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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 1
3/176

1-1-2

彼女の笑い声は薔薇を揺らす朝風のように柔らかかった。

「ありがとう、アン。もう済みました。」


アンは軽く頷き、

ベアトリスの朝食の食器を片付け始めた。


その動作は効率的でありながら、

どこか舞踊のような優雅さが感じられた。


彼女は新しい紅茶を注ぎ、

お嬢様の前に静かに置いた。


ベアトリスは微笑んで受け取ったが、

その表情には一瞬、不安の影がよぎった。


「アン、私…一人で大丈夫かな?」


彼女の声は突然小さくなり、

まるで子供が安心を求めるようだった。


「友達、できるかな…?」


アンの落ち着いた瞳が、少しだけ柔らかくなった。

「お嬢様なら大丈夫ですよ。

お嬢様の笑顔は、きっと誰の心も魅了します。」


ベアトリスは頬を染め、

その笑顔を返したが、

どこかぎこちなく、嬉しさが混じっていた。


「その笑顔じゃだめですよ、」

アンは変わらない落ち着いた声で続けたが、

瞳には少しだけ面白がるような輝きが見えた。


ベアトリスは急いで、

もっと練習された優雅な笑顔に切り替えた。


アンはそれを見守りながら、

内心の愛しさを必死に抑えていた。


ベアトリスは微笑みを何度も試し、

楽しげから気品あるもの、

その中間へと変えていった。


ようやく満足すると、

紅茶を一口飲んだが、

その温かさと甘さに、またもや表情が崩れ、

さっきのぎこちない笑顔に戻ってしまった。


アンは笑いを堪えた。

口元はほとんど動かなかったが、

わずかな震えが彼女の隠せない感情を示していた。


そのとき、庭に響くような威厳のある声が聞こえた。

「アン!」


アンの表情は瞬時に落ち着きを取り戻し、

食器を素早く片付け、

ベアトリスに軽く頭を下げてから、

ワゴンを押して屋敷へと戻っていった。


ベアトリスは声の方を振り向き、

そこに向かって歩いてくる女性の姿を見ると、

微笑みを浮かべた。


その女性の歩調は整然としており、

どこか測り知れない落ち着きを感じさせた。


アメリアが、いつもの格式高い執事の制服に身を包み、

その品格漂う姿で近づいてきた。


彼女は27歳前後で、短く切りそろえた黒髪が、

男性の髪型に近いほどに短いが、

その顔立ちをさらに引き立てていた。


日焼けした肌と平凡ながらも魅力的な顔立ちがあり、

彼女の完璧な姿勢が物理的な美しさを超えた優雅さを与えていた。


その力強さは、彼女の魅力だけでなく、

料理の腕前にも表れていた。


アメリアの作るお菓子は貴族の集まりでよく依頼され、

高い評価を得ていたが、

ベアトリスにとって、それはあくまで「自分だけの特別」だと思っていた。


「アメリア~!どこ行ってたの?もう三日も!」


ベアトリスはアメリアが近づくと、

その笑顔をさらに明るくした。

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