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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
172/176

2-30-2

ベルは腕に抱えた日誌の束を持ち直した。紙の端が袖に食い込む。

その隣で、エドワードは相変わらずの落ち着いた歩調で歩きながら、模型や製本されたノートの詰まった箱を二つ、まるで重さなどないかのように抱えていた。


小道は広く伸び、並んだニレの木が大きな影を落としている。学生たちはベンチに腰かけて昼食を笑いながら食べたり、肩を寄せ合って静かに話したり。ほとんどは食堂の方へ歩いていき、にぎやかに声を交わしていた。


だが、ベルとエドワードは流れに逆らい、研究棟の方へ向かっていた。そこはいつも実験実習に使われる建物だ。


しばらくは二人とも黙ったまま。靴音だけが静けさを埋めていた。


「……エドワード」ベルがためらいがちに口を開き、日誌をぎゅっと抱きしめる。

「ひとつ、聞いてもいい?」


「言ってみな。」視線を前に向けたまま答える。


「……ベアトリスを襲った男と、戦ったの?」


「まあな。」


ベルは唇を噛む。「……そう。あの人、銃みたいなものを使ってたのを見たの。すごく強力で……警備兵でさえ反応できなかった。」


「海外から持ち込まれた新型だ。」エドワードは肩をわずかにすくめる。「命中率以外は大したことねぇ。扱いも簡単だが……銃は銃だ。」


ベルは小首をかしげ、眉を寄せた。……どうして知ってるの?と胸の奥で思ったが、口には出さなかった。


「それだけじゃないの。」ベルの声が低くなる。「キャプテン・ネモの名を口にしたの。もしかして関係あるのかと……昔、博士ネモは発明家だったのに、海賊に成り下がったって本で読んだから。」


エドワードの口元がわずかに動く。「海賊じゃねぇ。冒険者だ。」


「知ってるの?」ベルが目を瞬いた。


「当然だろ。俺のお嬢様は、あいつが王国に背いた後でも本を何冊か手元に残してた。」


「ほんとに? 探したけど、犯罪者になってからは図書館から全部消えてたの。発明品を見たかったのに……」


「今度来たとき俺に聞けよ。……それと、いつも通りだ。俺が何やってても、お嬢様には絶対に言うなよ。」


「わかってる。」


ベルはぱっと顔を明るくしたが、エドワードの視線はふと沈み、腕に抱えた箱へと落ちた。疑念を確かめるように。


「発明といえば……」彼は言った。「こいつら、ただの日誌じゃねぇな。お前の発表用――あの光る石の研究だろ?」


ベルはこくりとうなずき、瞳を輝かせる。「そう! 発表のあと、何人かの視察官がモーガン教授に、もっと研究を見せてほしいってお願いして……それで教授が許可してくれたから、こうして日誌や模型を集めたの。」


エドワードは箱を持ち直した。「……今日までに、誰かお前の研究を見てたやつは?」


「うん、モーガン教授だけ。」ベルは即答した。「ずっと支えてくれてたの。」


彼は小さくうなずく。「他には?」


ベルは少し首をかしげ、それから軽く首を振った。「思い当たらない。教授は『まだ応用には試験が足りない』って言ってただけ。」


エドワードの顎がきつく固まる。あの動力源を反王制派がガトリング銃に組み込んでいた光景を、あまりにも鮮明に思い出していた。


「……兵器になるってことか。」


ベルは眉を寄せ、日誌を抱きしめる腕に力をこめた。「そんなつもりはないの。」


エドワードの口元にかすかな笑み。「でも、可能性はある。」


彼女の肩が強張り、視線を逸らす。「……そう。でも、それはわたしの望むことじゃない。」


エドワードは返事をしかけ、ふいに足を止めた。「……ちっ、マズいな。」


ベルは危うく彼にぶつかりそうになる。「どうしたの?」


すぐには答えず、鋭い視線を生徒会館へ向ける。ベルもそちらを見た。

キングズガードが入口に立ち、学園警備とともに警戒していた。


そして――ドロテアとブリジットが、ベルがひと目でわかる人物と話していた。


「あれは……マダム・オフィーリア。」


エドワードの顎がさらに固まる。「よりによって……」


「ベアトリスのことで来たのね。」ベルがつぶやく。


「当たり前だろ。」彼は低く吐き捨てた。

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