Chapter 2
あれからどのくらい経ったのだろうか。私は携帯の着信音で目が覚めた。
そこは自宅のベッドの上だった。いつの間に自分は家に戻っていたのだろう……。
眠たい目を擦りながら、私は枕元に転がっていた携帯をたぐりよせ、ゆっくりと開いた。そこには、三通のメールが届いていた。
最初のメールは真由美、次は慶子、そして最後は法子からだった。その内容は分かっている。きっと、今日行われた狩りの結果報告に違いない。
憂鬱な気持ちになりながら、私はまず真由美のメールから開いた。そこには、ホームに落ち行くOLらしき女性の後姿の画像が添付されており、表情を撮れなかった事を悔やむ内容の文が書かれていた。
私は震える手で、続けて慶子のメールを開く。最初に目に飛び込んできたのは、題名の『大漁!』と言う文字。そして、凄い人だかりが出来ている場面の画像だった。なんでも、周囲の人間を巻き込んでしまい、ホームに何人か落ちて大惨事になった、人だかりが多すぎて肝心の落ちた人間は写せなかった、などと書いてあった。
二人のメールを見た直後、私は急に気分が悪くなった。
吐き気を催した私は、すぐさまトイレに駆け込んだ。だが、いくら吐いても胃液しか出ない事から、私は今日一日何も食べていない事に今更ながら気がつく。彼女達が昼のランチでハンバーガーを美味しそうに食べていた時も、憂鬱な私は何も食べる事が出来なかったのだ。
「こんな事、絶対にやめさせなくちゃ……」
トイレから出た私は、ベッドの上に投げ出された携帯を手に取った。残りは、法子からのメール。あの後、法子は一体誰を狩ったのだろう……。
私の脳裏に、ホーム際で佇む少年と、以前慶子から送られてきたサラリーマンの画像が蘇りシンクロした。
法子の手で突き落とされた少年は、自分の身に何が起きたのか理解する前に、電車に巻き込まれ四肢をバラバラに引き裂かれる。慶子、真由美、法子は、線路に撒き散らされた少年の残骸を見て笑っている。そして、彼女達の後ろには、一緒になって笑っている自分の姿があった。
「私は違う!」
私は、携帯を乱暴に放り投げると布団を頭からかぶった。
私は違う。私はこんな事したくないんだ。私は、彼女達を止めるためにあのグループに入ったんだ。そう、この手で彼女達を……。
暫く経ったのち、私は携帯を手繰り寄せると、恐る恐る法子からのメールを開いた。
そのメールには、題名も文も書かれていなかった。あるのは一枚の画像だけ。
その画像を見た私は、一瞬困惑した。
法子がこの画像を撮ったのなら、それが法子から送られてくるのはおかしい。何故なら、そこに写っていたのは、驚愕の表情を浮かべてホームに落ちていく法子自身の姿だったからだ。