第十三話「星剣」
今日もまた学園内の闘技場に轟音が響く
特訓期間終了まで残り一週間をきった。
俺は未だこの鎧兵と格闘している。
「くっそまた破壊できなかった。
どうすりゃいいんだ」
凝縮した魔力砲、体内爆発、質量攻撃、何を試しても完全な破壊には至らなかった。
段々思いつかなくなってきたな。
このまま思考をすり減らしても何も得られない。
そうならないように…
「今回で、完成させる」
修復が完了した鎧兵へ走り出す。
目覚めた鎧兵の一撃を躱し反の蹴り。
しかし、効かない
ずっと戦っていてこいつの硬さは身にしみてわかってる。
生半可な攻撃じゃ傷は入らないし単純な魔力の扱いをしても魔法のダメージを軽減する権能のせいで大したダメージは入らない。
奇を衒うことなく今までの積み重ねを出し切る。
「再構築」
距離をとるため魔法で弾き飛ばす。
これも効果なし。
鎧兵が槍を掲げる。
見慣れた予備動作だ。
もはや避けることにも慣れたしぎりぎりでかわしてみるか。
鎧兵はフルスイングで槍を投げる。
風を切る音が聞こえる中何かに気付く。
「速くないか?」
いつもより速!?
こいつも学習するのか?
避けれる速さではある。
ここまでの速度を何でいきなり。
…これは。
槍が首かすめる一瞬で見えた。
すさまじい回転が加えられている。
「これだ。
そうだ俺の作る粒子一つ一つに回転を加えれば破壊力は格段に上がる!」
思いついた技を試そうと粒子を指先に集める。
手のひらを銃のようにし粒子の回転に意識を集中させる。
粒子全体を一塊でとらえるな。
一つ一つが俺につながってる。
粒子が一つ、また一つと回転していく。
全ての粒子が回転したころにはなんとも輝かしい光を放つようになっていた。
「ここまで持っていくのも維持するのも難しい。
でも、」
指の先を鎧兵へ向け粒子の球を発射する。
回転による速度の上昇効果はすさまじく一瞬で鎧兵の腕に当たりその腕を千切り飛ばした。
「よし!
これならいける。
この技を高めていけば!」
それから俺の技の試行錯誤が始まった。
時間は昼下がり。
日差しがちょうどいい明るさで窓から差す。
そんな理想のようなティータイムをしながら学園の応接室でジオとエリミアが椅子に座ったまま沈黙を過ごしていた。
流石に静かすぎてつまらないのかジオが口を開いた。
「シンたちは順調かな?」
「本人たちがどう感じているかは知らんが成長はしている」
「それは良かった」
呑気なジオに溜息を吐きつつエリミアは紅茶を一口飲む。
カップから口を離したエリミアは以前の話を思い出しジオを睨みつける。
「そんなに怖い視線向けちゃって、まだ私は何もしていないよ?」
「まだ、だろう。
貴様に聞きたいことがあってな」
「おお、君から私になんて珍しいね」
「なぜシンに英雄の運命について話していない」
エリミアの質問にジオの顔から薄い笑顔が消える。
「話忘れたとか、話したらこの旅を止めるかもとかそんな理由じゃないよ。
私はね英雄を目指していない私が言っても彼はあんまり気に留めずに進むことを選ぶと思ってる。
だから英雄を目指している者、目指した者の言葉で彼に知って欲しいんだ」
紅茶の水面を見ながらジオは語る。
「彼の中で英雄は目指すべき夢であり、手段でもある。
その道の途中で死ぬかもしれない。
その覚悟はあると思う。
でもその夢の果てにさえ待っているのが死しかないのなら彼は何を思いどうするんだろうね」
シンという男はジオを強く惹きつけていた。
彼に期待しているのは僕だけじゃない。
彼の仲間や君だって彼に少なからず期待している。
「君から見てシンは英雄に足りる者だと思うかい?」
「まだまだ奴は荒いな。
だが、私はあの魂の輝きを知っている」
ジオが思った以上の答えが返ってきたことに驚く。
「何一つ穢れがないわけではない。
皆が夢見る純心を持っているわけではない。
それでも奴には人の、生き物の心を開く何かがある。
それは英雄にあらなくてはならないものだ。」
「随分肩入れしてるんだね」
「貴様ほどではない」
「それより貴様らはなぜこの国に来たんだ」
「ああ、そんなことか。
ここは中継地点のようなものだよ。
それなのに事件に首を突っ込んで時間をかけているから私としては早く終わらせたいってところなんだけどね」
「ここを中継地点にするということは…
エルメナスの封印墓所か」
「そ、最近見つかったって聞いてね。
ギルドの調査依頼も出そうだし、それにあそこには「アレ」がある」
世界樹に向かいながらの道でシンの英雄としての昇華を進める。
そのために必要なものがあそこにはある言うジオ。
「なるほど、奴の魔法なら役に立つな。
そろそろ時間だ私は失礼する」
エリミアはカップを置いて部屋を出る。
その足取りは少し上機嫌な気がした。
「さて、そろそろ君からも話を聞かないとね」
窓の方へ目をやる。
何もないはずの窓が静かに開く。
すると空間がねじ曲がり一人の女性が表れる。
「光魔法の屈折か。
中々やるね」
「気づかれたのは、初めてです」
そこにはファナドスに来た日シンにあの本を渡した彼女がいた。
エリミアも何かがいるのに気づいていて触れなかった。
いやジオが触れるのを待っていたがいつまでたっても触れないので自分が不要だと察し出ていったのだ。
「君がシンに本を渡した子だね
話は聞いてるよ」
「シン、彼はシンというのですね」
「早速だけど、君はなんでシンにあの本をファナドス建国時の代理副団長の手記を渡したんだい?」
「永遠を壊すためです」
怖気る様子もなく淡々と語る。
ローブを着ていて表情がよくわからないせいかあまり気持ちを読み取れない。
「永遠を壊すねえ。
何故シンを選んだ?」
「ファナドスには腕の経つ占い師がいます。
その方の占いに従い図書館へ行くと彼がいました。」
占い師か。
腕の経つって言ったら北西区にある店のことかな。
あの店は金はとる分しっかり当たるから信憑性は高かったかのか。
「でもなぜあなたがそこまでのことをするんです?
別に傍観していてもよかったではありませんか」
「それは…」
「父の過去を知ったのでしょう。
ファナドス第一王女コレー様」
正体がばれたことに驚き動揺が出る。
ファナドスの第一王女コレー・クリュメノス、才覚はすさまじく学園を魔法専攻で主席卒業。
そんな彼女は父の儀式に見て見ぬふりをしてきた。
だがある日父の部屋で開かれたままの手記を見た。
そこにあった父の幼き日の姿は今の父とかけ離れていた。
愚直に夢を追い穢れを知らない。
そんな父が呪いを受けて変わってしまった。
だから、誰でもいい。
父を止めてほしかった。
「知っていたのですね」
「私に認識阻害系の魔法は通用しませんよ
私の目にはただの王女にしか見えません」
「そ、そうですか」
隠せているものだと思っていたのだろう。
ものすごく動揺し顔を赤くしている。
しかしすぐ冷静になり赤面した顔を落ち着かせる。
「シン、さんは、永遠なんてないとそう言っていました。
永遠が実現したこの国で永遠を信じない者なんていないこの国で彼は永遠を否定したんです」
「確かにこの世界の人々は3500年続いたファナドスという国を永遠の国として認めているでしょうね」
「今も在りしものではなくあったはずのものに想いを馳せるのも美しいと彼は言いました。
私は彼だと思ったんです。
父の果て無き夢への道のりを終わらせて欲しい。
父の永遠の旅を終わらせて欲しいんです。
父がこれ以上魔に身を落とし続けるのを見ていられません」
彼女の頬に涙が流れる。
悲しいねファグナ。
君の行いは本当に正しいのか。
僕は君の心に従い傍観を貫いてきたよ。
でも、もう時間だ。
「あと数日で城へ奇襲をかける手はずです。
私は手を出しませんが、あの子たちなら大丈夫でしょう」
「そう、ですか。
ありがとうございます」
感情を露わにしたせいでずれたフードを直し顔を下げる。
「それでは近衛兵に怪しまれてしまいますので私はここで」
「ええお気をつけて」
再び認識阻害の魔法を掛け窓から降りた。
君たちの旅もここまでかファグナ、ドリアス。
ジオとエリミアの茶会から数刻が過ぎ日が暮れ星が見え始めた夜。
誰もいない学園内から上がった轟音は敷地内すべてに響いた。
「やっとだぞ。
くそ鎧が…」
体の半分以上が無くなった鎧がきしむ音を立てながら倒れる。
その後ろには地面と壁を抉り、吹き飛ばした後が刻み込まれている。
今の一撃で剣がズタズタだ。
でも、この技があれば。
「いける」
「完成したな」
「エリミア。
見てたのか」
俺の後ろの観客席からエリミアが降りてくる。
「どうだ、お前に言われた通り一撃で破壊したぞ」
「ああよくやった。
そこでシン、お前にこれを渡そうと思う」
そういったエリミアが杖で地面を小突くと一本の剣が出てきた
鞘だけで分かるこれはふつうの剣ではない。
かなり精巧に作られたように見える。
「これ、もらっていいのか?」
「ああお前のために引っ張りだしてきたからな」
エリミアが受け取れと前に出した剣を手に取る。
重い!
でもいい重さだ。
しっかりと重さを感じつつも振りやすい。
「抜いて見てみろ」
鞘から剣をだす。
吸い込まれそうなほどの輝きを放つ水色の刃がまるで星空が中にあるかのように天上の星々を映し出す。
柄の中心にある星が空の光を一身に浴び本物の星のような輝きを見せる。
「星の剣、アストレーティアという」
「アストレーティア…
これは依然誰かが使っていたのか?」
俺の言葉にエリミアが動きを止める。
一瞬の沈黙の後エリミアは後ろを向き空に目を向ける。
「使用者はいない。
だが、それは私の妹が大事にしていたものだ」
「貰っていいものかわからなくなってきたぞ」
大事にしていた、というセリフとエリミアから漂う空気、妹はもう死んでしまっているのだろう。
いやエリミアの寿命についてこれる身内はいないのか。
妹の思い出を閉まっておくだけなのは嫌だったんだろうか。
「私と妹が初めてダンジョンに行き手に入れたのがその剣でな。
妹は剣を使えないがせめて思い出として残しておこうと手入れは欠かさなかった。
妹がいない今使えるものが使ってやる方が剣も喜ぶだろう」
エリミアの妹については何も知らないが、大事に思っていたのはわかる。
彼女の目に満ちる感情は親愛だ。
今も彼女の妹が横に立てていれば彼女は見た目にふさわしい笑顔をできていただろうか。
「ありがとう、エリミア」
この夜から三日後、俺たちの作戦は始まった。