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少年A  作者: 優斗
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Chapter 3

「なかなか見ごたえがあったわね」

 興奮冷めやらぬ内田は、息を荒くして先程の駅で見た事故現場の様子を語っている。

 そんな内田の向かいの席で、少年は目の前にある牛肉のステーキをナイフで切り分けていた。

 あれから、少年は近くのファミレスで遅めの昼食をとっていた。

 目の前で起きた飛込み自殺。そして、その現場に居た中年サラリーマンの霊。

 まさか、こんな作戦で本当に行き当たるとはね……。

 肉を口に運びながら、少年は毎度のごとく霊を引き寄せてしまう、内田の謎の能力に感心していた。

「それにしても、よくあなた、あんな事があった直後に肉料理なんて食べられるわね」

「そう? 美味しいよこの肉。一口どう?」

 少年は、牛肉の突き刺さったフォークを内田に向けた。

 ミディアムレアで焼いた肉から、ポタリと赤い肉汁がしたたり落ちる。それを見た内田は、口元を押さえ嫌そうな顔を見せた。

「いや、いい。遠慮しておく……」

「残念。美味しいのに」

 少年は大きく口をあけると、美味しそうに肉を頬張った。

「で、やっぱりそのサラリーマンの霊が今回の被害者を殺したの?」

「ああ、それは間違いない。奴がホーム下から彼女を引きずり込んだのを、僕はこの目で確かに見たからね」

 食事を終え、少年はナプキンで口元を拭くと、テーブルの上にノートパソコンを広げた。

「じゃあ、奴がこの一連の事件の犯人なのね。罪もない人間を殺すなんて許せないわ。絶対に退治しなくちゃ」

「いや、そう考えるのは早計だよ」

「どうしてさ」

 首をかしげる内田に、少年は意味ありげな笑みを浮かべた。

「僕は、犯人は別にいると考えているんだ」

 少年の言葉に、内田は目を丸くした。

「犯人が別にいる? それってどう言う……」

 内田の言葉を遮り、少年は三本の指を目の前に突立てた。

「理由は大きく分けて三つある」

「でたわね。いつもの三本指が」

 ニヤニヤしながら茶々を入れる内田に、少年はコホンと咳払いをした。

「一つは、この事件が急行の駅ばかりを狙って行われている事。確かに霊には心もあるし、考える事も出来る。だが、あのサラリーマンの霊は明らかに様子がおかしかった」

「様子がおかしい?」

 少年が頷く。

「ああ。あれは、完全に自我を失っている浮遊霊だった。恐らく、もうまともな思考はできていないに違いない。なのに、急行が止まる駅ばかりで犯行を繰り返すのは、あまりにも計画的過ぎるんだよ。無差別殺人を犯すなら、別に急行の駅だけを狙わなくてもいいはずだろ?」

 内田は眉をひそめると、額に指を当てた。

「自我を失っているのに、計画的に人を殺している……。それって、前みたいに霊が他の誰かに操られているって事?」

 少年は頷くと、パソコンの画面を内田に向けた。画面には、表計算ソフトで作られたリストが表示されていた。

「これは?」

「この事件の、日付、時刻、場所、そして被害者の名前をリスト化したものさ。この方が色々調べるのに便利だろうと思ってね」

「へぇ~。いつの間にこんなもの作っていたの? さすが我がオカルト研究会の諜報部員。仕事が早いわね」

 感心した様子で、内田はパソコンの画面を覗き込む。

「えーっと何々? 十月二日、PM六時三十二分、G駅、ハギハラツトム、十月二日、PM六時四十五分、S駅、オノテルマサ、十月二日、PM七時五分、H駅、ミノワキョウコ。ふーん、確かに見やすくまとまっているわね」

「それだけ?」

「他に何かあるの?」

 きょとんとする内田に、少年は呆れた顔を見せた。

「大アリだよ。この事件には、ある一定の法則がある。それはこのリストを見ればあきらかだ。そして、それこそが二つ目の理由でもあるんだけど……。どう? ここまで言っても分からないかい?」

「んー。十月七日、PM五時二十一分、K駅、モリシンヤ、十月七日、PM五時三十三分、U駅、ハラダヨウコ、十月七日、PM五時三十四分、T駅、スズキヒロシ……分からない」

 内田の残念な返答に、少年はハァと疲れた溜息を吐いた。

「いいかい? 今月に入ってからの飛び込み自殺件数は確かに十五件だけど、事件が起きた日は五日間だけなんだ。そして、時刻には多少のずれはあるけど、それはほぼ同時刻に三箇所で犯行は行われている。これが何を意味するのか。それは……」

「ま、待って! 何かが見えてきたわ! それって、つまり……」

 内田は腕を組むと、険しい表情を浮かべ唸り始めた。オカルト研究会の部長として、ここは答えておかないと示しがつかない。

「……そうか。犯行は、一人じゃ無理って事ね!」

 肯定の笑みを浮かべ、少年が頷く。

「そう、同時刻に三箇所で犯行が行われていると言う事は、犯人は一人じゃなく、少なくとも三人以上である可能性が高い」

「なるほど。そうなると、ますますあの霊だけじゃなく、第三者が他にいる可能性が高くなるってわけね」

 内田は感心した様子で、うんうんと頷いた。

「で、最後の理由は?」

 内田の問いに、少年は自分の目を指差した。

「僕は、この目で見たんだよ」

「見た? 一体、何を?」

「決まっているじゃないか。霊を操っていた犯人だよ」

 少年の言葉に、内田は目を見開き驚いた。

 あの時、野次馬に紛れ散乱死体ばかり気にしていた内田は気がつかなかったかもしれないが、少年は見ていたのだ。多数の野次馬が事故現場に殺到するなか、まるでその場から逃げ出すように反対側の電車に駆け込んだ少女の姿を。そして、少女を乗せた電車が発車すると同時に、霊の姿も消えた。恐らく、あの少女が霊を操っていたに違いない。

 それに、少年には他にも彼女が犯人だと裏付けるもう一つの理由があった。それは、この事件が起きている犯行時刻だった。今まで起きた飛び込み自殺は、全て平日の午後五時以降に発生している。あの少女は学生服を着ていた。学校が終わった放課後にこの事件を引き起こしていたと考えれば、この犯行時刻にも説明がつく。

 だが、腑に落ちない点もある。何故、あんな年端も行かない少女がこのような凶行を繰り返しているのだろうか? 理由は? その目的は?

 考えるより早く、少年はパソコンのキーボードを叩いていた。

 逃げ出した少女の制服には見覚えがある。あれは、この市でも有名な女学院のものだ。そこに行けば、この事件の真相が明らかになるかもしれない。

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