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エドワードが庭に出ると、サロンからドアまでの距離が
朝の光の中で柔らかく照らされていた。
彼はこの位置から、まだアメリアと話しているベアトリスの姿が見えた。
屋敷内の騒動には気づかず、二人の会話は和やかに続いていた。
ベアトリスの笑い声が彼に届き、彼女がアメリアの贈り物に喜んでいる様子が明らかだった。
彼は姿勢を正し、ジャケットを整えて喉を軽く鳴らした。
「これが俺の見せ場だ。」
そう呟きながら、エドワードは廊下を歩き始めた。
少しだけ感じていたアメリアへの嫉妬心は消え、
その代わりに静かな誇りが胸に芽生えていた。
ドアにたどり着いたエドワードは、深呼吸をして心を整えた。
そしてドアノブに手をかけ、それをゆっくりと開けた。
ベアトリスは振り返り、彼の姿を見ると目を輝かせた。
「エドワード!」
彼女は暖かい笑顔で彼を迎えた。
「準備はできている?」
エドワードはうやうやしく頷き、軽く身をかがめた。
「馬車はすでにお待ちしております、お嬢様。」
彼は腕を差し出し、ベアトリスはその肘に手をそっと添えた。
彼の安定した存在感に、自信を得たような様子だった。
二人が馬車に向かって歩き出すと、
エドワードは最後に屋敷の方を振り返った。
二階の窓際で、アンがその様子を見つめていた。
彼女の手には小さな羽ぼうきが握られており、窓を掃除しているようだった。
しかし彼女の口には、ベアトリスが使ったティーカップがしっかりと挟まれていた。
その表情は、真剣な集中とどこか静かな執着が入り混じっていた。
その光景を目にしたオフェリアは、アンの肩に軽く手を置いた。
「いずれ、お嬢様と一緒に過ごせる時間も増えますよ。」
彼女は優しく励ますように言った。
「さあ、作業に戻りましょう。」
アンは不満げに唸りながらも、しぶしぶオフェリアの指示に従った。
視線は馬車が遠ざかるのを追い続けながら。
やがて、彼女は小さくため息をついた。
そしてティーカップを口にくわえたまま、 muffled な声で呟いた。
「いつか…いつかきっと…お嬢様…」
その言葉には、ドラマチックな切なさがこもっていた。
二人の女性が静かにその場を片付け始めると、
朝の喧騒が嘘のように、屋敷は日常のリズムを取り戻していった。
そして庭から漂うバラの香りが、
この壁の外に広がる世界を若きベアトリスにそっと告げるようだった。