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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
109/176

2-7-3

黒い石のブローチを胸につけた二人組――ブラックブローチのエージェントであることは、薄暗い光の下でもすぐにわかった。


背中に長剣を背負ったメイドが、負傷したメイドに向かって話しかける。

「例の件……奴ら、“それ”を使ったわ。追えなかった。」


負傷メイドは深いため息をつき、悔いるような表情を浮かべる。

「わたしのせい……ためらわなければ、こんなことには……」


レンとフェリシティは、そのメイドの応急処置を終えていた。


「ありがとう……」

負傷メイドは、苦痛に耐えているのがわかるにもかかわらず、落ち着いた声で礼を述べる。


レンは首を振り、「急に動かないほうがいい。傷は浅くても数が多いから、ちょっと無理すると危ないよ。」と警告した。


近くに立つエドワードは、手についた塵を軽く払うようにしながら、あくまで気だるげな口調で言う。

「どうやら俺たちには関係なさそうだ。戻るぞ。」


「待って!」

負傷メイドがエドワードを呼び止める。「さっき、ここをあちこち調べてたよね。何か拾ったんじゃないの?」


エドワードの返事はぶっきらぼうかつ淡々としていた。

「いや。」


長剣のメイドは目を細め、一歩前に出る。

「待って……あんたたち、誰? レナ、知ってるの?」


ダガーを携えたメイドは、眼鏡の執事をじっと見つめてから答える。

「イアン・ネルソン。エディス・マウントバッテン=カエルウィスク、バレルナッホ男爵家の跡取り付き執事。」


続いて視線をフェリシティへ移し、

「フェリシティ・ウェイド。デレスレージュ子爵家の若き当主、レナード・ウィンスタンレーに仕えるメイド……。」と付け足す。


負傷メイドと長剣メイドはその名を耳にして明らかに身構えたようだった。


レンは背筋を伸ばし、右手に力をこめかけたが、エドワードがさりげなく首を横に振る。

ホアシャ式の正式な名乗りをしようとしたのを止める合図だと悟ったレンは、一瞬だけ動きを止め、柔らかな笑みでその場を収める。


「レン。ご主人は……ただの外国貴族だよ。」

レンは穏やかな調子で言う。


長剣メイドはエドワードに鋭い視線を向け、

「で、そっちのあんたは?」と問う。


「エクスカリバー・エクスプロージョン十三世。」

エドワードは不自然なほど落ち着いた口調で答えた。


ブラックブローチのメイドたちは顔を見合わせ、困惑の色を浮かべる。


レン、フェリシティ、そしてイアンは三人揃ってため息をつく。

彼らはどうやら、こうしたエドワードのふざけた自己紹介に慣れているらしい。


長剣メイドは眉をひそめ、

「ふざける気なの?」と不快そうにつぶやく。


イアンは落ち着いた声で補足する。

「彼の名はエドワードです。」


フェリシティは大げさにため息をつき、

「しかも馬鹿。話をするには忍耐がいるわ……いや、そもそも話しかけるだけ無駄かもね」

と半ば呆れたように言った。


長剣メイドはフェリシティを気にも留めず、再びイアンへと顔を戻す。

「そいつ、誰に仕えてる?」


「カエルウィスクのベアトリス様だ。」

イアンは簡潔に答える。


その名を聞き、ブラックブローチのメイドたちは露骨に動揺したようだった。

ベアトリス・カエルウィスクという名前が、何らかの重圧をもたらすのだろう。


「カエルウィスク……これがただの偶然であればいいんだけど。」

ダガーを握るメイドが小さく漏らす。


長剣メイドは苦い顔で、低くささやく。

「ここまでの事態に……今度はカエルウィスクとウィンスタンレーまで……。」


エドワードは長剣メイドの反応を横目で見たあと、負傷メイドのほうに目を移す。「あんたがリーダーか?」

そう言いつつ、ポケットから三輪の薔薇があしらわれたカエルウィスクの紋章入りハンカチを取り出し、軽く振る。「じゃ、もう行っていいよな?」


長剣メイドは負傷メイドに視線で問いかける。「ヘレン……どうする?」


ヘレンと呼ばれた負傷メイドは迷いを見せたが、やがて口を開く。「……いいわ。もう行って。」


「上等。」

エドワードの姿が一瞬にして消え失せる。


「またあれか……」フェリシティはこめかみを押さえ、不満げな声を漏らす。「“あの動き”すぐ使うから……。」


イアンは林のほうへ目を向け、「授業がそろそろ終わりますね。帰らないと……。」と言ってすぐに木々へ跳躍した。


「マスターに文句言われるわ、あたしも急がなきゃ!」

フェリシティもそれを追うように姿を消す。


負傷メイドはエドワードが消えた方向を見つめながら、小さくつぶやく。

「シャドウステップ……本物ね。」


レンがそれを聞き、小さく笑う。

「へえ、それが正式名称か。あいつ、いつもあれで逃げるんだ。」

そしてメイドたちに向き直り、

「彼女の手当て、ちゃんと続けてあげて。大きい治療も早めにしたほうがいいよ。」と声をかける。


レンは礼を込めて軽くおじぎをすると、イアンたちを追うように森の奥へと跳んでいく。


帰り道。

エドワードは木の枝を次々と踏んで進み、イアンは一拍遅れる形で距離を調整しながら追う。


「あとで話せないか?」

イアンがエドワードの背に向かって声をかける。


エドワードは振り向かず、「今話せばいいだろ。」と短く返す。


「……彼らには聞かせたくない。」

イアンは後ろに視線をやり、やや離れた場所を飛ぶレンとフェリシティを示す。


エドワードは薄く笑う。

「さすがだな、気づいたんだ。でも、そんなに気にする必要があるか?」


イアンは苦い面持ちで言葉を継ぐ。

「あのノートと、ブラックブローチの反応、それに王位継承の噂……わが主にも影響があるかもしれない。」


エドワードは足を止めることなく首を少しだけ回してイアンを見る。

そこには真剣な思いがにじんでいた。

「……そうだな、その時が来れば話せるかもしれない。」


そう呟き、二人は再び黙して枝から枝へと跳躍を続ける。

学院が抱える秘密の重みが、風に乗って追いかけてくるかのように感じられた。

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