Chapter 4
あれから二日経った月曜日の朝。
体育館で急遽開かれた朝の全校集会で、私は法子の死を知った。
法子はホームから転落した所を電車に巻き込まれ即死したらしい。きっと、死体は見るも無残な姿だったに違いない。
周りから法子の死にすすり泣く声が聞こえてくる。その中に真由美の姿もあった。
私はチラリと後ろを見た。私が立っている場所から少し離れた所に慶子の姿が見える。だが、慶子は泣いていなかった。それどころか、険しい表情で私を睨みつけているのだ。私は慌てて前に向き直った。
放課後になり、私は真由美と慶子に呼び出され、人気の無い体育館の裏庭にいた。
「ちょっと! これはどう言う事よ!」
物凄い剣幕で慶子が私に携帯を突きつける。そこには、昨日の夜に私に送られてきた物と同じ、驚愕の表情を浮かべた法子の姿が写っていた。
「どうと言われても……」
「とぼけないで! あなた、法子といたでしょ! なんで法子が電車に跳ねられなくちゃいけないのよ! 何か知っているんでしょ!」
「そ、そうよ! 法子が誤ってホームに落ちるなんて考えられない。一体この時、何が起きたって言うのよ!」
慶子と真由美に攻め立てられ、私はタジタジになる。
私は、あの時ある物を見た。そして、昨日法子からのメールが届いた時、それをハッキリと思い出した。だが、それはあまりにも現実離れした話だ。その事を言った所で、果たしてこの二人は私の話を信じてくれるだろうか……?
二人は険しい表情で私を睨みつけている。このまま黙っていては余計な誤解を招いてしまうかもしれない。私は、あの時見た事をそのまま伝える事にした。
「……あの時、法子は今回のターゲットを物色していたの。そして、私の手を掴み山手線ゲームを強要したわ。嫌がった私は、その手を振り解いた……」
ピクリと慶子の眉が引きつる。
「まさか、その拍子に法子を突き飛ばした訳じゃないでしょうね!」
お互いの唇が触れそうになるくらい顔を近づけ、慶子は私を睨みつけた。私はブルブルと首を振った。
「ち、違うわ! 私じゃないわよ! それに私、あの時見たのよ!」
「見たって、何を?」
真由美が首をかしげる。
一呼吸おいて、私はゆっくりと説明した。
「法子の手を振り解いた瞬間、私はホームの下から伸びる白い手を見たの。そして、その手に法子は引きずリこまれたのよ! 見間違いなんかじゃないわ!」
私の言葉に、二人は唖然とした表情を浮かべた。
「ば、馬鹿馬鹿しい! それがあんたの答えってワケ? そんな事、私たちが信じるとでも?」
「でも、だったら何故、法子の画像が法子から送られてくるの? おかしいじゃない、法子の携帯は彼女が持っていたハズよ? 落ちる瞬間に自分で自分を撮って送信したとでも言うの?」
「そ、それは……」
慶子が言葉に詰まる。
そうよ……そうだわ、そうに違いない……。
私は、昨日から考えていた事を頭の中で反芻する。
そう、私は見た。ホームの下から伸びるあの白い手を。あれは、この世のものでは決してなかった。あの手に引きずり込まれ、法子は電車に轢かれたのだ。
「……和美?」
ブツブツと呟く私に、真由美と慶子が訝しげな表情を浮かべている。私は、ゆっくりと首をもたげると、彼女達を見つめた。
「そうよ。あの画像は、あなたたちに殺された人たちの怨念が撮ったものに違いないわ。法子は、その怨念に引きずりこまれ殺されたのよ」
その時、私は一体どんな顔をしていたのだろうか。真由美と和美は、まるでこの世の物では無いものを見つめるような目で私を見ていた。
「気をつけなさい、次はあなたたちが狙われる番かもしれないわよ」
二人に向かって、私は法子の画像を突きつけた。二人は顔面蒼白になって佇んでいる。
「いや……いや……いやああああああっ!」
その時、突然真由美が顔を抑えて叫びだした。そして、そのまま私たちを置いて駆け出した。
「真由美!」
私と慶子は慌ててその後を追った。
「真由美、待ってよ真由美!」
校門を出て、目の前の横断歩道を真由美が渡ろうとした所で、私たちは追いついた。
「離して! 離してよ!」
「落ち着いてよ真由美! いきなりどうしたって言うのよ!」
真由美は半狂乱になりながら、首を激しく縦に横に振っている。
「もういや! 私帰る! 家に帰る! 帰ったらもう二度と外に出ないから! だって、次は私達の番よ、私達も法子みたいに殺されるのよ!」
「ば、馬鹿言ってるんじゃないわ! あんなデタラメな話、あなた信じるとでも言うの?」
「だって、さっき私見たのよ! 和美の後ろに佇む青白い顔をした男の姿を!」
「なっ……」
真由美の言葉に、慶子が言葉を失う。
「あれは、前に慶子が殺したサラリーマンよ! 私、見覚えあるもの! 離してよ! 私は死にたくない!」
真由美が乱暴に慶子の手を振り解いた、その時だった。
真由美の体が、まるで後ろに引き寄せられるように不自然に動いた。そして、そのままよろめきながら車道に飛び出した真由美は、猛スピードでやってきたトラックに跳ね飛ばされた。
まるでスローモーションで再生しているかのように、目の前で真由美の体が花火のように弾け飛ぶ。四方に飛び散る真由美の手足や内臓。そして、べチャリとそれらは地面に撒き散らされた。ゴロリと転がった真由美の首は、その後にやってきた車に潰され原型を無くした。
「あ、あ、あ……」
真由美の返り血をまともに浴びた慶子は、カタカタと震えながらその場に佇んでいる。
私は慶子の肩に、そっと手を置いた。
「ほら、また死んじゃった……。次は、あなたの番かしら?」
「あああああああああっ!」
私の手を振りほどき、体中を真っ赤に染め上げた慶子が奇声を発しながら走っていく。
道行く人は、何か恐ろしいものを見るような目つきで、慌てて道をあけていた。
私は、走り去る慶子の背中を見つめていた。
そうよ、あの二人は死んでも仕方ない事をしたのよ……。きっとこれは、殺された人たちの呪いのせいなのよ……。