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「おい、坊主。お嬢様の隣に座る代わりにここにいるなら、何か話してみろよ。」
アルバートは口ひげを動かしながらそう言い、半分閉じた目を開いて彼をじっと見つめた。
エドワードは道を見つめたまま、ぼんやりとした表情で答えた。
「うるさい、じいさん。考え事してるんだ。」
アルバートは鼻を鳴らし、明らかに楽しんでいる様子だった。
「考え事だって?そりゃ便利な言い訳だな。」
彼はエドワードのいつもとは違う静けさに気付き、問いかけた。
「で、何をそんなに深刻に考えてるんだ?」
エドワードはトランス状態から抜け出すように目を向け、眉をひそめながら答えた。
「そうだ…どうやって誰かが俺のご主人様と二人きりで向き合っていられるのか、全然理解できない。」
アルバートは肩をすくめ、少しの興味を含んだ目で彼を見た。
「知らんな、人間だからできるんじゃないか?」
アルバートは笑いながら、エドワードの肩を軽く叩いた。
「で、本当は何が気になってるんだ、坊主?」
エドワードの表情は真剣になり、両手を組んで考え込むような姿勢になった。
「…俺は気づいたんだ。召使いは学校の敷地内で主人に付き添うことが許されないって。」
アルバートは眉をひそめ、話半分で聞き流すように答えた。
「ほう、本当か?」
「もちろんだ。お嬢様が学食のスイーツのことを知る前から、俺はこの事実を知っていた。」
エドワードは重々しい声で言った。
「ほう…スイーツね。」
アルバートは興味なさげに繰り返した。
「だが今日は…お嬢様が俺に、これほどの恵みを授けてくださった。」
エドワードは敬虔なトーンで続けた。
「朝からあの可愛らしい表情を見せてくださって…俺ですら重要な情報を見逃すほど魅了されてしまった。」
「…重要、だな?」
アルバートは適当に相槌を打った。
「当然だ!重要に決まってるだろ!」
エドワードは突然アルバートの肩を掴み、半分居眠りしていた男を目覚めさせた。
「おい!落ち着け、坊主!」
アルバートは文句を言いながらも、目を覚ました。
「それで、そんなに大事な話ってのは何だ?」
エドワードは深く息を吸い込み、どこか遠い目をしながらつぶやいた。
「それは…俺は常にお嬢様の側にいなければならないということだ。」
アルバートは困惑した様子で目をしばたたいた。
「で、それは何のためだ?」
エドワードは同情するような笑みを浮かべ、アルバートの肩を軽く叩いた。
「本当に好奇心旺盛なじいさんだな。」
彼は一瞬間をおいてから、まるで壮大な物語を語るように言った。
「よし、9年前から話を始めよう…」
「いや…そういう話が聞きたいわけじゃない…」
アルバートはため息をつき、エドワードの策略に引っかかったことに気づいた。
エドワードは姿勢を正し、語り手のようなトーンで話し始めた。
「それは雨の夜、貴族の華やかな集まりで…」
その頃、馬車の中では、外での壮大な物語には気づかずに、ベアトリスが笑顔の練習を続けていた。
彼女は真剣な集中を見せながら表情を調整し、流れる街の景色を静かに眺めていた。