Chapter 5
月曜日の放課後、足早に学校を出た少年は駅へと向かった。
改札を出て電車に乗った少年は、この駅から七つ離れた急行の止まらない駅で降りた。
駅を出て人通りのまばらな商店街を抜けると、白樺が並ぶ坂道が見えてくる。美しいその並木道は、ホームページでも紹介されていた場所だ。
坂道を登る途中、下校する数人の女生徒達とすれ違う。生徒達は、いずれもあの時見た少女と同じ制服を着ていた。
「私立一之瀬女学院ねぇ。こんなお嬢様学校に通う生徒が、本当にあんな事件を起こしていたのかしら? にわかには信じられないわ」
少年の背後で内田が呟く。だが少年はそんな内田の考えとは正反対に、自分の考えが間違っていない事を確信していた。何故なら、学校へ一歩近づくたび、ドス黒い邪悪な負のオーラが強くなっていく事をその肌で感じていたからだ。
人は、人である事をやめた時、このオーラを纏う事が出来る。人を超える一線、それは、人を物として捉える事が出来るかどうかだ。増岡、辻、いずれもこれと同じオーラを纏っていた。
坂道を登りきり、少し歩いた所に交差点が見えた。その目の前には、大きな門を構えた建物がある。それこそが私立一之瀬女学院だった。
「さて、目的の場所についたのはいいけど、例の女生徒はどうやって見つければいいのかしら?」
キョロキョロと辺りを見回す内田。
少年はスッと交差点に向かって指を指した。
「あそこにいるよ」
「え?」
内田が振り向いたその瞬間、パンと乾いた音と共に、何かが赤く弾け飛ぶのがその目に飛び込んできた。
一瞬、何が起きたのか内田は分からなかった。ただ、真っ赤な花が咲き乱れたように見えたその光景は、とても美しいものに見えた。
ピンと張り詰めた空気と共に、恐ろしいほどの静寂がその場に突然訪れた。そして、次の瞬間、女生徒たちの悲鳴が辺りに鳴り響いた。
現場は一瞬にして騒然となった。そんな中、少年だけは冷静に一点だけを見つめている。その視線の先には、二人の女生徒が呆然と佇んでいるのが見えた。
「ああああああああああああっ!」
そのうちの一人が突然奇声を発した。返り血をまともに浴びた血まみれのその女生徒は、半狂乱になりながら物凄い形相でこちらに走ってくる。
まるでモーゼの十戒のように開いていく道を駆け抜け、そのままその女生徒は少年の脇を駆け抜けて行った。
だが、少年は微動だにせず、相変わらず一点を見つめている。その先には、二人の姿があった。一人は、その場に残された女生徒。そしてもう一人は、以前あの駅で見かけたサラリーマンの姿だった。