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少年A  作者: 優斗
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Chapter 8

 顔無し死体の集団を引き連れ、岩澤は廊下を歩いていた。

「馬鹿め、何処に隠れても無駄だ。こんなにハッキリと足跡を残しちゃ意味が無いだろ」

 廊下には、赤い血が転々と続いていた。先程切りつけた傷は、相当な深手に違いない。

 暫く進むと、廊下の奥に佇む人影を見つけた。暗くて顔は窺えないが、少年に違いない。

「観念して出てきたか、王子様よ」

 少年は微動だにせず、その場に立ち尽くしている。

 タリスマンを握り締め、岩澤は動く死体どもに少年を捉えるよう指示した。

 奇声をあげながら、死体どもは我先にと少年に襲い掛かる。

「いいか、殺してもいいが顔には傷をつけるなよ。そいつの顔の皮は、俺が直々に剥がしてやるからな」

 岩澤の口元が邪悪に歪む。

 だが、少年に死体どもが襲い掛かろうとした瞬間、まるで操り人形の糸が切れたように、突然死体どもが少年の目の前でバタバタと倒れて行った。

「な、何だと?」

 予想外の出来事に、岩澤は目を見開いて驚く。

 コツコツと足跡を響かせながら、少年が岩澤に歩み寄って来た。

「僕のあげたタリスマンは、役に立ったみたいだね」

 窓から差し込むネオンの光を浴び、少年の姿が露になる。その瞬間、岩澤は驚愕した。何故なら、そこに居たのは少年では無い、別の男だったからだ。

 男は、子供のような屈託の無い満面の笑みを浮かべている。だが、その顔は異様と言えた。何故なら、男には右目が無く、ぽっかりとした深い闇の空洞があったからだ。

「お、お前は……」

 岩澤は、その顔に見覚えがあった。

 岩澤の脳裏に数週間前の出来事が蘇る。

 奴は突然自分の前に現れ、霧島への復讐に力を貸してくれると言った。そして、このタリスマンを与えてくれたのだ。俺は、このタリスマンの霊を操れる力を使い、女どもを拉致し犯行を繰り返してきた。だが、何故こいつが今この場所に居るんだ? この場所の所在など、こいつには教えていないはずだ。

「もう十分楽しんだでしょ? だから、そろそろそれを返してもらおうと思ってさ」

 不気味な笑みを浮かべながら、男が少しずつ岩澤に歩み寄って来る。

 横たわる死体から、白い何かが男の右目の穴に吸い込まれて行く。それは、まるで男の顔に存在するブラックホールに、死体から抜け出した魂が吸い込まれているようだった。

 その異様な光景を見ながら、岩澤は震えていた。本能が告げている。目の前に居る男が、この世の物ではない危険な存在である事を。

 男は、すぐ目の前まで迫っていた。だが、岩澤は恐怖でその場から動けない。

「でもね、ただって訳にはいかないんだ。代償をちゃんと払ってもらわないとね……」

「だ、代償だと?」

 男が、身動きの取れない岩澤の体をガッシリと掴む。

「あなたの、魂さ」

 男の口元が、裂けんばかりにニィと邪悪に歪む。

 岩澤はその手から逃れようとするが、人間とは思えない力で捕まれ動く事が出来ない。

「お、お前は……何者だ? 人間じゃ無いのか?」

「僕? 僕は唯の彼の友達だよ」

 そう言うと同時に、男の顔がまるで食虫植物のようにバカッと勢いよく上下に開いた。

 その姿を見た岩澤は、あまりの恐怖に絶叫した。


「今の声は?」

 ロッカーの中で身を潜めていた内田の耳に、ビル内に響き渡る断末魔の叫び声が聞こえてきた。

 ……やっぱり、私一人だけこんな所に隠れているなんて出来ないわ。

 内田は意を決すると、力任せにロッカーの中から思いっきり扉を蹴った。すると、扉はド派手な音を立てあっけなく開いた。

 ロッカーから出た内田は、慌てて部屋の外に飛び出す。

「何処にいるの!」

 暫く廊下を走っていると、暗闇の中で一人佇む少年の後姿を見つけた。

 良かった、無事だったのね……。

 ホッと安堵のため息をついた内田は、少年に声をかけようとした。だが、少年の異様な雰囲気に気がつき、声を押し殺す。

 少年の周りには複数の顔無し死体が倒れていた。その死体からは、白い煙のようなものが湧き出している。それらは、少年の顔に向かって吸い込まれていた。

「……何をしているの?」

 恐る恐る内田が少年に声をかける。

 少年は背を向けたまま何も答えず、その場に立ち尽くしている。

「ねぇ、あいつは?」

 少年は黙って床を指差した。そこには、岩澤が着ていた服と靴だけが残されていた。

 突如人が消え、服と靴だけがその場に残されている。その異様な現状に、内田の背中に悪寒が走った。

「あなた……、この人に何をしたの?」

 恐る恐る内田が尋ねる。

「……僕は何もしていない。僕が来た時には、すでにこの状態だったんだ」

 少年がゆっくりと振り向く。

 その顔を見た内田は、驚愕の表情を浮かべた。

「あなた、やっぱりその目……」

 少年の顔には、右目が無かった。そこには、窪んで光の無い空洞と、狂気に満ちて爛々と光る左目があった。

「後少しだ……。後少しで、この契約も終わる」

「……契約?」

 少年の口元に邪悪な笑みが浮かぶ。

「そうだ、あいつと契約を結んでからもうすぐ一年。この忌まわしい目とも、おさらばさ」

 突然、少年は気が触れたかのように高笑いをし始めた。

 内田は、そんな少年を何か恐ろしい物を見るかのように見つめている。

 暗いビルの中で、少年の笑い声だけがいつまでも響き渡っていた。


――第四章 レザーフェイス事件 完

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