1-20-1【Her Smile, Once More】
ベアトリスは静かに座りながら、再び右隣の二席先にいる少女に目を向けた。その優雅な動きは、静まり返った教室の中でも際立っていた。扇子をゆっくりとあおぐ一つ一つの仕草に、どこか計算された上品さが感じられる。その扇子には金色の牡丹模様が描かれており、柔らかな光を受けてかすかに輝いていた。その美しさに、ベアトリスは思わず目を奪われた。
好奇心に負けたベアトリスは、つい口を開いた。
「その扇子……とても美しいですね。」
彼女は小声でそう声をかけた。
少し間を置きながら、再び扇子を開き、優雅に動かし始めた。その扇子には華夏の象徴である牡丹の花が刺繍されており、金色の刺繍糸が柔らかな光を受けて繊細に輝いた。まるで咲き誇る牡丹の花びらが風に揺れているような印象を与える品だった。
「華夏の最高職人による品なのじゃ。」少女は静かに答えた。
少し間を置きながら、再び扇子を開き、優雅に動かし始めた。金色の刺繍糸が光を受けて繊細な生地を輝かせる。
「この扇子は、叔父上が別れの際に授けてくださった大切なものなのじゃ。」彼女の声にはどこか温かさがにじんでいた。
彼女は視線を扇子に落とし、一瞬考え込むように動きを止めた。
「わらわの故郷でも名の知れた職人の作じゃが……」少女は顔を上げ、静かな微笑を浮かべる。「叔父上の心遣いがなければ、このような贈り物を手にすることは叶わなかったじゃろうな。」
「華夏……」ベアトリスはその異国の響きを慎重に口にし、繰り返した。その顔が少し明るくなり、思い出したように声を弾ませる。「美人の国、ですよね?」
少女の扇子が動きを止め、鋭かったその瞳が少しだけ和らいだ。彼女はしばらくベアトリスを見つめ、驚いたように微かに眉を上げた。
「その意味を知っているのか?」少女の声にはほんの少しの意外さが混ざっていた。
ベアトリスは頷き、頬をわずかに赤らめた。
「本で読んだことがあるんです。執事の一人が教えてくれました。それ以来、ずっと興味がある国なんです。」
少女の口元に、わずかな微笑が浮かんだ。だが、それもすぐに消えた。
「ここでそれを知っている者は少ないのじゃ。」彼女の声は静かだが、どこか重みがあった。「ほとんどは華夏ではなく、『カタイ』と呼ぶのじゃ。簡単な名前じゃな。教えられたままの言葉を超えて見る気がない者にはな。」
「カタイ……」ベアトリスはその言葉を繰り返し、わずかに否定的な口調で続けた。「華夏ほどの優雅さを感じられないですね。なんだか……その土地の本当の姿とは違う気がします。」
少女は首を少し傾け、目に薄い楽しさの光を浮かべた。「そなたは言葉の選び方が上手いのじゃな。」その声は一見無表情ながら、微かに称賛の色を含んでいた。「『華夏』を正しく使う者は珍しいのじゃ。そなたのような貴族以外は、『カタイ』の方が地図に合うとか、簡単だとか言い訳するばかりじゃ。」
ベアトリスは少し間を置き、机の端に指先を触れながら言葉を継いだ。
「執事から、その文化についても聞いたんです。」再び扇子に目を向けながら続けた。「彼は、ホアシャでは人々がドラゴンの頭に乗ってどこへでも飛んで行けると言っていました。それって、本当なんですか?」
少女は一瞬驚いたように目を細め、首を少し傾けた。
「ドラゴン……?」その響きを確かめるように呟いた後、ふと納得した表情を浮かべる。「ああ、龍のことか。」
彼女の口から、低く澄んだ音色の笑い声が漏れた。
「それは完全な嘘ではないのじゃな。」小さな笑みを浮かべながら、扇子を静かに閉じた。「だが、わらわ自身、まだその光景を見たことはないのじゃ。」
ベアトリスが返事をする前に、教室の扉が鋭く開き、教室内の静かな会話が一瞬止んだ。




