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お嬢様には絶対に言わないで  作者: renten
ACT 2
101/176

2-4-1【Hartingham Palace】

ハーティンガム宮殿は、カエルウィスクの輝かしい歴史を象徴するかのようにそびえ立っていた。

幾何学的に配置された両翼と中央のバルコニーが調和を成す壮麗な外観は、

石畳を敷き詰めた広大な中庭を見下ろしている。

入口の華美な鉄柵門の両側には、丁寧に刈り込まれた生け垣と鮮やかな花壇が配され、

重厚な威厳に彩りを添えていた。


すでに王族の住まいではないこの宮殿だが、

いまもカエルウィスクの使用人たちが行き交う重要拠点として機能しており、

その廊下や部屋には絶えず人の動きが感じられる。


遅い朝の太陽が、宮殿の石造りの外壁と中庭に射し込み、

その石肌を金色に染めていた。

正門付近に配された王宮警備隊は、赤と黒の制服に身を包み、敬礼の姿勢を保っている。

彼らの頭にかぶったアルバート式の光沢あるヘルメットが陽光を反射し、

飾り房と胸当てが端正に整えられた姿をより堂々と見せていた。

金属製のガントレットとグリーヴこそ実用的な装備だが、

彼らのきびきびとした佇まいには一分の隙もない。


オフィーリアは突然のように姿を現し、宮殿の門の前に立った。

守衛の隊員たちは、彼女を見とめて一斉に小さく頷き、礼を示す。


「ごきげんよう、オフィーリアさま。」

一人の衛兵が、変わらぬかしこまった口調で挨拶をする。


オフィーリアは軽く会釈を返しつつ、自身の来た方向を一瞥し、小さくため息をついた。

「アンはまたずいぶん後れを取ったようね……本当に。」

そう低くつぶやくと、ふと遠くから馬蹄の音が近づいてきたのに気づき、

その方向へ視線を向ける。


そこに現れたのは、よく磨かれた車体と金箔の装飾が施された華やかな馬車。

オフィーリアはわずかに目を細め、見覚えのある車体であることを悟る。


馬車がゆっくりと止まると、まず最初に降り立ったのはブリジット。

逞しい腕や肩の筋肉が浮き出る半袖のメイド服を着こなし、

そのたびごとに金属の足枷のような短い鎖がさやりと音を立てる。

力強い動きに隙はなく、どこか計算された重みを醸し出していた。


そのあとに続いたのはセシリア。

ブリジットの無骨さとは対照的に、細身の体を包むメイド服はスタイルの良さを引き立て、

胸元あたりでややきつく張っているのがわかる。

自然と揺れる腰回りや落ち着いた身のこなしは、一見すると穏やかながら、

周囲に薄く漂う色香を拭えない。

鼻梁には知的な印象を加えるメガネが乗り、動作の一つひとつがとても静かで丁寧だった。


続いて降りてきたのがドロテア。

螺旋状に整えられた金髪が顔周りを飾り、あたかも貴族の肖像画さながらの完璧な配置を保っている。

その存在感は否応なく視線を集め、鋭さを含んだ眼差しが彼女の洞察力をうかがわせる。

降車すると同時にブリジットが添える手を受けるが、その仕草は儀礼以上の意味はなく、

ドロテア自身が持つ威厳で立ち姿を支えている印象だ。


最後に馬車から姿を見せたのは、赤毛の少女。

セシリアがサポートにまわろうとすると、その少女はどこかぎこちなさを感じさせる仕草でステップを降りてくる。

まるで貴族の作法に慣れていないかのような、少年めいた動きが時折見え隠れし、

セシリアの優雅な誘導と微妙に噛み合わない様子だ。


オフィーリアは深く頭を下げて彼女らを出迎える。

「お目にかかれて光栄です、ドロテア様。……そしてジョージアナ様。」


ジョージアナは思わず目を見開き、オフィーリアが自分を名で呼んだことに驚いたようだったが、

すぐにドロテアの動きを見習って小さく会釈する。


ドロテアは控えめな微笑みを浮かべ、その眼差しは静かだが観察力に富んでいる。

「学院の用事かしら?」とオフィーリアが尋ねると、


ジョージアナが答えかけるより先に、ドロテアが流れるような口調で応じた。

「ええ。今年の新入生狩猟大会が、ちょっと……騒がしくなりそうなので。

けっこうな数の家門が、最終戦を直接見たいと言ってきてるんです。」


ジョージアナは一瞬、驚きで表情を変える。

普段なら自分がドロテアの代わりに会話をするのに、こうしてドロテア本人が率先して答えるのは珍しいのだろう。


オフィーリアは納得したように頷き、

「新入生恒例の狩猟大会は学院最大級の公開行事ですものね。

しかも今年は有力家ばかり。誰も見逃したくはないでしょう」と続ける。


ドロテアは柔らかな声音ながら、その言葉には長く事務をこなしてきた者の重みが感じられた。

「そうね。……そちらは、呼び出しの件で?」と彼女は逆に問いかける。


「はい、ドロテア様。」オフィーリアが深く会釈する。

「急な報せでしたので、使用人たちの手配が少し変わりまして。」


ドロテアはブリジットをちらりと視線で示し、

「ブリジットも同じ目的よ。私もついでについてきたの。」と簡潔に言う。


オフィーリアはブリジットと目が合うと、互いにごく小さく頭を下げ合う。

そこには、長く仕えてきた者同士の敬意が見て取れた。


「では、中へ入りましょうか。」

ドロテアがやわらかく提案する。

その声には、客人を誘う温かみと、王族的な権威が同居していた。


「かしこまりました、ドロテア様。」

オフィーリアは彼女たちの隣へ並ぶように歩み寄り、

一同は静かに宮殿の内部へと進んでいくのだった。

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