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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
104/176

2-5-2

学院では、エドワードは視線を遠くの地平に向け、その表情をわずかに強張らせていた。

「……聞こえるか?」

彼の声は低く、しかし緊張が滲んでいる。


「何を?」

フェリシティが身体の向きを変え、どこか遠慮なく周囲の音を探るように耳をすませる。


レンは目を閉じて一拍置き、雑念を振り払うように深呼吸したのち、そっと瞳を開いた。

「銃声、だな……。遠いけど、確かに聴こえる。」


下方では、使用人たちも同じ音を捉えたのか、ぱっと身構えるのが見える。

周囲の生徒たちに気づかれないよう、だが素早く警戒態勢に入ったようだった。

複数のメイドや執事が視線を交わし、不安げに森の際を睨んでいる。


円形の講堂近くにいた執事の一人が、隣の同僚らしき男に尋ねかけた。

「どうする? 様子を確かめに行くか?」


初老の使用人はゆるく首を振る。

「ここを離れられん。もし向こうで何かが起きているなら、なおさら学生たちを無防備にしてはおけないさ。」


傍らで控えるメイドも腰のあたりに隠した短剣へ手を添えながらうなずく。

「そうですね……わたしたちはここでの守りを優先しないと。」


離れた上方の屋根では、メガネをかけた執事がレンズを軽く押し上げながら、

遠方の林と使用人たちの様子を見比べている。

その口調は落ち着いていながらも、瞳には探求心がきらめいていた。

「下の皆さんも銃声を察知したようですな。」


三つ編みのメイドは首をゆるく傾け、半分眠たそうな目に微かな光を宿す。

「彼らは動かずに守りを固めるってわけ? じゃあ、外を調べるのは、他の誰かの役目になるのかしら。」


エドワードは小さく笑みを浮かべる。

「そういうことだな。こちらが動けばいい。」


フェリシティは片眉を上げ、

「“こちら”って、あたしたちが? 面倒くさそう。」と呟くが、その口調にはどこか楽しみすら含んでいる。


エドワードは森の方向を軽く顎で示し、「聞こえただろ。行くぞ。何か面白いことが待ってるかもしれない。」


三つ編みのメイドは柱にもたれかかり、いつもの半分閉じたような穏やかな表情に戻った。気だるげに片手をひらりと振り、その声も伸びやかに漂う。

「わたしはここに残るわ。血まみれになるのはごめんだからね。」


エドワードは遠くの林を見据え、慎重に体の重心を低くした。

「行くぞ。……ついて来い、レン。」


レンは面倒そうに息をつき、

「なんで僕まで……」と小声で愚痴りながらも、エドワードのあとを追うように足場から軽やかに跳んだ。

着地すると独り言のように不満を漏らすが、そのまま走り出す。


メガネの執事はグラスを再び直し、

「私も興味が湧きましたので、同行させていただきましょう。さて……」

そう言うと、屋根の端から静かに身を滑らせ、林へ向かう道を踏み出す。


フェリシティは溜息まじりに小さく舌打ちしつつ、小さなフラスコの蓋を外して、一口だけ中身をあおった。

「ふふ、せっかくの面白そうな騒ぎだもの、置いていかれるのはごめんだね。」

フラスコをポケットにしまい、ひと足遅れで跳躍すると、他の三人に並ぶように向かっていく。


屋上に残された三つ編みのメイドは、彼らの後ろ姿が遠ざかるのを半ば眠そうなまなざしで見届ける。

まるで見送りが終わったかのように深くもたれかかり、薄く開いた口から、独り言のように言葉をこぼした。


「どうせ終わってるんじゃないかな……。ま、わたしは動かないけど。」

そう小さく笑みを浮かべると、彼女は柱にもたれ目を閉じ、今にもそのまま微睡みに落ちそうなほど、のんびりとした様子を取り戻していた。

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