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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
105/176

2-6-1【Caerwysg Maids and Caerdydd Maid】

オフィーリアはアンへ視線を向け、その声には軽い叱責が滲んでいた。

「アン、もう二十分は経ったのではないかしら。」


アンは腕を組み、むっとした様子で言い返す。

「まだ二十分なんか経ってないわよ。あたしはただ……あの金髪ドリルのお姫さまが退散するのを待ってただけ。」


オフィーリアはため息をつく。


ブリジットが腕を組んだまま、疑わしげに眉を上げる。

「なんであんたたち“双子”は、うちのお嬢さまにそんなに文句があるんだか。」


セシリアが立ち上がり、戸惑いがちに問いかける。

「双子……?」


ブリジットはアンを顎で示しながら言った。

「そうよ。こいつがエド坊の姉だってこと、見てわからなかったの?」


セシリアはアンの顔立ちに目をこらし、やがて気づいたように「あ……」と声を漏らす。

「確かに似ている気がします、髪も瞳も……。」


「エドワードにお会いしたことがあるのですか?」とオフィーリアが問う。

「そういえば、まだあなたとはきちんとお話したことがなかったわね。お名前は……?」


セシリアはぴんと背筋を伸ばしたものの、声が少し震えている。

「ヴ、ヴォーンです。セシリア・ヴォーン……カーーディフ家の、使用人をしております。」


オフィーリアは柔らかな笑みを浮かべる。

「それはようこそ、ヴォーンさん。わたくしはオフィーリア、こちらはアンといいます。」


アンはいたずらっぽく口を開き、にやりと笑う。

「セシリアね。ふーん、エドが肋骨折ったっていう“セクシーレディ”ってあんただったの?」


オフィーリアの目が一瞬大きくなり、やや驚いたように声を出す。

「エドワードがあなたの肋骨を……折ったの?」


セシリアは慌てて両手を振り、顔を真っ赤にしながら否定した。

「ち、違います! ちょっとスパーリングしてて……はい、事故です。彼は悪くないんです、すごく優しい人で……。」


オフィーリアは安心したように微笑む。

「エドワードが優しい、ですか。あまり初対面でそう言われることはないから、ちょっと意外ですね。」


アンの瞳がきらりと怪しい光を帯びる。

「さて、話はそこまで? そろそろ会議室へ行きましょうよ。噂の“ヘンリシアンスポンジケーキ”が振る舞われるんでしょ?」


オフィーリアの視線が鋭さを帯び、アンをじっくりと見定めるように注がれる。

「……本当にどこも汚れていないのね。」


アンはまるで舞台に立つ役者のように派手にくるりと回り、両手を上げてみせた。

「もちろん! 見てよ、この完璧さ!」


オフィーリアはため息をつきながらも、わずかに唇がほころぶ。

「わかったわ。連れていきます。」


アンは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「彼女を連れて行っていいの?」とブリジットが懐疑的な様子で言う。


アンは堂々と胸を張る。

「あたしはカエルウィスクのメイドよ? むしろ当然でしょ。」

その笑顔には、あからさまな計算高さが混じっていた。


ブリジットは腕を組んだまま考え込み、

「今日はノーサム家の誰かが都に移るとかで、呼び出しがあるんじゃなかったっけ?

正直、王家の継承がどうとか、それ以上にノーサムが怪しい動きしてるって話も聞くし……。

本来ならエドワードが顔を出したほうがいい案件じゃないの?

ランダル――あの“クロムウェルのランドル”が、カッシウスの執事に就任したってだけでも普通じゃないわ。

エドワードがベアトリス嬢、あたしがドロテア嬢に配属されたときとはレベルが違う。

まるでアルバートさんや、わたしの父が派遣されるようなもんだし。

ランドルが動き出すなら、他の家も使用人を総入れ替えしそうよ。」


オフィーリアが穏やかだが割り込むように声を落とす。

「……ヘルヴィグさん。」


ブリジットははっとして、「ごめん、またしゃべりすぎた?」と呟く。


オフィーリアはセシリアへ向き直り、軽く頭を下げる。

「ご迷惑をおかけしました、ヴォーンさん。」


セシリアは強張りつつも「い、いえ……いつものことですし、慣れてます……」と顔を赤らめながら答える。


ブリジットは苦笑しつつ首をかしげ、

「セシリア、ごめんね。ちょっと聞かなかったことに……頼む。」


アンは吹き出すように笑う。

「ほんとに口が軽いんだから、あんたは。さ、これ以上秘密をバラす前に行こうよ。」


ブリジットもようやく納得したようにうなずく。

「オフィーリアさんがいいって言うならいいわ。アンも一緒に来なさい。」


オフィーリアは少し苦笑しながら言う。

「彼女には“一滴の汗もかかず、身なりも完璧に整えたまま二十分で到着したら連れていく”と、前に約束してしまって。」


そのとき、セシリアが小さく手を上げるように控えめに割って入る。

「す、すみません……一つだけ。」


全員がセシリアを振り返る。


セシリアは少し緊張した様子で言葉を続ける。

「じ、実は……アンさん、もう汗をかかれたみたいで……。お顔にはもう拭った痕跡がありますし、脇のあたりは乾いた跡が見えます。」


オフィーリアはアンへと視線を戻し、驚きと落胆を混ぜた表情を浮かべる。

「アン、本当なの?」


アンは声を上げる。

「ちょ……どうしてそれがわかるのよっ?!」

視線をセシリアに向けるが、セシリアは恐縮気味に「な、なんとなく気づいただけで……」と弱々しく答える。


ブリジットは豪快に笑い、

「汗を嗅ぎ分けることなら、セシリアに任せな。絶対に間違えないからさ。」と冗談めかして言った。


セシリアはかっとなってブリジットの腰に軽くパンチを入れる。

「言い方が最悪……!」


ブリジットは腹を押さえ、「悪かった悪かった……、彼女は……観察力が抜群だってことだな。」


オフィーリアは再びアンに視線を戻し、

「……仕方ないわね。ならアン、あなたは資料の整理と私の書類を後で持ち帰る準備をしなさい。」


アンは不満気に唇を尖らせるが、黙らざるを得ない。


オフィーリアはセシリアへ向き直り、満面に優しい笑みを湛えて言う。

「教えてくださってありがとう、ヴォーンさん。」


セシリアはその笑顔に報いようとするかのように、嬉しそうにぺこりと頭を下げる。

「い、いえ。光栄です。」


最後にオフィーリアはアンへ再び目を向けるが、アンはすでにそっぽを向きながら腕を組んでいる。

「後でお説教だから。」


「はぁ……」

アンが深いため息をつくと、オフィーリアは軽く首を振って。


「セシリア、ロビーで待っていて。適当に軽食でも取るといいわよ。終わったらまた声かけるから。」


オフィーリアもうなずき、「体調は大丈夫そうですが、無理はしないでくださいね、ヴォーンさん。」と声をかける。


セシリアはかすかに戸惑いながらも、しっかりした口調で「ありがとうございます、大丈夫です」と返した。


オフィーリアとブリジットが廊下を抜けて去ると、ロビーにはアンとセシリアが取り残される。アンは横目でセシリアを見やり、苛立ちと興味が入り混じった視線を送る。空気には微妙な重苦しさが漂い、二人の間に沈黙が落ちるのだった。

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