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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 1
51/176

1-18-1【Adagio of Lady Beatrice 】

ベルのスピーチが終わり、彼女が壇上を降りると、司会者がステージに上がった。

「続いては、学院生オーケストラによる演奏です。」


音楽が始まると、ベアトリスは少し体を引き、背筋を伸ばしながらリラックスした姿勢でメロディーに浸っていた。

彼女は小さく口を動かし、演奏される曲を次々と心の中で当てていた。


「デュラックの《朝露》第8番、ト長調。」

穏やかな間奏が流れる中、彼女は小声でつぶやき、口元に微笑を浮かべた。

それは彼女自身のためだけの小さな遊びだった——曲名や作曲家を当てるという、密かな楽しみ。


しかし、彼女がそんなことをしているとは知らずに、周囲の生徒たちは次第に彼女の存在に気づき始めた。

曲名を的確に口ずさむ彼女の様子や、洗練された佇まいは、まさに上品さの極みのように映った。

「真の貴族」という言葉が自然に浮かぶほど、周囲の目には気品と優雅さに満ちた姿に見えていた。


オーケストラが彼女のお気に入りの曲を演奏し始めると、ベアトリスの瞳がぱっと輝いた。

それは新進気鋭の作曲家による、あまり知られていない作品だった。

彼女は周囲を見回し、大半の観客が楽しんでいる様子に満足そうに微笑んだ。

これが傑作だって、さすがにみんな分かるみたいね。

心の中でそんな自信たっぷりの思いを抱きながら、その瞬間を味わっていた。


しかし、演奏が続くにつれ、ほとんどの生徒は落ち着きを失い始めた。

演奏はたった30分ほどだったが、多くの生徒にとっては長く感じられたようだ。

それでもベアトリスは終始没頭しており、自分の世界に浸っているようだった。


最後の音が消えると、司会者が再びステージに上がった。

「これをもちまして、開会式を終了します。これから各教室に移動してください。担任の先生が自己紹介を行い、今日の活動を始めます。」


生徒たちは席から立ち上がり、散り散りになりながらも嬉々として退出し始めた。

ペアやトリオ、あるいは新たにできたグループが自然に形成され、会話を楽しみながら講堂を後にしていく。


ベアトリスはその場に少しだけ留まり、通り過ぎるグループを見つめていた。

多くの生徒が早くも仲間を見つけたことに驚きはしなかったが、やはり胸が少しだけ痛んだ。

式の間に友達を作るチャンスを逃してしまったという実感が、彼女を落胆させていた。


教室に向かう途中で、また別の機会があるかもしれないわ。

彼女はそう思い、失望感を振り払おうとした。

だが、他人の会話に無理に飛び込むことを考えると、気後れしてしまう。

それじゃ、ただ気まずくなるだけよ……。


ため息をつき、目を閉じて一瞬気持ちを切り替えようとした。

先ほど聞いた音楽を心の中で再生しながら、ベアトリスはゆっくりと講堂を後にした。


ふと頭をよぎった考えが彼女の胸をざわつかせた。

ベルがもう友達を見つけていたらどうしよう……。

その思いに、彼女はすぐ顔をしかめた。

なんて酷い考えなの……。もちろん、ベルみたいな子にはすぐ人が集まるに決まってるじゃない。彼女は素晴らしいんだから。


その考えは、彼女の顔にかすかな微笑みを浮かべさせたが、その表情にはどこか哀愁が漂っていた。

通り過ぎる生徒たちにとって、ベアトリスの姿は静かでどこか儚げだった。

流れる髪に囲まれたその顔は、優雅さを持ちながらも、どこか近寄りがたいものとして映った。


教室に向かう途中、ベアトリスの表情は自然と様々に変化していった。

一人微笑んだかと思えば、考え込むように眉をひそめ、そしてまた穏やかな決意を湛えた顔に戻る。

それらの変化は、偶然目にした生徒たちにさらなる神秘性を感じさせた。


彼女の心の中では、ただこれからの準備を整えようとしていただけだった。

もしかしたら……今日、誰かと友達になれるかもしれないわ。

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