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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
108/176

2-7-2

エドワードは手で合図し、

開け放しになった木箱に納められたガトリング式の大きな火器を示した。

低い声で問いかける。

「こんなの、見たことあるか?」


眼鏡の執事は一歩近づき、メガネを微調整して細部を観察した。

その火器は見た目こそ洗練されているが、巨大かつ重量感があり、

グリップ付近には淡い青い光を放つ小さなソケットが埋め込まれていた。

「ないですね……」執事はやがて静かに答え、その声には興味がにじむ。

「ただの試作兵器って感じでもありませんよ。この部分――」彼は青く光るソケットを軽く叩く。

「精製アズレイドで動かしているようです。実験段階のはずなのに、これはずいぶん完成度が高い。」


エドワードは眉を寄せ、磨かれた砲身に視線を走らせる。

「つまり小規模な襲撃じゃない。こんなもんを用意してたなら……本気で戦争を起こそうとしてたってことか。」


眼鏡の執事は壊滅したキャンプ一帯を見回し、

歪んだ金属や割れた木箱、捨て置かれた武器に目を止めた。

「それだというのに、こんな短時間で全部終わったんですね。」声は暗く沈む。


エドワードは不自然な角度で弾痕を穿たれた死体に近づき、手袋越しに地面をそっと触れた。

そのまま目線を別の首を斬られた死体へ移す。

「弾は弾かれた形跡がある。それにこの斬撃……相手はカウンターで確実に仕留めたようだ。」


眼鏡の執事は再び巨大火器に目をやり、軽く眉をひそめる。

「つまり、これが発射される前に全て終わらせた、と。」


エドワードは、学院で自分だけが気配を察知できなかったことを思い出すように目を細める。

「あの“圧”が先手を打ったんだろう。撃つ暇も与えずに。」


二人は木箱や焦げ跡を丹念に見て回る。

ある一角には、木の破片や焼けた地面が集中するように弾痕が刻まれていた。

眼鏡の執事はその並びに注意を向け、困惑げにつぶやく。

「これ、まるで一人だけを狙ったみたいですね……。」


エドワードは負傷中のメイドにさりげなく視線を走らせ、低く漏らす。

「彼女じゃないな。角度が合わない。」


執事は緊張した面持ちで息をつく。

「じゃあ、一体誰を狙った……?」


エドワードの視線は、額に剣が突き立てられた死体――おそらくキャンプのリーダーへと向けられる。「そいつが誰であれ……狙いは、間違いなくそいつだ。」手袋を直しながら、彼はそう呟いた。

二人は無言のまま意味深な視線を交わした。


眼鏡の執事は倒れた遺体に近づき、弾痕を調べる。

周囲に焦げ跡が残っているのを確認し、低く呟いた。

「至近距離だ。この焦げ跡……リボルバーで撃たれた証拠だな。」


眼鏡の執事は姿勢を正し、地面に目をやる。

「……弾倉には一発だけ残っていますね。撃たれた人数とぴったり一致しています。」

彼はわずかに息を呑み、落ちている薬莢を改めて確認する。

「一発も無駄にせず、全弾が命中した……これは単なる射撃ではありません。計算し尽くされた処刑のようなものです。」


エドワードはゆっくり立ち上がり、周囲に転がる遺体を指して言う。

「それだけじゃない。心臓、喉、頭――どれも一撃必殺。しかも“リーダーのもとへ”最短ルートで進みながら殺しているんだ。」


眼鏡の執事はうつむきかげんに、さらに顔を曇らせる。

「そして、そのリボルバーはそもそも“犯人”のものじゃないんでしょうね……。」


エドワードは別の死体を見やる。

それはリボルバーを握ったまま動かない男。

「犯人はこいつから銃を奪ったんだ。自分の武器を使わずに、相手のを利用して一網打尽……か。そして撃たれた順番が、そのままリーダーに向かう軌跡を描いている。」


眼鏡の執事が近くの木箱を見て、

「この深い切れ目……剣撃だ。銃弾を弾きながら斬りかかった、としか思えませんね。狙いがあまりに正確で、受け流しの角度が明確に出てます。」


エドワードは負傷メイドの剣先を一瞥するが、ほとんど血が付着していないことに気づき、

「彼女じゃないな。守りに徹していたか、あるいは巻き込まれただけか。」と低く言った。


眼鏡の執事は再び周囲を見渡し、溜め息をつく。

「要するに、あのメイドの意図とも別の第三者が現れ、ここの人間を皆殺しにした……。それぞれ別の目的が重なって、こうなったと。」


エドワードは腕を組み、散らばる残骸に視線を巡らす。

「襲撃者は目的のものを探してた節もあるな。こんなに派手に荒らして、さっさと消えた。」


二人が改めてリーダーらしき死体を確認すると、その両手には見慣れぬ形状のピストルが握られていた。

エドワードが目を細める。

「なんだ、この銃……?」


眼鏡の執事はそれを覗き込み、眉を寄せる。

「セミオートですが、見慣れたモデルとは少し違いますね。普通のサイドアームより装弾数が多く、精度もかなり高い……これなら納得できます。さっきのメイドが弾を全て防ぎきれなかった理由も。セミオートの連射速度はリボルバーとは比べ物になりませんから。」


エドワードはリーダーのポケットを手早く探る。

小さなノートを引っ張り出すと、開いて中を確かめる。

その表情に緊張が走る。


「何が?」眼鏡の執事がそっと聞くと、


エドワードはノートをやや角度を隠すようにして見せる。

そこにはアカデミー生徒の写真や名前、付箋のように短いメモが挟まれている。

「ただの乱撃じゃない。“ピンポイント”に狙うつもりだったようだ。学生の中でも特定の者を……。」


眼鏡の執事は目を伏せ、

「反王制派の連中か……。こんなに正確な学園内部の情報、相当な手回しがなきゃ無理だぞ。」


すると上方から二つの身軽な影がひらりと降り立ち、負傷したメイドに歩み寄る。

「なんで戻ってきたの?!」苦しそうな声で、負傷したメイドが二人に怒鳴る。

「“アレ”は取れたのか?!」


背後で新たな気配が現れたのを察知し、エドワードと眼鏡の執事は同時に鋭い視線を交わす。


エドワードが手を軽く動かし、無言のうちにノートを返すように合図すると、執事は即座にそれを閉じ、熟練した動作で彼に手渡した。


エドワードはそれを受け取りながら、

流れるような動作で地面に落ちていた見慣れないピストルをひとつ拾い上げる。

無造作に手首を返すと、それを内ポケットへと滑り込ませた。

その行動に、眼鏡の執事は一瞬目を見開くが、言葉を発することはない。


エドワードは口元に薄い笑みを浮かべ、顎を軽く動かして、

リーダーの死体が握っていたもう一丁の同型ピストルを示す。

執事はその意図を即座に察し、

ためらいなく屈んで武器を死体から抜き取り、慎重に自らのコート内に収めた。


その執事の素早い反応を目にして、エドワードの笑みはわずかに深まる。

執事は眼鏡のブリッジに指を添え、微妙に押し上げる仕草をしながら、

小さくうなずき返した。


何も言わずに、彼らは背を向けて仲間のいる方向へ歩き始めた。

その足取りは落ち着いており、表情にも動揺の色は見られなかった。

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