Chapter 7
夜になり、少年は調べた住所を頼りに例の女生徒の家の前まで来ていた。
彼は確信していた。彼女がこの一連の事件の犯人である事を。
電車に轢かれ死んだ女生徒、そして今日トラックに轢かれ死んだ女生徒は、彼女と行動を共にしていた同じグループの友人である事を、その後の聞き込み調査で少年は知った。彼女が、何故同じグループの仲間を殺すのか、その理由は定かでは無い。だが、このグループにはもう一人の女生徒がおり、恐らく彼女は遅かれ早かれその子も殺すつもりだろう。
ドアの前まで来た少年は、チャイムに向かって指を伸ばそうとした。だが、その動きが一瞬止まる。
人が死ぬ瞬間を見たい。少年の望みは、ただそれだけだった。別に彼女の犯行を止める気なんてさらさら無いし、むしろこれからも犯行を繰り返してくれた方が、少年にとっては都合が良いのだ。だが、少年の後ろに控えた彼女が、それを許してくれそうに無い。
「ホラ、何をモタモタしているのよ。早く、チャイムを押してよ。彼女と話し合って、これ以上の犯行を繰り返さないよう説得しなくちゃ」
少年は疲れた顔で振り返る。
「説得って……僕が?」
「他に誰がいるって言うのよ」
ギロリと内田が少年を睨みつける。
少年は、ハァと深い溜息をついた。
今まで散々人を殺してきた人間が、そう簡単に説得に応じる訳が無い。そういった類の人間は、良心といったものが欠如しており、一般的な常識や道徳と言ったものが理解できない人種なのだ。そんな頭のネジが飛んでいる人間に、内田は説得を試みろと言う。
やはり、自分と彼女は違う人種なんだと、少年は改めて実感する。とは言え、このままこの場所に突っ立っていても拉致があかない。
快楽殺人者と面と向かって話をしてみるのも、それはそれで面白いかもしれないな。
最終的に少年はそう結論付けると、ゆっくりとチャイムを押した。
呼び鈴の音が鳴り響き、暫くすると彼女の母親らしき人物が出てきた。
「……どちら様?」
少年は、自分が彼女の友達である事を母親に告げた。
女学院に通う娘に男友達が尋ねてくる事に、母親は不信感を頂いたようだった。訝しげな目で少年をまるで品定めをするかのようにジロジロと見つめている。
だが少年は、自分は彼女とサークルで知り合い仲良くなった事、先日彼女が忘れ物をしたから届けに来た事をでっちあげ、言葉巧みに説明した。
最初は疑ってかかっていた母親だが、少年の話術にすっかり騙され、五分もしないうちに警戒の態度を解いていた。だが、目的の彼女は用事があると言ってつい先程家を出たばかりとの事だった。
「ねぇ、もしかして彼女の言う用事って……」
内田が不安げな表情で少年に尋ねる。
少年は頷いた。
「ああ、間違いない。彼女は、残ったもう一人も殺すつもりだ」