第十七話「闘争」
訓練所、そこは高い塀で囲われ数十の案山子、種類豊富な多数の武器、石を括り付けた鎖が置かれていた。
今、そんなすべてを蹂躙しながら三人の闘争が行われていた。
「貴様いいな!
その剣の腕どこで学んだ」
「お前の剣には品がないな」
「ぬかせ!」
自身のもつ巨躯をもって大剣を振り回す男。
レダート・アーレウスは目の前の自身より矮小である少女が、対等に剣を躱している事実に高揚してた。
その一方でレダートから距離を取り魔法での応戦を図る少年はレダートの眼中になかった。
戦況は拮抗、に見えるけど芽衣は押されてる。
バフを積んでいるのに…
違うだろ!
うだうだ考えるな飯田朝陽!
特訓で身に着けたすべてを思い出せ。
「芽衣、アシストは終わりだ。
僕も出る!」
「何を言ってる。
お前ではついていけない!」
芽衣の静止を無視しレダートへと走る朝陽。
その蛮勇ともとれる行動に恐帝は獲物を狩る獣になった。
「邪魔をするな小僧ぉ!」
「いいや邪魔するよ」
近接ができないと油断して放ったであろう大ぶりの剣。
それを難なく避けレダートの股をくぐり背中を蹴り飛ばす。
「効かんな」
「別にダメージ狙いじゃないしね。
条件は満たした。
アドミニストレータ アナリシス」
朝陽の目が青い微光を放つ。
クエスト時に覚醒させた力。
相手の行動の予備動作から行動を予測する魔法。
それは相手にとっては未来予知に等しく対策の仕様は捕捉できないほどの速度、もしくは範囲攻撃以外にない。
「何をするかと思えば所詮目が光る程度。
お前の戦い方にはまるど闘争が無い。
まったくもって愉悦を感じん」
「僕の遊戯の勝ち方は相手の邪魔をしながら自分のやりたいことをすること。
性に合ってるよ」
朝陽、いつの間にそんな魔法を。
だが動きが読めるだけでは勝ち筋にはならない。
手の内を探る時間は終わったか。
「彼岸装衣 彼岸の巫女」
黒い魔力が芽衣を包みその姿を変えていく。
月明かりに照らされた姿は美しく、そして得も言われぬ儚さに満ちていた。
すごいこれが芽衣の魔法。
身にまとう魔力が通常と異なるものに変化してる。
「朝陽、それで終わりではないだろう?
時間は稼ぐ準備しろ」
「ありがとう芽衣。
2分もらうよ」
朝陽の意志をくみ取った芽衣はレダートへかけていく。
魔法を発動した芽衣の動きは恐ろしく速く流れるようだった。
以前の手合わせで見つけた欠点を補い魔力操作の鍛錬、そして戦闘剣術の術を会得した。
「いいな小娘、
他には何ができるんだ!」
芽衣の峻剣とレダートの豪剣がぶつかり衝撃があたりを吹き荒らす。
芽衣の連撃を豪快ながrもしっかりと相手の動きを観察した剣さばきでレダートがさばき続ける。
しかし、攻撃の合間、突然レダートは剣を置き首に掛けたペンダントを握る。
「火星の恐帝」
その一言の後、直撃した刀はその刃をレダートの腕に止められていた。
言い方がややこしかっただろうか。
その肌は刃を通していなかった。
あまりの出来事に芽衣は即座に距離を取る。
この雰囲気、これがやつの魔法か。
武器のない場所での戦闘を想定して武器の破片をペンダントにしていたのか。
「それがなんだ!」
「だめだ芽衣!
奴はすべての能力が上昇してる」
「⁉」
「おそい!」
朝陽の言葉に硬直した一瞬、その好機をレダートは刈り取った。
振りかざされた拳に脅威を感じ刀を縦に受けようとした。
直撃を免れたと思った芽衣は血を吐き吹き飛ばされた。
崩れ落ちる壁の瓦礫が煙を上げる。
「芽衣!」
「大丈夫だ大したことない」
防いだのに直接食らったかのような衝撃が来た。
今のやつは空間ごと殴ったというのか。
「なんてでたらめな」
「どうしたもう終わりか」
まだダメージが残り起き上がれない芽衣に追い打ちの一撃を打ち込むレダート。
その一撃は壁を破壊し外の景色を露出させた。
手ごたえがない。
まさか、
「小僧か!」
とどめを刺し損ねたはずがその表情は嬉々として己の予想を超えた少年を歓迎していた。
その目の先には芽衣を抱える朝陽が立っていた。
「豊、なのか?」
「そうだよ芽衣。
立てる?」
「ああ」
あの一瞬で私を拾ってここまで離れたのか?
総量はあっても出力はさほどなかったはず。
何をしたんだ?
「レダート君は王の所業をどう考える」
「ああ、お前たちはそれを知っているのか。
俺は大した理由はない。
あれこそが王の強さその者だからだ」
「なに?」
「自身の願い、復讐、それを追い求めるがための乾くことなき闘争。
それが今のあの方にはある。
それがなくなってしまえばなんともつまらなくなるものだ」
王の中にある燃える心。
その炎にしか興味がないと言い切った。
その力だけに見初められたのだと。
その言葉に朝陽は理解しがたいものを感じていた。
自身の欲を満たすがためにあの所業を容認しているというのか!
「そのためには器の犠牲はいたしかないと?」
「そうだな。
強者の前に弱者は踏み台だ。
それが戦いだ」
その言葉で朝陽の怒りは限界を迎えた。
その怒りがあふれたより先に芽衣が激昂した。
「ふざけるな!
強者だから、弱者を無下に扱っていいわけではない!
己が欲のためだけに人の命を使うのを容認するだと!?
お前のような人間が私は一番嫌いだ!」
「芽衣…」
彼女と同じだ。
こんな奴に負けるわけにはいかない。
ここからは僕が成果を見せる番だ。
「アドミニストレータ 実行領域」
朝陽が開いた手のひらから数字が並ぶ空間が展開される。
その空間に入った瞬間、朝陽と自身の魔力が増大しているのを芽衣は感じた。
「これは、結界魔法か。
小僧貴様魔術師か」
「いや僕が魔法の援護に回ってたのは近接での戦闘ができるようになるまでの繋ぎみたいなものだよ。
ここからが僕の本領だ」
朝陽が足を地に振り下ろすと地面が崩壊した。
しかし崩れた地面はゆっくりと空中に浮か上がった。
「これが僕の結界の効果。
今この岩片一つ一つにこの空間内での速度低下を付与してる。
結界がなければ世界全体を効果範囲にするイメージになってやりづらかったけどこれのおかげで明確に範囲を絞れる」
「それがどうした。
たかが物体の速度をどうこうするだけのそれに何ができる」
いちいちその傲慢な態度。
イラつくな。
「何ができるか見せてあげるよ。
例えばこんな風に弾いてあげれば」
朝陽が軽く小突いた小さな石の球は与えられた力とは釣り合わない速度でレダートへ放たれた。
ぎりぎりで受け止めたレダートだがその腕には傷跡がついていた。
「傷が!?」
「小僧、これは速度だけではないな」
レダートは受け止めた崩れた石を見ながら朝陽の魔法を疑う。
朝陽の魔法の特殊さは芽衣から見ても明らかであった。
速度だけでは説明がつかない。
私の攻撃でも傷がつかなかったあの体が…
「その通り今のは攻撃力、速度、裂傷のバフを掛けた石の球だよ。
この結界は僕の与えた設定がそのまま現象として適応される」
「つまりここでの貴様は神だと?」
「そこまでじゃないよ。
人の動きに干渉はできないしね。
でもこんなのもできるよ」
そういい朝陽は深く踏み込み力いっぱいに地面をけると魔法を使った芽衣をも上回る速度で跳んで行った
朝陽に取り残されまいと残された芽衣も後を掛けた。
圧倒的な速度から繰り出される蹴りがレダートをガードの上からのけぞらせる。
「豊!
私も加勢する」
「それじゃあ芽衣、右を頼むよ!」
二手に分かれレダートへ猛攻を仕掛ける。
結界による魔法の練度上昇により戦闘をしながらの芽衣へのバフを施し芽衣の能力を引き上げる。
この猛攻にレダートは焦りを感じていた。
なんだ小娘の力も急に上昇した。
おそらくもとより魔法は掛けられていたのだろう。
だがこの結界内で再度発動することでさらなる効果を引き出した。
「面白い」
「何?」
不敵な笑みを浮かべたレダートは拳を地面に叩きつける。
その拳からは空間にひびが入り地面を大きく崩し揺らした。
その揺れに二人はバランスを崩してしまう。
レダートの攻撃は終わらず大剣を振り回し二人を吹き飛ばす。
「「がはっ」」
ぎりぎり間に合ったけどモロにくらいすぎた。
さっきまでの明らかにバフの範疇を超えた動きは僕の魔法による身体能力の操作による能力値の分配による効果だ。
とっさに僕と芽衣の身体能力を防御力にすべて返還したけど。
それがなければやられていたほどのダメージ。
「芽衣、立てる?」
「立たねば死ぬだろう」
レダートは僕たちがたつのを待ている。
まだあの目はさらなる闘争を求めてる。
望みに答えて次で決めてやる。
「芽衣、君は本気の一撃を構えて懐まで潜ってくれ。
一撃を入れる隙は、僕が切り開くよ」
「ああ、任せた」
芽衣が走り出すと同時にゼルネクシアで白煙を上げる。
芽衣の後を追い、槍に攻撃力、裂傷、雷撃を付与し白煙の中にいるレダートへ突っ込む。
芽衣がこの煙で姿を隠しているうちに僕が防御を削る。
朝陽が白煙から跳び出した瞬間レダートは即座に拳を打ちこんだ。
それを避け右わき腹から左肩へ切り裂くが傷が浅い。
でも装甲は薄くなってる。
予見に全神経を注ぎ攻撃をいなしながら何度も同じ位置へ攻撃をする。
ダメージは十分稼いだ。
ここで芽衣に渡す!
大きく飛び上がりフルスイングの槍を放つ。
槍の着弾と同時に刀を鞘に納め居合の体制をとった芽衣が槍に気を取られた死角へ入り込む。
身体の付与〈エンチャント〉をすべて刀に集めた一撃それを放とうとしたときレダートの瞳は芽衣へ向けられた。
「俺が姿を消したもう一人に警戒しないとでも。
甘い!
潰れて終われ小娘ぇ!」
槍に見向きもせず全力の拳が芽衣を叩き潰す。
その想定でその拳を放ったんだろうけど、遅すぎるよレダート。
レダートの動きはあまりに遅く拳が芽衣へ届くには五秒をようするほどだった。
「図ったな小僧!」
「やれ、芽衣」
明かさなかった手札。
相手へのデバフの付与。
それは魔力差による抵抗力で効き目が変わるものの一度攻撃を遅らせる程度は容易である。
致命の一撃を構えた相手を前にその隙は勝敗に直結する。
「居合 斜暁」
引き抜かれた紅い刃はレダートの胸を切り裂きその空に赤の花弁を散らした。
胸から流れる血を垂らしながらレダートは一歩また一歩と後ろに下がる。
自身の傷口を撫で手に着いた血を見て口角を上げ彼は言った。
「いい戦いだった」
そう言い残し地面に倒れる。
この男を確かに嫌いであった二人もその強さには敬意を表していた。
「朝陽、お前は戦いに対する思いが強くなったな」
「豊のおかげだよ」
莉亜のところの魔力が小さくなった。
そっちも終わったんだね。
城の中は、まだ荒れてるね。
「シン、君はこの戦いの先に何を起こすんだ」
生跡魔法
・アドミニストレータ
‣実行領域 朝陽の生跡魔法アドミニストレータを付与した結界
物理的現象のコントロールが可能
最大二つの現象まで
・彼岸装衣
一つの部位に他の付与を凝縮することができる
‣斜暁 その場にとどまり斜めに切る