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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 1
46/176

1-15-3

男性は静かに頷き、厳かな声で言った。

「君の情熱を感じたからだよ。時に、最も力強い真実は常識を覆すものだ。もし君が本当に最初のスピーチこそが伝えるべき言葉だと思うのなら、その権利は君にある。」


ベルのためらいは徐々に溶け、代わりに心の中に新たな決意が芽生え始めた。

彼女は手元の「安全な」スピーチに視線を落とし、それから再び男性を見つめた。


「最初のスピーチのほうが……本当の私に近い気がします。自分が本当に伝えたかったことみたいで。」

ベルの声は独り言のように小さく、しかしどこか確信めいたものがあった。


その時、舞台から彼女の名前がはっきりと呼び上げられた。

観客たちの間で小さなざわめきが起こり、緊張感の波が広がっていく。


「なぜ使わない?」男性は静かだが力強い声で続けた。

「君はここにいる時点で、すでに期待を覆しているじゃないか。なぜここで立ち止まるんだ?君の言葉を、君が望む変化そのものにすればいい。」


ベルは深く息を吸い込んだ。

その呼吸は、決意を形にするための第一歩だった。


彼女は手にしていた折りたたまれたスピーチを見つめる。

そして、鋭い音を立てながら、それを二つに引き裂いた。


パリッ……シュッ……


その音は静かな舞台裏に響き渡り、ベルの中に残っていた迷いのすべてを断ち切った。

「最初のスピーチを使います。」

ベルは力強い声で言い切り、立ち上がった。

その瞳には確かな決意の光が宿り、彼女の足元にはもう恐れはなかった。


「ありがとうございます、先生。」

彼女の言葉に、男性は温かい笑みを浮かべて応えた。その笑顔は一見誠実で穏やかだったが、どこか言い知れぬ違和感を含んでいるようにも見えた。

そして彼は静かに背を向け、舞台裏の影の中に消えていった。


ベルがカーテンへと向かうと、舞台から再び自分の名前が呼ばれた。

その重厚なカーテンがわずかに揺れた瞬間——目の前に立っていたのは、ドロシアだった。


ドロシアは、つい先ほどスピーチを終えたばかりのようだった。

その動作はどれも完璧に洗練され、無駄のない優雅さを感じさせる。

彼女のブローチは磨き上げられ、光を受けて静かに輝いていた。それは王族の象徴でもあり、彼女の立場を静かに誇示するかのようだった。


ベルとドロシアは、カーテンの狭間で静かに向き合った。

観客の拍手が遠くから聞こえる中、二人の間には緊張とも言える空気が流れていた。


ベルの心臓は速く打ち始めた。

ドロシアの姿を目にしたことは何度もある。新聞、式典、そして今朝も——だが、こんなに近くで見たのは初めてだった。

彼女の整った姿勢、クリアな緑色の瞳、そして内側から感じられる静かな威厳。すべてがこの瞬間に凝縮され、ベルを圧倒するかのようだった。


ドロシアの視線がベルを捉え、彼女の全体を見渡すように静かに動いた。

その後、軽く頷く——温かくもなければ、拒絶でもない。その表情は控えめで、丁寧ではあるが距離を感じさせた。


しかし、ベルは怯むことはなかった。

彼女はドロシアの視線をしっかりと受け止め、背筋を伸ばし、手に握ったスピーチの切れ端を強く握りしめた。

かつてなら、目をそらし、彼女の貴族的な威圧感に押しつぶされていたかもしれない。

だが今は違う。


ベルは、孤児の平民として、そしてこの場所に立つ資格を持つ一人の人間として、その場に立っていた。


その短い対峙の後、ドロシアは音もなくその場を後にした。足音は舞台裏の奥へと静かに消えていく。

だがベルは動かなかった。

胸の中に、静かだが確かな誇りが湧き上がってくる。彼女はドロシアの視線を受け止めた。そして、それにふさわしい自分であることを感じていた。


振り返り、ベルはカーテンに手をかけた。

アナウンサーの声が締めくくられ、いよいよ彼女の出番を告げた。

深く息を吸い込み、ベルはカーテンを引き、舞台へと一歩を踏み出す。

光が彼女を包み、観客の視線が一斉に集まる中——ベルはそのすべてを受け入れるように、前を向いていた。

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