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教授は静かな狂気を宿した目でベルを見つめている。噴水の向こうで、暗色のローブの金色の装飾が冷たい光を反射する。その精巧な文様は、この荒れた中庭には不釣り合いなほど繊細だった。
「な……何を言ってるの…?」ベルは声を震わせ、胸の苦しみを抑えようとする。
教授は微笑を深め、ゆっくりと一歩を踏み出す。靴底が砕けた石にかすれる音がやけに耳につく。「そうさ、君はただの名目上の存在。形ばかりの称号で飾られただけ。それがどう終わるか…わかっているだろう?」
ベルは息を詰まらせる。「そんな…!」
「嘘だと?」教授は優しい声で遮る。その声音は不自然なまでに慈悲深く、しかし底には氷のような冷たさが流れている。「ならば聞かせてくれ、セインツ・スカラーさん。君は何を為し得た?この称号に相応しい偉業でもあるのか?」
視界がかすむ。甘い匂いが頭を鈍らせ、思考を濁らせる。「わ、わたしは…」
教授は頭を傾げ、哀れむような眼差しを向ける。「知性か?選ばれたという事実か?そんなものは都合のいい飾りに過ぎないのだよ。君はただ、必要な場所に配置された駒。特別でも何でもない。」
その言葉はベルの胸を鋭く突き刺し、足元が揺らぐ。
「ドロテア・カエルウィスク――本物のセインツ・スカラーを目の前にしても、君は今と同じ顔をしていられるかな?」
教授は微笑みを崩さず、声に冷ややかな毒を滲ませる。
「自分がその舞台に立つ資格があると、まるで王族と肩を並べるほどだと――そう思っているのかい?」
「ド…ドロテア…」
その名は氷のように鋭く、冷たく、ベルの胸を打ち抜いた。
頭の中にはあの息苦しい舞台裏が蘇る――
重く冷えた空気、幕の向こうから微かに漏れ聞こえる不愉快なオーケストラの音。
あの音楽が、どれほど憎かっただろう。
明るく陽気な旋律が、失敗を嘲笑うように響き渡っていた。
そして彼女の脳裏に焼き付くのは、ドロテアの冷たく揺るぎない視線。
その緑の瞳は、ベルを見据えながら静かに断じていた。
――お前は無価値だ。
その視線はまるで、ベルが舞台の闇に映るただの影だと告げるようで。
同じ廊下を歩き、同じ空気を吸っている――それだけで、ベルの心は石のように重く沈み込んだ。
教授は小さく笑い、その声は遠くで木霊するようだ。「君は本当に、その称号に値すると思うかい?」
ベルはかすれ声で「う…」と呻き、視界が揺らめく。膝が震え、立っているのがやっとだ。
教授はローブの内側に手を滑らせる。「感じるかい?ゆっくりと回る毒が、君の疑念と同調するように体を蝕んでいることを。」その声は甘く、しかし残酷で、ベルの意識を侵していく。「偽物のセインツ・スカラーよ。その重さを味わえ。」
ベルは浅く息を吸い、手で胸を押さえ込む。世界が斜めに傾き、甘ったるい香りが肺を満たす。視界は影の万華鏡のようにゆがむ。
「安心するがいい、毒は致命的ではない。」教授は穏やかに言い、ローブの下から光る刃を取り出した。その刃は闇色を帯び、鈍く光っている。「だが、この短剣が終わりを告げる。」
刃先は鈍く輝き、ベルの前でゆっくりと動く。もはや逃げる力もない。膝が崩れ、身体の力が抜け落ちていく。
しかし、その瞬間――影が一閃する。硬い音が辺りに響き、教授の刃が何かに弾かれた。ベルの意識が暗転する中、白い手袋、粗削りな棒のようなものが一瞬映る。それが守りの盾となり、稲妻のように鋼を叩き割ったのだ。
そして、ベルの視界は黒に染まる。




