1-1-1【Lady Beatrice Amelia Isabeau Caerwysg】
朝日がカエルウィスク家の庭園を優しく照らし、
薔薇の香りが漂う空気に微かな霧が混じっていた。
陽光は霧を抜けて淡い輝きを放ち、
目覚めつつある世界に柔らかな暖かさを与えていた。
ベアトリス・アメリア・イザボー・カエルウィスクは、
この美しい庭の中で静かに座っていた。
その姿勢は端正だったが、
その瞳には抑えきれない期待の輝きが浮かんでいた。
彼女の仕草には、抑えようとする興奮が見え隠れしていた。
赤と白の薔薇はまるで家紋の象徴のように、
庭の花壇を埋め尽くしていた。
その花びらは朝露に濡れ、
輝くような美しさを放っていた。
ベアトリスの緑色の瞳は花々を追い、
時折、薔薇の葉に反射する光に目を留めた。
彼女の微笑みは柔らかく、
何度も現れるたびにその場を温かく包み込んでいた。
その口元のすぐ下には小さな黒子があり、
そのチャームポイントが彼女の笑顔をさらに魅力的にしていた。
今日はベアトリスにとって特別な日だった。
屋敷の外にある学校へ初めて通う日なのだ。
これまで彼女の教育はカエルウィスク家の家庭教師によって、
家の中で行われてきた。
親族との学習会を除けば、
彼女はほぼ世間から隔離されていたのだ。
彼女の幼少期は、
時に危険を招くほどの冒険心に満ちていた。
その中のある出来事が、
彼女にかけがえのない友人二人をもたらしたのだった。
だが、それらは彼女が心の引き出しにしまった、
大切な宝物のような思い出だった。
今日はそれを超える新たな体験が待っている。
慣れ親しんだ環境を抜け出し、
同世代の子供たちと出会い、
これまで想像するだけだった
自由を味わうという期待感が胸を高鳴らせていた。
彼女が考えに耽っていると、
誰かが近づいてくる気配を感じた。
石畳の道を、軽やかな足音が響く。
靴のかかとが石に当たる音は、ほとんど聞こえないほどだった。
現れたのは若いメイドだった。
おそらくベアトリスと同年代だろう。
彼女は洗練された雰囲気を持ちながら、
どこか近寄りがたい空気を纏っていた。
その髪は深い赤茶色で、
きっちりとしたクラウンブレイドとシニヨンにまとめられていた。
そのスレンダーな体つきは優雅であり、
鋭い茶色の瞳には、
近寄りがたい壁のような強さが見え隠れしていた。
メイドの声は穏やかで落ち着いていた。
「お嬢様、もうお済みですか?それとも、何か他にご希望はございますか?」
一瞬、ベアトリスは反応せず、
何か思い浮かんだことに笑みを浮かべていた。
メイドはそれをじっと見つめ、
少し間を置いてから、
乾いたユーモアの混じった声で続けた。
「そんな笑顔でぼんやりしていたら、
お嬢様、新しいお友達ができる前に驚かせてしまうかもしれませんよ。」
ベアトリスはハッとし、考え事から目を覚ました。
「あっ!アン!」
注:英語表記は Beatrice Amelia Isabeau Caerwysg。