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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 1
6/176

1-2-2

エドワードは紅茶を一口飲み、満足そうに息をついた。

「三日間姿を消して、何か大きな贈り物を持って帰ったら、

うまくいくかな?」


彼は半分冗談めかしてそう言ったが、

どこか本気の色が混じっていた。


アンはカップを持ちながらにやりと笑った。

「三日?三年、いや三十年試してみてよ。」


「きっとベアトリスお嬢様は、あなたの不在を嘆いて、

再会の時には涙を流すわ。」


彼女は紅茶をゆっくりと飲みながら言い、さらに続けた。

「心配しないで、私は毎日お嬢様の傍にいて、彼女を孤独にさせないわよ。」


エドワードは軽く舌打ちをし、むすっとした表情を浮かべた。

「誘惑的だな…でもお嬢様の注意がなくなったら生きていけない。」


彼は窓越しにベアトリスの姿を眺めながら、口を尖らせた。

「それに、彼女には俺の方がもっと必要だろう。」


二人の口論は、柔らかく落ち着いた声で中断された。

「ちょうどいいわね。」


二人が振り返ると、

そこには穏やかな笑みを浮かべたオフェリアが立っていた。


彼女は完璧なメイドの姿そのもので、

小さな丸眼鏡を鼻先にかけ、

灰色の髪はきっちりとまとめられている。


彼女のメイド服はアンのものより控えめで、

裾が床を擦るほど長いスカートが特徴的だった。


その静かな佇まいとは裏腹に、彼女には突然現れる特技があり、

そのせいで双子はたびたび不意を突かれていた。


「エドワード、お嬢様に馬車が準備できていることをお伝えし、

学校までお付き添いください。」


彼女の柔らかな言葉には、微かながら確かな権威が宿っていた。


二人は顔を見合わせ、一瞬のうちに言い争いをやめた。


オフェリアの静かでありながらも堂々とした存在感が、

彼らの反抗心を抑え込んでしまうのだ。


アンは目を細め、弟をちらりと見やった。

その動きは狡猾で計算されていた。


彼女はトレイに置かれたバターナイフを素早く掴むと、

微笑みを浮かべながら言った。


「エドワードは少し…具合が悪そうですね。

代わりに私が行ってもよろしいでしょうか?」


その言葉を終える前に、アンの手は勢いよく動き出した。

ナイフは光を反射しながら、エドワードの首元に向かって一直線に飛んでいく。


その動きはあまりにも速く、目で追うことすら難しかった。


エドワードは反射的にトレイを掴み、その場で盾として構えた。

バターナイフはトレイに突き刺さり、エドワードの喉からほんの数センチ離れたところで止まった。


彼は目を瞬き、握りしめたティーカップを手放すことなく、トレイを盾として維持していた。


オフェリアは軽く咳払いをし、微笑みを崩さずに言った。

「まあまあ、テーブルウェアで争う必要はありませんよ。」


その声は柔らかかったが、そこにはどこか抑えがたい威厳が漂っていた。


エドワードは息を整えながら、トレイを下ろして苦々しく言った。

「確かにな、特にこんな鋭利なもので争うのは良くない。」


アンはトレイに突き刺さったナイフを軽く叩き、平然と言い返した。

「バターナイフは鋭利じゃないわよ。安全のために鈍い作りになってるんだから。」


エドワードは眉を上げ、トレイに刺さったナイフを指差した。

「鈍い、だと?これが?」


オフェリアは静かに手を叩き、二人の注意を引きつけた。

「さあさあ、エドワード。馬車はすでに外で待機しています。

ベアトリスお嬢様の初めての学校の日を遅刻させるわけにはいきませんよ。」


彼女はドアの方を示し、目元には微かな楽しげな光が宿っていた。


エドワードは笑顔を取り戻し、勢いよく頷いた。

「了解です、オフェリア様!」


彼はまるで重要任務を与えられたかのような態度で、

大きな扉に向かって足早に歩き始めた。


しかし、ドアの近くで立ち止まり、

アンの方を振り返りながら、ニヤリと笑みを浮かべた。


そして、軽やかな手の動きでトレイごとナイフを投げつけた。


トレイはアンの頭上をかすめ、危うく直撃を免れた。


オフェリアはそのトレイを片手で優雅にキャッチし、

微笑みを浮かべながら言った。

「さて、アン。あなたは年上の兄妹でしょう?

子供のように拗ねるのは見苦しいですよ。」


アンは頬を膨らませながら、不満そうに紅茶を飲み続けた。

「拗ねてないわ。」


彼女はカップの縁に口をつけ、少しずつその温かさを楽しんでいる様子だった。


オフェリアはため息をつきながらも、穏やかな笑みを浮かべた。

「さあ、片付けを済ませましょう。今日はまだ始まったばかりですからね。」


その声には、双子の奇妙な行動を理解しつつ、受け入れるような優しさが感じられた。


アンは自由な手で軽く敬礼をして答えた。

「了解、オフェリア様。」


彼女の口はカップにつけたまま、言葉がやや不明瞭だったが、

その様子は明らかにお嬢様への深い愛情を示していた。

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