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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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94品目・料理人見習いと、ハーブソルト(鳥串……焦げていたり生焼けだったり?)

 孤児院の子供達に、焼き鳥の作り方についての簡単なレクチャーをする事になった。

 

 丸鶏の捌き方については、まだ若かった時代に精肉店の店主から直々に教わった事があってね。

 その時に、精肉の処理の仕方も一通り学んだのだよ

 それこそ、普通に精肉部分の処理だけでなく、内臓の取り扱い方から目利きの仕方に至るまで。

 その技術については、生前は弟子……というか、店を一緒に切り盛りしていた弟や雇っていた料理人にも伝えることが出来た……と思う。


「あいつら……たまに手抜きするからなぁ」

「んんん、なんの話だにゃ?」

「昔の話をちょいと思い出しただけだな。さて、それじゃあ、下処理の終わった鶏肉の解体から始めようか。ということで、まずはシャット、自己流で構わないから、手本を見せてやってくれるか?」

「あいにゃ、それじゃあ見ているにゃ」


 二人の少年……ディアンとジオルグは、真剣なまなざしでシャットが鶏を解体しているのをじっと見ている。

 基本的な解体方法は俺と同じ。

 もも肉は付け根の関節から外す、手羽肉も腕の付け根の関節部分に包丁を当てて、スッと切り落とす。

 そのあとで手羽先と手羽元に分けるのだが、それもやはり関節部分に包丁を入れて切るだけ。

 ぶっちゃけてしまうと、鶏肉は脚にせよ手羽にせよ。全て関節から落とす事が出来る。


「これでもも肉と手羽肉は切り分け終ったにゃ。ここまで、やってみるにゃ。ユウヤ、あたいの解体でおかしいところはなかったかにゃ?」

「いや、基本に忠実な解体だと思うが? シャットのばらし方は、俺たちがいうところの『外剥ぎ方式』ってやつだからな。このあとの胸肉や首、背肉のバラシについてはテクニックがいるので、それはまた今度にでも教えてやるさ。ほら、やってみろ?」

「はいっ」

「まず最初は、もも肉の付け根から……」


 二人とも、下処理はできるという事でナイフの使い方についてはそれほどおっかなくはない。

 きっと先輩狩人たちに色々と学んだのだろう。


「ここが関節で……ここに切れ目を入れて……」

「ふぅ……こんなに難しいとは思っていなかったですよ」

「まあ、初めてなら仕方がないさ。数をこなしてコツを掴めば、あとはそんなに難しくはない。大切なのは、どれだけ手早く解体できるか。時間を掛け過ぎると鮮度が下がってしまうのと、それだけ雑菌に触れる可能性が上がるからね」

「「「雑菌?」」」

「目に見えない微生物……う~む、どう説明してよいのやら。まあ、とにかく時間が経つにつれて体を壊しやすくなるということは覚えておいた方がいい。あとは、内臓の処理……については大丈夫か」

「はい、それは大丈夫です」


 元気がいいのは若さの印ってか。

 それじゃあ、次のステップに進むかねぇ。

 手羽ともも肉をばらしたあとは、シャットたちは鳥の背骨に沿ってナイフを入れて真っ二つに割り、そして直火焼きにしたり燻製にするらしい。

 だが、ここは焼き鳥用に肉を卸す過程を見せてあげますか。


「ここからはちょいと技術がいる。時間がある時にでも練習した方がいい。まず、胸肉とささみ、やげんを外す所から……」


 俺はこの作業についてはペティナイフで行っている。

 まあ、研ぎこんで細くなったペティナイフを使って、骨に沿って肉を剝がしていくんだけれどね。

 ちょちょいと胸肉とササミ、ヤゲンを外したら、今度は背中側の処理。

 そんな感じで、トータルでこれだけの部位に切り分ける事が出来た。


 もも肉、むね肉、ささみ……焼き鳥として使用

 手羽先……手羽先焼き

 手羽元……骨から身を外して骨付きから揚げ(チューリップ揚げ)

 皮、ヤゲン(胸軟骨)、ボンチリ(尻尾肉)、せせり(首肉)、腹身……下処理の後焼き鳥

 ヒザナンコツ……から揚げ


 このうち、もも肉と胸肉、手羽先、手羽元については、まあ数をこなせばという所だろう。

 問題はそれ以外の部位。

 特に皮はズタズタで、使いようがない。

 せせりはこま切れ肉のようになってしまうし、ボンチリは潰れてしまっている。

 

「……うん、俺の捌いたものと比較して、どう思う?」

「無駄が多くて、使えなくなっています。ユウヤさんの捌いた奴は、どれも綺麗に仕上がっているのに」

「まあ、それについてはさっきも話した通り、今日の練習開始ですぐに俺と同じように出来てしまったら、俺の立場はどこにいくことやら。という事で、これが基本の解体方法。鶏肉を外側から解体するので、『外剥ぎ方式』って呼ばれている。まあ、及第点なのは胸肉ともも肉ぐらいだな、あとは孤児院の厨房で数をこなす。兎にも角にも、それだけだ」

「「はいっ!!」」


 まあ、気合が入っているので大丈夫だろう。

 ナイフ捌きについても、慌てず騒がず丁寧に取り扱っているので、大きな怪我をするような心配もない。


「それじゃあ、今解体した肉を使って、焼き鳥を仕込んでいく。まずは俺が見本で作ってみるので、そのあとで自分達でもやってみろ」


 鳥正肉串、胸肉串、ささみいかだ、皮、やげん、ボンチリなどなど。

 一つ一つ、ゆっくりと見せるように仕込んでいく。

 そして一通りの串が完成したら、それはバットに入れて彼らの目の前に置いておく。

 

「こいつを手本にして、まずはやってみたらいい。そのあとで実際に焼いてみて、味を確認する」

「わかりました!」

「じゃあ、僕が胸肉で串をつくるので……」


 慣れない手つきで次々と肉を焼き鳥用の大きさに等分し、竹串を打っていく。

 まあ、大きさが不揃いなのは致し方が無い。

 ちなみに俺の横では、シャットが腕を組んでニマニマと笑っている。

 俺から炭焼き場の使用許可を貰っているだけあって、炭焼きについてはかなり慣れたものである。

 

「さて……そうだなぁ。シャット、ちょいと店の前に炭焼き台を出してきてくれるか? そこで火を起こして、実際に焼いて食べて貰った方がいい」

「わかったにゃ」


 急ぎホールにでて、厨房倉庫(ストレージ)から露店用の炭焼き台を取り出す。

 ついでに薪も出しておくか、流石に炭はうちからじゃないと入手できないからなぁ。


「さてと……マリアン、ちょいと頼みがあるんだがいいか?」

「え、私ですか? どのような頼みでしょうか?」


 奥のテーブル席で、のんびりと本を読んでいたマリアンに手を合わせる。

 厨房倉庫(ストレージ)から『ハーブソルト』を引っ張り出すと、それを少し取り出して、マリアンに見せる。


「こいつを作ってみたいんだが。材料って、この街の市場で手に入るものなのか?」

「確か、細かく刻んだハーブを混ぜた塩コショウですよね? 完全に同じものがあるかはわかりませんけれど……ちょっといってきます」

「すまんが、頼む」

「お任せください。冒険者組合で薬草採取の依頼を何度も経験していますので。香草についても、ある程度は知識を持っていますから大丈夫です!」


 そう告げて、マリアンが店の外に飛び出していった。

 さて、少年たちの状況は……と。


「う~、この肉を同じ大きさに切り分けるのって、なにかコツがあるのですか?」

「コツはあるが。最初のうちは肉を切るときに、方向をしっかりと決めて真っすぐに切る事……としか言いようがないんだがなぁ。ちょいと見ていろ」


 横について、鶏もも肉を一枚取り出す。

 皮目を下に置き、筋と血管が残っていればそれを外し、あとは幅2センチ程度の帯状に次々と切っていく。さらに切り出した肉を、横に2センチ程度に切っていけば、大体四角い形に切り分けられる。

 慣れないうちは、親指大に切っていけばいいと思う。

 後は好みの問題だからねぇ。

 これが慣れると、今度は肉質に拘って切り方を変える必要が出てくる。まあ、それは追々、自分たちで気がつくだろう。

 

 串を打つときはしっかりと肉を押さえ、それでいて潰れないような力加減で竹串を真っ直ぐに刺す。

 今回は焼き鳥なので、野菜は間に挟まない。


「ほら、こんな感じだ。それじゃあ、残りの肉もとっとと終わらせちまうか」

「は、はい!!」

「なんで、こんなにきれいに切れるのかなぁ……」

「ナイフの切れあじが悪いと、身がボソボソになっちまうからな。常によく切れるように自分で研ぐか、もしくは鍛冶屋で研いでもらうしかないだろう……そうだな、この通りの二つ向こうに、グレンガイルさんの鍛冶場があるはずだから。そこに持って行って、研いで貰うといいかもな」

「でも、職人に研ぎを頼むと、料金が高いってシスターが話していたんですが」

「まあ、そのときは『ユウヤがウイスキーと引き換えに』って話していたって言えばいいさ。ただし、俺が手伝えるのは3回まで、それ以上は自分たちで頑張ればいい」


 ヘーゼル・ウッド様も、それぐらいの助力は許してくれるだろう。

 あまり手を貸し過ぎるのもよくはないのだが、ここまでなら大丈夫のような気がするのでね。

 そんなこんなで、どうにか焼き鳥串を打ち終えたころには薪で起こした火も落ち着いたようだし。

 マリアンも各種ハーブを購入して戻って来た。


「そけれじゃあ、あとは焼くだけだ。これについてはコツなんてない、ただ、肉を焼いていると脂が落ちるので、それで火が上がったりするから注意が必要だ。シャット、焼き方は任せていいか?」

「あいにゃ!! それじゃあ二人ともそこに並ぶにゃ」


 ということなので、外で肉を焼くのはシャットに任せる。俺はマリアンが購入して来てくれた香草を確認するとしますか。


「おおよそ、これかなぁというものは揃えてきましたわ。全く同じものがないのは、仕方がないという事で」

「それは助かるな。では、本格的に調合をやってみますかねぇ」


 ここからは、久しぶりに『詳細情報』の画面を引っ張り出す。

 そして店に置いてあるハーブソルトを参考に、ちょいと自己流で作ってみますかねぇ。


「基本はバジルとパセリ、塩、粗挽き胡椒。ここにクミンとタイムを少々加えて……と。こっちの素材だと、これとこれ、こいつが近似種のようだから」


 マリアンが購入して来た香草を詳細情報で確認し、近いものを順にあたり鉢(摺鉢)に入れていく。

 そしてあら塩と胡椒の実も入れて、ゴリゴリと擦っていくのだが。

 コツとしては、あたり棒は回さない、押すだけ。

 ゴリゴリと回す人が多いが、基本は8の字を描くように押すと疲れない。


「はぁ……こうしてみていますと、魔法薬を作っているようにも感じますね。でも、この香りって、この店で使っているハーブソルトに近いですわ」

「ま、そうなるように合わせているからな。ちょいと、今からいうものを羊皮紙にでもメモしてくれるか?」

「は、はい、少々お待ちください」


 マリアンの準備が出来たあたりで、今合わせたハーブソルトの分量を一つ一つメモして貰う。

 これは最後に少年たちに渡し、自分達で作ってみるように伝えるだけ。


「……よし、これでいいかな。それじゃあ、これを薬味入れに移して……」


 うちの店で使っている塩コショウ入れ、それの予備に移した後、店の外でいい香りを立たせている二人の元に持っていく。


「ほら、これはそこの市場で手に入る材料を使ったハーブソルトだ。これをパパッと焼きあがった串に振って完成だが……ああ、やっぱり焦げているか」

「焼きについても、まだまだだにゃあ。年長のディアンは焼くのは美味いけれど、鶏肉の捌き方が今一つ。逆にジオルグは丁寧に捌けるけれど、火を少し怖がっているにゃあ」

「まあ、そうなるよな……こればっかりは慣れが必要なので、大食祭まではしっかりと練習しておくことだ。本番では、俺達は手伝えないからな」

「はい、大丈夫です」

「それまでに、上手くなってみせます」


 それは重畳。

 という事で、この場はシャットに任せておくか。


「それじゃあシャット、ここは任せる。俺は昼の準備をするので」

「かしこまりだにゃ。ちなみに、この子たちの焼き鳥も売っていいのかにゃ?」


 2人はまだ、露店の許可を取っていない。

 だけど、うちの前で、俺の指導で、ユウヤの店の出張所ということで……も誤魔化せないよなぁ。


「さすがに許可は取れていないだろうから、うちの店の料理を買った客に無料でつけてやってくれ。その分の代金は俺が支払うから」

「ええええ、それは駄目ですよ」

「そこまでお世話になるわけにはいきません。だから、ここで焼く分は僕たちが無料で配ります」

「ま、そういうことなら……」


 それじゃあ、外の監督はシャットに任せるか。

 俺は昼の準備……今日はフィリーチーズステーキだけの販売でいいか。

 マリアンに会計を受け渡しを頼めばいいかな。


 〇 〇 〇 〇 〇


――4時間後

 昼3つの鐘が鳴るころ、ちょうどフィリーチーズステーキは売り切れた。

 外ではまだ、シャット指導で焼き鳥の講習会が続いている。

 フィリーチーズステーキを買ったお客さんにサービスで渡していたらしいが、受け取ってすぐに返されたり、受け取られなかったりと散々な目に合っていたらしい。

 その都度、シャットがフォローしたらしいので客たちも笑って許してくれているようだ。

 まあ、焼き過ぎ、生焼け、焦げばかりのものもあったようだから、そうなるのは目に見えている。

 それでも、へこむことなく真剣に焼き鳥を焼いているのは好感が持てるねぇ。


「こっちはそろそろ店じまいだが。とりあえず、俺たちの昼飯用に12本ほど焼いてもらうかな?」

「12本ですね、少々お待ちください」

「急ぎ焼きますので!」


 俺の注文を受けて、慌てて焼き始める二人だが。

 

「急ぐ必要はないからな。焼き鳥っていうのは、どうしても時間がかかる料理だ。だから、焦らず、どっしりと構えているぐらいがいい。急いで焼いて、中が生だったりしたら目も当てられないからな。まずは、しっかりとしたものを作ること」

「はいっ!!」


 シャットがつきっきりで見ているので、多少は緊張しているような気もするが。

 今はそれぐらいがいいだろう。

 大食祭まで一週間もないのだから、若干スパルタ気味ではあるが、基礎だけでもしっかりと身に着けて欲しいところだからな。


「……ん、まあ、よいかにゃ?」

「シャット姉さん、ありがとうございます。お待たせしました、鳥串のハーブ塩12本です」


 皿に盛り付けて差し出された焼き鳥。

 それを受け取って、まずは一本。


「ムシャッ……んんんん、味が薄いか……って、うわ、こっちはしょっぱいか」

「塩加減が絶妙に狂っていますわ……でも、焼き加減は、まあまあですわね。ユウヤさんから習ったばかりのシャットぐらいには焼けていますわ」

「にゃはははははは」


 それ、誉め言葉じゃないよなぁ。

 それじゃあ、塩の振り加減の練習用にいいものを持ってくるか。


「ちょいと待っていろ」


 そのまま店の奥に向かい、越境庵の事務室へと移動。そこでお勧め品とかを書くのに使っているコート紙の中から、一番色が濃いものを持って外に出る。


「こいつの上で、塩を振る練習をすればいい。こんな感じでな」


 カウンターの上にコート紙を置き、そのうえで塩コショウの入った薬味入れを振るってみせる。

 すると、紙全体にまんべんなく、ムラが無く振ることが出来た。

 これも親方から叩き込まれた練習方法でね。

 試しに二人にもやらせてみたが、あちこちムラだらけ。

 塩コショウが全くない場所もあれば、重なり合って盛り塩のようになっている部分もある。


「うわぁ……これも練習ですよね」

「まあ、な。本当ならタレを使った方が手早いんだが、流石にこいつは秘伝なので教えることも分けてやることもできない。その代わりに、ハーブ塩のレシピを渡しただろう? 焼くのがうまくなり、塩加減も均等に出来るようになったら、うちの味に近いものを提供する事が出来るようになる。まあ、孤児院の子供達でも、手伝ってくれそうな子には色々と教えてやるといいさ」

「はい、ありがとうございます!!」


 結局、今日は夕方5つの鐘が鳴るまで鶏の解体と炭焼きの練習に付き合う事になった。

 孤児院にも焼き台はあるらしいので、あとはそこで練習するか、露店の場所を早めに決めて焼き場を作って、そこで練習するといいだろう。

 いずれにしても、あと数日はうちの前で練習したいそうだから、その時ぐらいは付き合ってやるさ。

 困ったことがあったら、お互いさま。

 それも子供が困っているのなら、手を差し出すのが大人の役目ってね。

 それにしても、ちょいと試食で食べ過ぎたかなぁ……。


 久しぶりに、胃腸薬も飲んでおくか。

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