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少年A  作者: 優斗
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Chapter 3

 人気の無い寂しい街を一人歩く。

 夜の繁華街として有名なこの区域は、平日の夜になると仕事帰りのサラリーマンや客引きの人間、キャバクラ嬢など、多くの人々が行き交う活気のある場所だった。だがその反面、日曜日になると人の足がパタリと無くなり、まるでゴーストタウンのように寂しくなる。しかも、今は早朝と言うこともあってか、辺りを見渡しても人っ子一人見当たらない。居るのは生ゴミを漁る腹を空かせた野良犬ぐらいだ。

 暫く歩くと目的のビルの前まで到着した。

 その雑居ビルは、去年に取り壊しが決まって以来、ずっと放置されている無人のビルだった。ビルの入り口にはシャッターが降りており、中には入れそうも無い。

 内田は路地裏に回ると、すぐさまそのビルの非常階段を発見し躊躇無く登り始めた。少年もそれに続く。

 階段を登る度、彼女は各階の非常口のドアノブを捻った。そして、七階まで辿り着いた時、ドアノブがガチャリと開いた。

 内田は少年に振り向くと、ニヤリと妖しい笑みを見せる。

 少年は呆れた顔で、やれやれと首を振った。

 ビル内は、恐ろしい程の静寂に包まれていた。周囲は薄暗く、電気が通っていないため、頼りになるのは窓から差し込む外からの光だけ。しかも、今日はあいにくの天気の為、ビルの中はより一層薄暗い。光の届かない通路の奥は真の闇に包まれていた。

 少年は注意深く辺りを見渡す。

 ……見られているな。

 射る様な鋭い視線を感じた少年は、チラリと通路の奥を見た。そこには、深い闇の中から少年を見つめる二つの眼球がうっすらと見える。少年は、気付かれないようにゆっくりと視線を逸らした。

「無人のビルって気味が悪いわね。何かが出そうだわ……」

 そう言って、内田が少年に寄り添い腕を掴んできた。だが、その顔には笑みが浮かんでいる。きっと、こんな場所に二人っきりと言うシチュエーションを楽しんでいるのだろう。

 少年は彼女の腕をやんわりと引き離すと、深い闇へと続く通路の奥に向かった。

「ねぇ、何処へ行くの?」

「彼女が呼んでいる」

 ポツリと呟き、少年は先へと進んだ。慌てて内田が少年の後を追いかける。

「ねぇ、彼女って?」

 歩きながら、少年は無言で通路の先を指差した。その場所は、暗闇に包まれており何も見えない。だが、彼には見えている。苦悶の表情をした女の首が。女は、顎が外れたかのように大きく口を開け、少年を呼んでいた。

 ようやく彼が何かを見えている事に気がついた内田は、ゴクリと唾を飲み込むと、先程よりも強く少年の腕を掴んだ。

 ぼんやりと光る女の首を頼りに、暗い通路を手探りで進んで行く。すると、一番奥の突き当たりに扉が見えてきた。その通路は、光が一切差し込まない作りになっているのに、何故かその扉だけは、ぼんやりと緑色に光っている。女の首は、その扉の奥に溶け込むように消えて行った。

 その場に立ち止まり、少年は錆び付いた鉄製の扉を見据えながら内田に尋ねた。

「どうする? きっとこの先に行けば、君はまた新たな事件に巻き込まれることになる。引き返すなら今の内だ」

 その言葉に、ムッとした表情を見せた内田は、少年の胸に指を突立てた。

「あんたね、私を誰だと思っているの? こう見えても、私はオカルト研究会の部長よ。事件に巻き込まれるのが怖くて、部長が務まるものですか」

――バン!

 その時、何かがぶつかったような音が辺りに響き渡った。

 突然の音に、内田はビクリとし慌てて振り返る。

――バン! バン!

 その音は、扉の奥から聞こえていた。

 内田は、ニヤリと不敵な笑みを見せた。

「……面白いじゃない。この私を誘っているのね」

 そう言うやいなや、内田は扉に向かって駆け出すと、そのままの勢いで扉を開け部屋に飛び込んだ。そして、その直後に彼女の悲鳴がビル内に響き渡った。

 やれやれ、また見つけてしまったか……。

 溜息混じりに部屋の前まで歩み寄った少年は、ドアノブを掴みゆっくりと扉を開く。

 まず、少年がその部屋に入って最初に思った感想は『赤い』だった。

 部屋の奥には、真っ赤な血で染まった窓ガラスが一面に広がっている。その窓には、何匹もの鴉の死体が張り付いていた。

 見ると、上空を飛び回っている鴉達が、まるで窓を突き破ろうとしているかのように、無謀な突進を繰り返している。先程から聞こえていたあの音は、鴉が窓にぶつかる音だったのだ。

 薄暗い部屋を見渡すと、部屋の中央でへたり込んでいる内田を発見した。その前には、横たわる女の姿があった。女はピクリとも動かない。遠目から見ても、女が死んでいるのは明らかだった。何故なら、女には人として足りない部分があったからだ。

 少年は内田の側まで歩み寄る。内田は、呆然とした様子で目の前の死体を見つめていた。

「この死体、どう思う?」

 少年が内田に尋ねると、彼女はゆっくりと振り向き、精気の無い瞳で少年を見つめた。

「どう思うって……そんなの見れば分かるじゃない」

 震えた声で内田が答える。

「レザーフェイス事件。あの事件が再び動き出したのよ」

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