1-31-3
執事服の男はわずかに首をかしげ、その笑みを鋭くした。
「いいじゃないか、憎めばいい。」
その声は冷徹な鋭さを帯びているのに、不思議と軽やかだ。
「俺も嫌いだ。ほら、共通点ができたな。」
ベルは息を呑み、目を見開いて彼を見つめる。不意をつかれたようだった。
「あなたも…彼女を嫌っているの?」
男は肩をすくめ、血と埃に汚れた手袋を軽く払う。「何が気に食わないかって?あの完璧な金髪のドリルヘア、尊大な態度、そして貴族たちが彼女に夢中になる様子だ。」彼の声には嘲笑が滲んでいる。「お嬢様が同じ部屋にいるというのに、誰も目を向けようとしない。王家の方々がそこに揃っているというのに、注目を集めるのはあの作り物の人形だけなんてな。苛立たしいとは思わないか?お嬢様の笑顔の方が、ずっと誠実だというのに。」
ベルは微かな笑みを浮かべ、「そう…ベアトリスの笑顔は本当に温かい…」と小さく呟く。その声には、彼女が思い出した優しい表情への憧憬がにじんでいた。
男は鋭い視線をわずかに和らげ、「だが、それでドロテアが上とか下とか決まるわけじゃない。」と続ける。「ただ、周囲が求める『型』に合っているというだけだ。」
その言葉は素っ気ないが、不思議な重みがあった。ベルの中で渦巻いていた混乱する思考を、かすかに支える杭のように感じられた。彼女の淡い笑顔は消え、視線が落ち、再び不安が胸に広がる。しかし男は黙ったままで終わらせない。その鋭い眼差しを逸らさず、はっきりと言い放つ。
「比べるのをやめろ。おまえはここにいる。その事実に意味がある。奴らがどう思おうと関係ない。」
ベルの唇には、皮肉げな、しかし弱々しい笑みが引きつった。まるで自分自身の弱さを嘲笑うかのようだった。
男の言葉が胸に突き刺さり、ベルは微かに身を震わせる。胸の奥にはまだ緊張が張り詰めていた。彼女は頭を振り、涙が滲み始める。
「でも、みんな私を嫌ってる。貴族も、学生も、私がここにいることを許してくれない。今回のことだって……」
震える手は宙をさまよったが、何も掴めず、力なく膝へと落ちる。「こんなの、私には大きすぎる…耐えられない…」
男は立ち上がり、散らばった短剣の一つを帯に差し込みながら、手袋の埃を払う。その動作は落ち着いており、声も変わらず静かだった。「それでいい。嫌われておけ。」
振り向き、鋭い視線でベルを見据える。「奴らの感情はおまえには操作できないが、おまえがどう動くかはおまえ次第だ。見返してやれ。それが最良の報復だ。」
ベルは息を詰まらせ、その言葉を反芻する。心の中はまだ嵐だが、彼の言葉は奇妙な力を持って響く。「どうやって…自分を信じられないのに…」
その瞬間、内側で何かが壊れるような感覚が走る。ベルの目に涙が溢れ、頬を伝う。必死に堪えようとしても、止まらない。恥ずかしそうに顔をそらし、震える手がスカートを掴むが、感情の奔流は止められない。
男はすぐには答えず、血で汚れた手袋を静かに外す。丁寧に畳んでポケットにしまうと、別のポケットから白いハンカチを取り出す。その刺繍は微かに光を受け、赤い薔薇二輪が両脇に、中央に一輪の白い薔薇が咲くように描かれていた。彼は無言でそれを差し出す。
ベルは揺れる視線でハンカチに目を落とす。血と混乱の只中で、あまりにも繊細で清らかな意匠が目を引く。それはまるで、荒れ狂う感情の海に浮かぶ小さな島だった。
男は静かに、しかし確信を込めた声で言う。「関係ない。お嬢様がおまえを信じている。それで充分だ。お嬢様の判断を信じる俺にとって、おまえを信じる理由はそれで足りる。」
震える指先がためらいがちに伸び、ハンカチに触れる。ゆっくりとそれを受け取ると、ベルはそれを壊れ物のように大切に握り締めた。
時が止まったような瞬間が過ぎ、ベルはそのハンカチを胸に抱える。その中には、失いかけていたわずかな勇気が宿るような気がした。今朝、一人で泣いたときは、寒い空気だけが頬に触れた。だが、今は違う。このハンカチが、誰かが信じてくれる証であり、支えであると感じられた。
涙を拭う動作は、ただの行為ではなかった。それは、孤独ではないという確かな印だった。ベルはハンカチに縫われた薔薇の輝きを見つめ、執事服の男の揺るがぬ存在を感じながら、胸の重みが少しだけ軽くなるのを感じた。呼吸を続けることを思い出したように、静かに息を吐く。




