1-12-1【Three Maids and a Maid】
石畳の道をガタガタと進む馬車。
その車輪が不揃いな石を柔らかく叩き、耳に心地よい音を響かせていた。
馬車を引くのは二頭の頑丈な馬。
朝日を浴び、その滑らかな毛並みが美しく輝いている。
馬車の作りはシンプルながら、控えめな優雅さが漂っていた。
黒く塗られた木製のフレームに鉄の留め具が施され、その仕上げは見事なまでに磨き上げられている。
乗客十二人を収容できる広さで、左右それぞれに六人分の席がある。
屋根のないオープンワゴンのような構造で、後部には乗り降り用の小さな階段が付いていた。
その馬車に乗っているのは、若いメイドたち十二人。全員が揃いの制服に身を包み、髪にはきちんと結ばれたバンダナを巻いている。その見た目はほぼ統一されているが、顔つきや身長といった微妙な違いが、彼女たち一人ひとりの個性を浮き彫りにしていた。
時刻は朝九時を少し過ぎた頃。柔らかな朝日の光が周囲を優しく包み込んでいた。鉄製の門の向こうには、控えめな広さの前庭が広がっている。庭の中心には小さな噴水があり、その周囲には馬車が容易に回れるように設計された円形の道が敷かれていた。豪華さを主張するというよりは、実用性を重視した設計だった。
貴族の邸宅が並ぶこの一帯の通りは、ほとんど人影がなく、時折通り過ぎるのは別の貴族の馬車ぐらいである。
門のそばにはアンが立っていた。腕を組み、その表情は退屈そうでありながら、どこか中立的でもあった。しばらくの間待っている様子で、ときおり通りの方に視線を向けている。その隣にはオフィーリアが佇んでおり、完璧な姿勢が熟練したメイド長としての威厳を示していた。アンの無造作でどこか不機嫌そうな態度とは対照的に、オフィーリアには洗練された落ち着きが漂っていた。
馬車は門の前で静かに止まり、三人のメイドが地面に降り立った。磨かれた靴が石畳を軽く叩く音を響かせながら、三人は背の低い順から高い順に並んだ。その中で最も背が高い者でも、アンとほぼ同じくらいの高さだった。
三人は一斉にお辞儀をし、「おはようございます、オフィーリア様」と挨拶した。
オフィーリアは優雅に首を傾け、両手をお腹に軽く添えながら応じた。「おはようございます。」その声には礼儀正しさがありながらも、どこか距離を感じさせた。
アンはその様子に合わせて姿勢を正し、先ほどまでの無関心な態度は消え、プロフェッショナルな空気を纏った。無言で軽く礼を返し、自然とオフィーリアの後に続いた。
オフィーリアはそれ以上の言葉を交わすことなく、正確で洗練された動きで邸宅の方へと歩き出した。
三人のメイドたちは静かにその後ろに従いながら、白い石造りの外観が朝日に照らされる屋敷へと向かった。その大きな窓枠を飾る精巧な彫刻と、左右対称のデザインは、控えめながらもどこか壮麗さを感じさせた。庭に響く噴水の音に混じりながら、一行の足音が微かに響いた。
重厚な正面扉が開き、屋敷の内部が姿を現す。
広間の中心には、曲線を描きながら優雅にそびえ立つ純白の大理石の階段が目を引いた。その磨き上げられた階段は、完璧なアーチを描いて上階へと続いている。手すりは金色に輝き、その細やかな装飾が上方から降り注ぐ光を受けて美しくきらめいていた。
頭上には大きなシャンデリアが吊るされており、無数のクリスタルが暖かい光を反射し、空間全体を柔らかく照らしていた。磨き抜かれた床は光を映し込み、その豪奢な雰囲気をさらに際立たせている。
オフィーリアは階段の麓で歩みを止め、振り返ってアンに指示を出した。
「二階の掃除を続けて、必要に応じて彼女たちを指導してください。」その声には冷静さが滲み出ていた。
「かしこまりました。」アンは即座に返事をし、その態度はすっかり変わっていた。さっきまでのカジュアルな雰囲気は消え去り、彼女の立ち姿にはプロフェッショナルな空気が漂っていた。
オフィーリアは次に三人のメイドたちへ視線を向けた。
「あなたたちもアンの指示に従って、いつも通りに作業を進めてください。
必要な場合は私の書斎に来なさい。」
「はい、オフィーリア様。」三人の声が揃い、その響きには敬意と少しの緊張が混じっていた。
指示を終えると、オフィーリアは階段を優雅に上り始めた。その動きには一切の無駄がなく、その背中が視界から消えるまで目が離せなかった。
オフィーリアの姿が見えなくなると、アンは身振りで三人のメイドたちに後をついてくるよう促した。
無言のまま、一行は二階へと上がっていく。足音はカーペットの敷かれた階段に吸い込まれ、ほとんど聞こえない。
アンは彼女たちをある部屋へと導いた。




