Chapter 7
翌日。
少年が通う学校には朝早くから警察が訪れていた。この学校に通う二名の生徒が昨夜から行方不明になっており、家族が警察に捜索願いを出したのだ。
その一人である鈴木はすぐに見つかった。旧校舎内を見回りしていた教員が、壁に埋め込まれて死んでいる鈴木を発見したのだ。そして、そのすぐ近くでは身元不明の散乱死体も一緒に見つかった。その死体は首から上が無かったため、誰かはすぐに分からなかったが、現場に残されていた引き千切られた服から、女生徒である事が分かった。警察は、行方不明になっているもう一人の生徒、増岡直子では無いかと考え捜査を始めている。
「本当、物騒な学校よね。この三ヶ月で五人も死ぬなんて。あ、自殺した今野さんを入れたら六人か」
放課後、少年と内田はいつもの図書室にいた。
あの後、少年は自分の痕跡が残るものは全て消し、旧校舎を後にした。旧校舎の鍵も、こっそり返してある。それに、例え警察が少年にまで辿り着いたとしても、実際にあの二人を殺したのは霊たちなのだ。少年が捕まる事は無いだろう。
「増岡さんの首、見つかるかな?」
「さぁね」
警察は必死で増岡の首を探すだろう。だが、未来永劫彼女の首は見つからないに違いない。彼女の首は、今野が持ち去ったのだ。恐らく、この世では無い場所へ。
少年は、ぼんやりと部屋の角を見つめた。そこには、一度も使われた事の無い消火器があるだけで、その他には何も無い。
あれから今野の姿を見る事は無くなった。少年は思う。彼女は何のために自分の前に姿を現していたのだろうか? もしかしたら、霊の姿を見る事が出来る自分に、彼女の凶行を止めて欲しいとでも願っていたのだろうか?
そこまで考えた所で少年はフッと笑った。
だとしたら相談する相手が間違っている。よりにもよって、この僕に相談するなんてね。
そんな物思いに耽る少年の目の前に、内田が顔を出してきた。
「ねぇ、さっきから何をボーっと見ているのよ。まさか、また霊でも見えるって言うんじゃないでしょうね?」
「見えるよ」
少年の言葉に、内田はビクッと体を強張らせた。
「君の顔がね」
そう言って、少年はクスリと微笑む。
「ちょっと、脅かさないでよね!」
内田は、ホッと胸を撫で下ろした。
「それよりもさ、あなた知っている? 一年ぐらい前にあった一家惨殺事件の話。ほら、あの三丁目の角にあるあばら家の事よ。なんでも、実はあの家の生き残りが、今でもこの学校に通っているんですって! ちょっと興味沸かない?」
どうやら昨日あった出来事は、彼女の中ではすでに風化してしまったようだ。新しい興味の対象を見つけた彼女は、少年に向かって一生懸命に話しかけている。
少年は気だるそうにしながらも、内田の言葉に耳を傾けた。
――第一章 黒いラブレター 完