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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
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2-2-1【The Inevitable Surprise】

朝の低い日差しがカエルウィスク邸の門前を照らし、磨き上げられた石畳に長い影を落としていた。アンは腕を組んだまま、遠く続く道をじっと見つめている。傍らにはオフィーリアがいつもの落ち着いた姿勢で立ち、わずかに面白がるような笑みを浮かべていた。


「あなた、ずいぶん乗り気じゃないのね。」

オフィーリアが静かに口を開く。


アンは大げさに目をむいて、露骨に嫌そうな顔をする。「最初からそう言ってるでしょ。」


オフィーリアは小さく息をつき、首を振った。「まあ、そう言わないで。今回の用事はお嬢様のためでもあるのよ。」


アンは唇を尖らせ、不機嫌そうに視線を横へそらす。「なんで私まで行かないといけないの。あそこのメイドども、ほんと大嫌い。待つのも嫌だし、礼儀作法のフリするのも嫌。ぺちゃくちゃ喋るのも聞きたくない。」


「あなたはカエルウィスク家のメイドでしょう。」

オフィーリアの声は落ち着いているが、その中には揺るぎない意志が感じられた。


「いいえ、私はベアトリス・アメリア・イザボーのメイドよ。それだけ。」

アンは鋭く反論し、視線をきつくする。


オフィーリアは半ばあきれたような笑みを浮かべ、「呼び方はともかく、あなたも同行することには変わりないわよ。それに、エドワードのせいじゃないからね。ニュースが流れるなんて、彼に予想できるわけないわ。」と語る。



アンはふんっと鼻を鳴らし、さらに腕を組み直す。「それでも彼の仕事でしょ。ノーサム家の子息が、お嬢様と同じクラスになるなんて。気づかなかった彼が悪い。」


オフィーリアは片眉を上げ、穏やかながらもはっきりした口調で返す。「エドワードがノーサム家の子息が同じクラスにいると気づいていたのは確かだけど、報道が出たのはその翌日よ。手の打ちようがないでしょう。」


二人の会話が続く中、車輪の音が石畳を叩く。アルバートの御す馬車が視界に入った。彼は馬を巧みに操りながらベアトリスを学院まで送り届けた帰りらしい。胸を張った姿勢と沈着な表情が印象的だ。


オフィーリアはアンに目をやり、口調を軽くして言う。「ねえ、退屈しのぎに競争でもしましょうか。」


アンは怪訝そうに目を細める。「競争?」


「もしあなたが勝ったら、会議室に直接入っていいわ。書類仕事やら他の使用人の相手は全部スキップ。どう?」

オフィーリアの声音には、からかうような響きがある。


アンは嫌そうに顔をしかめつつも、ほんの少し興味を示した。「勝てる気がしないけど……それって、要するにあの貴族メイド連中と関わらずに済むってことね。」


オフィーリアはわずかに目を輝かせながら頷く。「そうよ。ただし、あなたが汗一滴もかかずに、二十分以内に宮殿に着けば、という条件ね。」


「はあ?! 二十分? そりゃ無理でしょ……じゃあ、せめて二十五分にして。」

アンは思わず声を上げる。


オフィーリアはあくまで冷静だ。「二十分。戦闘メイドなら、約8〜9キロメートルを三十分で走れるわ。ハーティンガム宮殿までは約6キロメートルしかないのだから。」



オフィーリアはあくまで冷静だ。「二十分。戦闘メイドというものなら、三十分で八から九キロメートルを走れるのが基準よ。ハーティンガム宮殿までは六キロメートルほどしかないのだから。」


言い争う隙もなく、アルバートの馬車が門に止まる。アルバートは軽々と御者台から降り、アンの険しい表情を見て苦笑する。


「おやおや、お嬢ちゃん。ずいぶん殺気立った顔してるじゃないか。」


「うるさい、ジジイ。」

アンが即座に吐き捨てると、アルバートは肩をすくめて鼻で笑う。「まったく、あの双子ときたら。ワシが何したってんだ?」


オフィーリアはクスリと笑みを浮かべ、「今からアンと走るところよ。」と告げる。


アルバートは目を丸くしながら二人を見比べ、「走る? ま、あんまり無茶させんなよ。」と気遣うように言う。


アンはそれを聞くが早いか、柵へひらりと飛び乗り、「今だ!」と叫ぶと同時に近くの台を蹴って屋根へと跳躍した。



アルバートは感嘆の口笛を鳴らし、「ほんと今日はやる気みたいだな。」とつぶやく。


その横でオフィーリアに向き直り、「じゃあ、いつも通り後で迎えに来りゃいいのか?」と問いかける。


オフィーリアはアンが遠ざかっていくのを見やりつつ小さく頷く。「ええ、いつもと同じ時間で。」


アルバートは彼女の表情を確認し、「……アンをあんまり酷使しないでやんな。あの子、あなたほど頑丈じゃないんだし。」


オフィーリアはそれを聞いて口元をつり上げる。「なにを言うの? この子たちは、わたしが責任をもって育てたのよ。手加減なんてすると思う?」


アルバートは軽い笑い声を漏らし、「まったくだな。だが、昔と違って、あの子たちはあんたとは違うんだよ。」と返す。


オフィーリアは言葉にせずに微かな笑みだけを残し、身を翻した。次の瞬間には軽やかな宙返りの姿勢で屋根へ跳び移り、アンを追うように空へ舞う。アルバートはその後ろ姿が視界から消えるまで見送り、感慨深げにため息をついた。


「ああ……」馬車に寄りかかりながら、彼はぽつりと呟いた。「昔はよく動き回ったもんだな。」

視線は遠くに消えたオフィーリアの後を追い、その足音にかつての自分を重ねるように微笑む。

乾いた笑いを漏らし、首を軽く振る。「でもまあ……今じゃ歳を取って、怠け者になっちまったか。」

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