第十八話「雲を晴らす烈日」
城内部中央広間。
氷結により蒼白の空間へと変貌していた。
そしてそこには今も尚氷結の侵食を絶え間なく続ける者。
侵食に抗う二つの黎明が戦っていた。
玲央と豊は炎での加速を活かした連撃を繰り出すもウルターナの防御にいなされ続けていた。
「速度、威力共に優秀ですが、絡め手がないのは残念ですね。
技がない」
ウルターナが人差し指を上げると接近していた豊の足を氷の蔓が掴み壁へ投げ飛ばした。
大した一撃じゃない。
豊もすぐに復帰するだろう。
でも、このまま攻めてもこっちが先に潰れる。
「相性はこっちが勝ってるはずなのに…」
特訓のおかげで付与〈エンチャント〉の精度は大きく上がった。
でも俺はみんなほど成果が大きいわけじゃない。
暗い思考に埋も玲央の視界が狭くなっていく。
そこへウルターナの十を超える氷槍が襲い来る。
「玲央避けろ!」
「!」
なんとか避けれたそう思った先にはさらなる一手が待っていた。
氷の双腕が玲央を捕縛する。
まずい奴の氷には呪いが…
「その氷を解かすのに一体どれほどの時間がかかるんでしょうね?」
「ウルターナ…
王の命繋の儀になぜ協力する」
「私はあの方の側近ですから。
理由というより私はあの方のそばにいるのが使命ですので。
共に歩まなければでしょう?」
玲央の思考が固まる
今何つった?
俺は協力の理由を聞いたはずだ。
それなのに帰ってきた答えが、使命だから共に歩むだと?
「お前も、儀式を行っているんだな」
「ええ、あの方の傍にはいつ私がいなくてはなりませんので」
そんな理由で子供の未来を、命を奪っていいのか!
この心が許してならないと言っている。
でも怒りに任せて力を振るっても精彩を欠いて負ける。
シン、また俺、に勇気をくれ。
「俺にも、ついていきたい奴がいる。
一緒に、隣に並んで歩きたい奴がいる。
そいつは自分をしっかり持ってて、いつだって初めて会った時も俺に道を示してくれた。
だから俺はあいつは示した道を照らしてやりたい。
暗い顔した人たちを明るい笑顔にしてあげたい」
それが、俺があいつから貰った信念。
あいつの在り方に憧れた俺が目指す在り方。
急激に玲央の火力が上昇していく。
より眩い光を纏い捕縛を砕き天井を駆け上がる。
「俺こそが暗雲を晴らし希望を照らす、烈日だ!」
「玲央…」
玲央の成長。
その意思の輝きに答えるように彼の炎が形を成す。
収束する炎はより膨大な熱を放ち小さな日輪を創り出した。
「光大輪 烈日」
「炎の球体?
いったい何を…」
小さな太陽はその光を散らばらせ炎の弾幕を展開した。
瞬く間に広間全体を飲み込む。
広間を見下ろす玲央のもとに遅れて飛翔した豊が到着する。
「当たるとこだったぞ玲央!」
「そこまで深い怪我じゃなかっただろ」
「はあ。それにしてもこれまだ消えてないってことは打ち続けられるのか?」
「俺の意志に答える。
これで手数で圧倒しながら戦える」
攻撃を終えても光が弱まらない魔法。
これが広間にある間。
玲央の意志に答え追撃を続ける。
弾幕の爆撃による煙が晴れた広間には氷のドームだけが残っていた。
「いやはや中々の範囲攻撃。
土壇場の成長というものですね」
「いくぞ豊」
「おう」
二人はウルターナへ向かい急降下をしそれとは別に烈日の炎が放たれる。
あたり相手なら難なく防げていたが、正確に自身の死角から襲ってくる炎に苦しくなっていった。
そして玲央の一撃がウルターナに届いた。
「太陽華」
剣先に集まる炎がエリミアから授かった剣によりさらなる力を帯び放たれる。
放たれた炎の渦がウルターナを吹き飛ばす。
部屋の冷気がなくなってきてる。
ウルターナが魔法の操作を一瞬手放した。
確実にダメージは入ってる。
「さすがに三つの攻撃を防ぎきるのは難儀ですね。
お遊びはここまで、もう退場してもらって結構です」
ウルターナの付近にまだ氷が残っている。
魔法の操作を手放したんじゃないのか?
いや、さらに冷気が強くなってる。
周囲の冷気を集めたのか!
「冥府の門者 クライオヒュドラ」
氷が膨れ上がり竜の形へと変わっていく。
三つの首、逸話のヒュドラを完璧に移すには至らずともその魔法の強大さは玲央と豊の目には理解できた。
でかすぎる…
20mはあるぞ!?
玲央の烈日でもどうにもできない。
あれを搔い潜ってウルターナに攻撃を届かせるしか…
「奴が見当たらない…
豊!
少し任せる」
「わかった」
玲央は魔力探知を使い竜に隠れたウルターナを探る。
豊は玲央に攻撃が向かないよう竜の気を引きに接近する。
竜の動きは一つ一つが大きくそして重かった。
竜の体が壁に床に当たる度広間は大きく揺れた。
その猛攻を掻い潜り竜の意識を完全に豊へ向けたところで玲央は竜の隙間から感知したウルターナの居場所へ向かう。
さっきの魔力探知から奴はヒュドラの後ろに氷の壁を創って籠ってる。
そんな卑怯な勝ち方させるか!
「あった」
玲央は裏に回ることに成功しヒュドラの後ろ扉の近くに氷の球体を見つけた。
あれだな氷のドーム。
かなり壁は厚そうだけど、この高さからなら叩き壊せる。
玲央は剣を高々と掲げ高さを利用した急降下の一撃をぶつけった。
氷の壁は破壊し中に潜むウルターナへ間もなく一撃を入れた。
「何!?」
しかし、そこにいた。
いやあったウルターナは氷でできた造物だった。
本体を探し後ろに振り向いた瞬間。
冷たい痛みが玲央の背中を貫いた。
「お前、どこから
ぐふっ」
「横の壁を二層にしておいたんですよ。
あなたの行動を予想してね」
くそっ。
烈日で攻撃してから行くべきだったんだ。
焦って早まった…
でも、ただじゃやられない!
「照らせ、烈日…」
玲央の詠唱に反応し烈日がさらに凝縮されていく。
凝縮し続ける光に耐え切れなくなった器は崩れ一筋の巨光をもたらした。
その一撃は竜の竜の首を断ち胸を貫いた。
「玲央!」
「最後の足搔きですか。
いいでしょう。
彼一人程度私だけでどうにかできます」
玲央がやられた。
ヒュドラに隠れてうまく見えなかった。
でもこれで、俺とあいつの一対一。
「友愛 アドミニストレータ アナリシス」
模倣を切り替えながら戦えばあいつが俺の動きになれることはない。
友愛の効果は模倣だけじゃない。
俺を信じる人たちの数俺の能力に補正が入る。
ガントレットが届くゼロ距離先頭にさえ持ち込めば魔法職に相手に負けない。
「さあ彼の仇を打ってみなさい」
ウルターナは手を払い生成した氷の槍を打ち出す。
この程度アナリシスの予見があれば当たらない。
氷の槍を難なく捌きウルターナへ一撃を決める。
とはならず、その一撃は再び壁に防がれた。
「この壁を破ればければその攻撃、一度も届きませんよ」
「くっ」
壁に何度も攻撃はできず、その場にとどまれば攻撃の的になることは避けれない。
このままじゃ俺は奴にとってただのお遊びで終わる。
再び距離を取り思考を巡らせる。
いや、ここには今俺とあいつだけなのに、何を抑えてるんだ。
「そうか、今は抑えなくていいんだ」
「何を言っているのです?」
その質問に答えるより先に豊はウルターナへとびかかった。
その爆発的速度に壁の生成が間に合わずとっさに杖で受けた。
「この速度と威力は!?」
「アドミニストレータの能力値分配だよ。
バフと予見以外の技は見たことないけど理論上できると思ってたんだ」
なんだこの男。
突然戦闘のレベルが上がった。
この豹変ぶり人が変わったようだ。
豊を弾き距離を取る。
「元々の俺がこんな感じだよ。
この自分でいるときにいい思い出がなかったんだ」
「生きやすくするために自分を偽ると。
私から考えればそれは逆に生きづらいのでは?」
自分を偽り続ければ友人や恋人ができても本当の自分を見ることはない。
あいつはそう言いたいんだろう。
「構わないよ。
どれだけ自分を偽っても本当の俺を見つけてくれる人に出会えたから」
アドミニストレータの能力分配はうまくいった。
次にやるならあれだね。
「再構築」
ずきんと響くような痛みが頭に走る。
シンはこんな魔法をあんな平然と使ってるのか…
やっぱすごいな。
また別の魔法…
あの男一体いくつ魔法を持っている!?
次は油断しない接近する間もなく殺す。
「生者を誘え 門者は門を開き死の輝きで魅了せよ」
冥府の門者 暗澹たる手」
詠唱とともに唱えられた魔法の発動。
ウルターナの背後に氷の門が現れた。
門はゆっくりと開きその中からいくつもの氷の腕が豊へ放たれた。
あまり速度はない。
でも避けないとまずいな…
氷腕が出す異様な魔力を危険と感じよけようと駆けだす。
しかし体は思うように動かず当たりかけるがよろけたことが功を奏し一撃目は回避できた。
「門から流れ出る呪いが感覚を奪っていく…
さあ次はどうです!」
氷腕の連撃は止まらない。
呪いによる感覚の鈍化でうまく体が動かない豊はすぐにつかまってしまう。
「先ほどの魔法は打てずに終わりましたね。
このまま呪いに体を侵されあなたの体は脳と別離する」
その恐ろしい宣告は静かに豊の死へのカウントダウンを始めさせた。
しかし、状況にそぐわないにやけ顔で豊は言葉を零す。
「馬鹿がもう打ってんだよ」
あまりに小さいその言葉はウルターナに届かなかった。
油断しきったウルターナは小さな弾丸に右足と左肩を打ち抜かれた。
「ぐっ。
どこから!
誰が!」
肩を打ち抜かれ杖を手放す。
痛みに気を取られ豊の拘束が解除される。
まずい、魔法が!
ウルターナの頭が追い付いていないこの一瞬を豊は見逃さない。
鈍った感覚を最大限研ぎ澄まし最後の力を込めた拳に魔力を込める。
「光大輪 付与エンチャント 剣舞」
杖を手放した今ウルターナはとっさに最大級の氷壁を創り出す。
このままでは…
負ける!
そうだ、もう一人を人質に。
思考を巡らせるウルターナの背後から轟音が鳴り響く。
「無駄ですよ。
それはあなたの炎で解かせるほど柔くない」
ウルターナの言葉を遮り氷壁が破られる。
なぜ敗れた!?
火力が上がった?
そんなことはない!
急激な成長があったとしてもここまでではない。
なら一体!
疑問に答えるが如く豊の付与が解けその炎が消える。
しかしその中にさらなる付与がなされていた。
「再構築 世写の四肢」
二つの魔法の同時模倣発動。
どちらの魔法も精度低下はあるもののどちらかを解けばその制度は元に戻る。
一つしか扱えないというブラフを張り続けた豊の切り札。
氷壁を破壊した勢いそのままにその拳はウルターナの顔を捕らえ空中に吹っ飛ばした。
意識が…まだだ!
まだ私の負けでは!
「やれ、玲央」
吹き飛ばされたウルターナの背後、そこには傷を自らの炎で焼いた玲央がいた。
玲央は剣を構えただそこに相手が来るのを待っていた。
この男私の氷をくらったはず。
しかも直接呪いを流したというのになぜ動ける!?
玲央本にですら知らない魔法の特性があった。
朝陽の炎は他の炎とは違い神聖力をもっている。
彼の魔法発動中呪い等の力は一切効果がなくなる。
「黄昏」
朦朧とする意識の中でその一撃ををウルターナへとぶつけた。
痛みを力と変え最後の炎で落ちる太陽のように暗雲を叩きつけた。
「これで、おわ、りだ」
そう言い残し玲央は倒れた。
呪いの影響を受けた朝陽も玲央のもとへ向かおうとするも意識を呪い手中に落としていった。
その場にいた全員が倒れ戦いの終わりを告げたはずの静寂は一人の男に壊された。
「まだ、負けていない…」
玲央の一撃をくらって尚その意識を保ち二人の命を刈ろうと魔法を振り下ろそうとした。
しかし、氷は砕かれ一人の少女が現れた。
「エリミア、様。
あなたは…」
「黙っていろ小僧」
エリミアは畏怖の権能を使いウルターナの意識を沈めた。
戦いの終わった広間に永年を生きる少女の歩む音がこだまする。
「私は見届けに来ただけだ。
あの子の姉として」
生跡魔法
・冥府の門者
呪いを持つ氷を操る
‣クライオヒュドラ 氷で創り出したヒュドラで質量攻撃をする
‣暗澹たる手 氷で創り出した門の中から無数の呪いを持った腕が攻撃をする
・光大輪
‣烈日 魔力を送ることで敵へ炎の弾を飛ばす
限界まで凝縮してから放つことで大きな光線を放つが魔法は消える