギ君がせっかくくれたケーキにも手を付けずにさ」


「まあ、あの人は甘い物が苦手ですからね」


「おかげでまたあたしの体重が増えちまうよ」


女性の営む工房まであと少し。やや傾斜のある道に差し掛かる。さらに踏ん張った彼女の立派な臀部がさらに盛り上がった。それを眺めながらのツナギ。


「ほんとですねー」


そう口にした瞬間、足を止めた女性が、ばっと振り返る。


「あ?なんだって!?」


「ギャハハハ!!⋯⋯ともかく、あなた様の旦那様に武器を預けていますから、この後寄らせてもらいますよ」


「間違ってもお代なんて置いていくんじゃないよ。今日はあんたの旅立ちの日なんだから」


「分かってますよ。今まで色々ありがとうございました」


ツナギは荷車から手を離しながらそう口にし、深々と頭を下げた。


狼の匂いが全身に付いているからか、怯える雑種犬を撫でるのは諦めて、綿工房横の鍛冶屋へと足を踏み入れた。


「おはよー、おやっさん。仕上がってるかい?」


店に入ると熱気はムンムン。カウンターの奥かは立ち上がったのは、甘い物嫌いの頑固親父。汗を拭う仕草は誰かとそっくりだ。




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