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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 1
27/176

1-10-4

注: カセイの英語のローマ字は Cathay です。

カセイ――西の大陸で東方の地を指す言葉――は、かつて商人たちが持ち帰った地図や伝承に由来する名前だ。

ホウシャやその周辺の国々はそれぞれの名前を持つが、カセイという呼び名はアヴィロンで未だに使われており、絹や香辛料、そして神話的な生物を連想させる異国情緒を漂わせている。


レンにとって、この言葉は二つの世界をつなぐ便利な架け橋であり、説明する際の定番だった。


エドワードはレンの横にそっと一歩近づき、カニのように慎重に横移動する。その声を少し落としながら――ただし完全に聞こえないわけではなく――呟いた。


「いいか、相棒。話を続けさせろ。」


レンは一瞬眉をひそめ、その落ち着いた態度がわずかに揺らいだ。

「……相棒?」と小声で繰り返す。


ほんの数分前、エドワードは彼を『お嬢さん』とからかいながら呼んでいた。

彼の繊細な顔立ちを揶揄するかのように。そして今度は突然『相棒』呼ばわりだ。いつから二人の関係はそんなに変わったのだろうか。


エドワードは気にせず、強引に話を進める。

「ほら、あの乱暴なやつに焦点を合わせろ。あいつがこの『獣の群れ』のアルファだ。」


「おい!聞こえてるぞ!」ブリジットが吠える。

ウィスキーボトルを軽く足元に叩きつけながら、ニヤリと笑みを広げた。

その瞳には怒りではなく、悪ふざけに近い光が宿っている。


「ハッ、私たち、今や群れの獣だってさ。」フェリシティがクスクス笑い出す。


セシリアは首を傾け、その笑みを一層妖艶に変えた。

「私が獣だというなら……」

その声は滴るように甘美で、彼女の指先がグラスの縁をゆっくりとなぞる。

「君たちをじっくり味わってみてもいいかもね……」


レンはその挑発に動じず、淡々と尋ねる。

「何のために?」


エドワードはセシリアの発言を完全に無視し、レンにさらに顔を寄せて小声で言う。

「見てみろよ。俺が芝生を歩いたくらいで注意された俺よりも、あいつらのほうがよっぽど規則外れだろ?昼間っから、学内で酒飲んでるんだぞ。」


レンは一瞬目を瞬かせ、その洗練された冷静さが微かに崩れた。

状況を改めて把握し直した彼の視線が、ブリジットたちの間を行き交う。


「それは……確かに不適切ですね。」


「おい!何をコソコソ話してんだ!」ブリジットが声を張り上げる。


エドワードはとっさに話題を逸らし、フェリシティに目を向けながらニヤリと笑った。

「なあ、聞いたぞ。お前たちのところでは、ドラゴンの頭に乗って飛ぶんだってな。」


フェリシティの手元のフラスコが手から滑り落ち、土の上に中身をこぼす。目を大きく見開き、呆然とした様子で口を開けたままだった。


「え、ええっ!?本当にドラゴンに乗れるの?なんで頭の上に?鞍とかいるの??」


声には驚きと混乱が入り混じっている。


エドワードは満足げに口元を歪め、計画がうまくいったことを示すような表情を浮かべた。



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