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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
103/176

2-5-1【Anti-monarchy Fighters】

森の奥、学園を囲むように広がる境界の森は、不気味なほど静まりかえっていた。

にもかかわらず、その一角には十数名の男女が密やかに集い、統率の取れた動きで物資の準備を進めている。

中央では煙を隠すように湿った落ち葉を被せられた小さな焚火がかすかにくすぶり、

その周りには木箱を開封する者や、厳つい武器を点検する者の姿が見られた。


その集団は、単なる盗賊とは一線を画していた。その統率された動き、厳格な指揮系統、そして反王制の理想を掲げた言葉の数々——彼らは、王政に対抗するための「反王制闘士」としての姿を明らかにしていた。


ある木箱の蓋をこじ開けると、中には火打石式の拳銃が藁の中に整然と並んでいる。

そのすぐ隣では、より小型の木箱を手にする男が刻印を削り取られた痕をなぞり、

新しい紋章が上書きされたのを確認している。

中には紐で束ねられた爆薬が収められていて、森林を通す淡い光を受けて鈍く光っていた。

ハンドラーの指先がかすかに震えたが、それでも彼は黙って箱を仲間に渡す。


焚火付近の若者はピストルを丹念に手入れし、別の若者は黙々と刃を研ぐ。

森の外れでは二人の見張りが周囲を警戒し、一瞬の油断もない。

その物々しい静けさは、彼らがただの盗賊ではないことを物語っていた。

きびきびとした動作は、まるで訓練された部隊のようだ。


そんな集団の中心には、声をひそめながらも圧倒的な指揮を執るリーダーの男が立っていた。

口数は少ないが、わずかなジェスチャーやうなずきだけで部下たちを動かす。

しかし、一人の闘士が火の近くに箱を置きすぎた瞬間だけは、冷ややかな声で指示を飛ばした。


「慎重に。これらは俺たちの“道具”以上の存在だ。希望の重みとして扱え。」


彼は遠くにぼんやりと見える学園の尖塔を軽く示し、声を低く落とす。

「あそこは“明日の支配者”を育てるだけじゃない。

奴らが用意した鎖を、われわれに掛けるための工房でもある。

明日、ただ貴族の跡取りを狙うんじゃない。

その背後にある“仕組み”こそ、われわれが崩す対象だ。」


叱られた闘士は無言で頭を下げ、箱を火から離して置き直す。

リーダーは視線を戻し、起爆装置を前に躊躇する女性闘士を見つけると、

そばにかがんで静かに言葉をかけた。


「これは復讐だけの戦いじゃないし、個人の都合でもない。

“奴らが否定できない未来”を確保するための犠牲だ。

血は流れる。俺たちの血も、奴らの血も。

しかし、それで奴らの“無敵”という幻想が破れるなら、悪くない取引だ。」


彼女の目をまっすぐ見据える。

「あの学院は、やつらの権力と特権と‘触れられない神話’の象徴だ。

明日、その仮面に亀裂を入れる。」


女闘士は深呼吸し、震えを落ち着かせる。

リーダーは立ち上がり、キャンプ全体へと視線を投げかけ、その静かな声音に薄い熱を帯びさせる。


「俺たちは英雄でも殉教者でもない。奴らの権力が絶対でないと示せればそれでいい。

一歩ずつ、奴らの虚構を削り取ってやる。」

彼は周囲をぐるりと見渡す。

「学園が奴らの最後の砦だと信じ込ませてきたのなら、そこに手を伸ばすだけで、

もう奴らの神話は瓦解する。」


闘士たちは短い静寂のなかで互いを見合い、決意を新たに作業へ戻る。

リーダーが手招きすると、一人が箱を開封して差し出した。

中からは、新品同然の磨かれたライフルが取り出され、その光沢に周囲がどよめく。


「ただの武器じゃない。これこそ、後ろ盾がある証拠だ。

我々の戦いを支援する者が、王国の独裁が終わることを願って送ってくれた。」


集まった者たちは、古びた武器とは別格の精巧さに息を呑む。

ライフルだけでなく、手入れの行き届いた拳銃や帯状の弾倉が付いた小型火器まで現れ、

畏怖のささやきが漏れる。


「すごい……こんなの見たことない……」


リーダーは部下たちを観察しつつ、ライフルをそっと渡す。

「自由の大陸フリーダム・ランドで作られたらしいが、俺たちもこれで奴らと同じ土俵に立てる。

彼らが無敵と思い込む要因を、一つずつ崩す道具だ。」


闘士たちは興奮気味に武器を手に取り、互いに言葉少なに頷き合う。

次にリーダーが合図すると、金属製の堅牢な箱が開かれた。

その中から透明の青い液体をたたえた小瓶と、洗練された注射器が取り出される。

火の光でわずかにきらめくその液体を、リーダーは二本の指でつまみ上げる。


「これは次への鍵だが、きょう使うものじゃない。

まず“やるべきこと”を果たし、その先にこれが待っている。」

そう言いながら瓶をしまい、闘士たちは再び淡々と武器の最終点検を進める。

轟音と爆炎を準備する、その姿に迷いはない。


一方、少し離れた茂みの中には、三人のメイドが隠れるように佇んでいた。

皆の制服には、深い漆黒の石で作られたブローチがそれぞれ光を反射している。


一人目のメイドは長スリット入りのスカートから覗く太腿にダガーを装着し、

ドライな口調でつぶやく。

「こんだけ騒々しくやってりゃ、そりゃ探すのも簡単ってもんでしょ。」


二人目は機能的な短いスカートに膝上ブーツという出で立ちで、背中からは長剣の柄が覗く。

好奇心まじりの笑みを浮かべ、

「でも、聞いたより武器の数が多いね。どっから仕入れたんだか……

カタイ? アルケブラーン? それともガウルかな?」

と危険を楽しむように小声で笑う。


三人目の、背の高いメイドがリーダーらしく短く命じるように言う。

「余計な推測は後。今は見るだけよ。」

肩には小型の金属製の肩当て、腕には鋼鉄のブレイサーを装備し、制服の上に輝く銀色の胸当てを身につけている。その輝きに対し、襟元にきっちり留められた黒いブローチが鋭いコントラストを放っていた。腰には細身の剣を携えている。


そこへ、やや離れた小道から一人の男が悠然と歩いてくる。

白手袋に執事服という姿は森の雰囲気にまったく馴染まず、

それがかえって異様な存在感を放っていた。

三人のメイドは互いを見やりつつ、男に対する警戒を強める。


「あれ……ランドル様じゃない……?」

一人目のメイドが声を潜め、ダガーの柄をきつく握る。


二人目のメイドは指を二本立て、待機の合図を送る。

一方の手は長剣の柄に近い位置に構えて、男の進路を凝視する。


しかし、三人目のメイドは微かに首を振り、

「違う、手は出さない。様子を見るだけ。」とささやく。


闘士たちは、近づく男に一気に神経を尖らせた。

誰もが武器を手に取り、構えを取る。

だが男――ランドルと呼ばれた執事は、何も言わずリーダーへまっすぐ歩み寄る。

その静けさがかえって敵意を煽ったのか、一人の闘士がピストルを抜き、ためらいなく引き金を引く。


「やめろ……!」

リーダーが叫んだときには既に弾丸が放たれ、火薬の匂いが辺りに広がる。

ランドルはわずかに首を動かすだけで、弾丸を背後の木へ逸らしたように見えた。

衝撃で木の皮が裂け、乾いた音が森に反響する。


リーダーはすぐに腕を上げて部下を静め、苦い笑みを浮かべるが、

その視線には混ざり合う不快感と興味がうかがえる。


「……やっかいなところへ客人が来たもんだ。計画が少し面倒になるな。」


ランドルは無表情で、何も答えない。

リーダーは兵たちに鋭い声で命じる。

「荷をまとめろ。撤退するぞ!」

即座に武器や爆薬が持ち運ばれ、混乱のなかでランドルは冷徹な眼差しを向けていた。

まるで、場全体を品定めするかのように。


「……掃除は嫌いなんですがね。」

ランドルが誰にともなくつぶやき、手にした杖のようなものに触れる。

カチリという音と共に、中から鋭く磨かれた刃がのぞく。

焚火の薄暗い光に反射し、その冷たい輝きが周囲の闘士たちを凍りつかせる。


一瞬にして、森の空気が張り詰め、葉の揺れる音さえ止まったように感じられる。

至近距離にいた闘士は身動きが取れなくなり、まるで猛獣の威圧に押し潰されたように固まっている。


ただ一人、リーダーだけが顔色一つ変えず、ランドルを観察するように静かな視線を送っていた。

彼以外の闘士たちは、これまでの熱が幻のように打ち消され、

恐怖という冷気に晒されているかのようだった。

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