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9品目・理不尽な契約破棄と、旅の準備(つくね串と鳥スープ、仕込み)

 昨日は散々な目に遭った。


 話の流れから察するに、あのダイスとかいう責任者が一人で暴走していたように感じるのだが。

 一緒についてきていた料理人のジョンは、話し合いが始まるまでは何も聞かされていなかったようだった。まあ、こっちに頭を下げているところから察するに、彼はまともな料理人だったのだろう。


「まあ、話し合いは平行線で終わったようだし、あとは俺の関与するところではないからなぁ……と、今日はこれを使ってみるか」


 昨日仕込んだつくねのタネ。

 これを使って、今日はちょっと趣味に走らせてもらう。

 まずはつくねの仕込みから、これは昨日と同じなので作り方については割愛させてもらう。

 次に、大きめの寸胴に水を張り、洗ってぶつ切りにした生姜と長ネギの青い部分を放り込んで、弱火で火に掛けておく。

 そして30分ほど火に掛けたら生姜とネギを取り除き、今度は中火からやや強火に変更。

 ぐつぐつと沸騰してきたら、つくねのタネを手に取り軽く手の中で練り合わせたのち、ゆっくりと手を握る要領で一口大に丸く絞ると、それを寸胴の中に落としていく。

 これは速さが勝負、次々と丸く落としていきつつ、火が通って浮かんで来たつくねを麺上げ用の平ざるで掬ってバットに移す。

 これを幾度となく繰り返していくと、つくねの旨味が寸胴の中に広がり、スープが完成する。

 最後に塩・胡椒・ごま油、そして白醤油を垂らして味を見て、ちょうどいい塩梅に仕上がっていたら鳥つくねスープの完成。


 つくねは3つ一組で割りばしに突き刺しておく。

 あとは明日、炭火で炙ってからたれを絡めて完成ということ。


「うん……スープもいい感じに仕上がっている。つくねはまあ、こんなものだろうな。あとはスープ用の容器は……と、ああ、これが残っていたか」


 札幌にあった俺の店の近くには、小さなお寺があってね。

 毎年大みそかになると、近所の蕎麦屋がふるまい蕎麦を用意したり、町内会有志で甘酒などのサービスをしていた。

 うちも大みそかには、ふるまいおでんを用意して持っていったものだよ。

 その時に在庫していた『使い捨てのお椀』があったので、これも用意しておく。


「まあ、このお椀の原材料はサトウキビだから、その辺に捨てられていても土に還るから問題はない……と」


 うちが露店とかで使っているのも、すべてこの『サトウキビ繊維製の使い捨て食器シリーズ』、異世界だからこそ、エコには気を使わないとならない。

 余談だが、うちの厨房のごみ箱は不思議な仕組みになっていて、大体2時間ほどで中身が空っぽになる。

 詳細説明で確認すると、どうやらどこかに転送されて『堆肥作り』に使われているらしい。

 空き瓶や空き缶は指定の箱に入れておくと、一つ1メレルに換金されていたし、その他のゴミなどもまとめて消滅している。

 だからといって、資源や食材を無駄にすることはできない。


「さてと、それじゃあいきますかねぇ」


 神棚に今日仕込んだものをお供えして、俺は厨房を後にする。

 今日は、面倒くさい奴は来ていませんように。


 〇 〇 〇 〇 〇


――中央広場

 いつものように宿を後にして、ふらっと露店の場所へと移動。

 手ぶらでこれるのは実に楽でいいのだけれど。


「んんん、これはどういうことだ?」

 

 昨日まで俺が使っていた場所に、別の知らない露店が出ている。

 契約では、あと3日はここを使えるはずなのだが。

 そう思って露店の準備をしている女性に話しかけてみる。


「あの、ちょいとすいません。この場所は俺が契約していた場所なのですけれど」

「え? そうなのですか? 私は今朝方、この街に着いたばかりでして。ついさっき、商業ギルドに露店の申請をしたところ、ここが空いていますよって契約して来たばかりなのですよ」


 そう説明しながら、商業ギルドが発行した許可証を俺に見せてくれる。

 うむ、ギルドの証明サインも入っているし、契約期間もしっかりと明記してある。

 ということは、俺はここから追い出されたことになるのか?

 なんでまた?


「あ、いたいた。ユウヤ、今日はどこで露店をひらくんだい?」

「先ほどここにきたのだが、すでにそちらの女性が露店の準備をしていてね。ひょっとして契約が切れて、今日は別の場所なのかと探していたところなんだが」

 

 シャットとマリアンがにこやかに近寄って来たので、俺としてもあったことを説明するしかない。


「……ということで、どうやら俺はここの場所の契約を破棄されてしまったようだ」

「ふむふむ。ユウヤ、ギルドでなにかやらかした?」

「そんな訳があるか……まあ、別の場所を借りればいいだけだから、今からギルドにいってくるさ」

「では、私たちも同行しますわ」


 露店の準備をしている姉さんに軽く挨拶をしてから、俺たちは商業ギルドへと向かう。

 もしも手違いか何かだったらいいのだが、まさか昨日の件でダイスが何かしやがったんじゃないだろうな。


………

……


――商業ギルド

 中は昼下がりという事もあり、結構混雑している。

 だから番号札を取ってしばしの順番待ちののち、30分ほどで俺たちはカウンターに呼び出された。

 そしてギルド会員証と露店の契約書を提出し、俺が使っていた場所に別の商人が露店を出している件について尋ねてみたのだが。


「ユウヤ・ウドウさまの露店契約については、本日の朝の時点で終了届けがでていますけれど?」

「「「はぁ?」」」


 三人同時に素っ頓狂な返事を返してしまったものだから、近くの商人が驚いてこっちを見ている。

 

「いやいや、その書類って誰がだしたんだ? 俺は今朝は仕込みで忙しくて、ここに来ることなんてできなかったのだが」

「ちょっと詳しいことは調べてみないとなんとも言えません。ですが、終了届につきましては、どこにも不備がないのですよ」

「ちょっと見せてくれるか?」


 そう告げて、受付に俺が出したらしい終了届を見せて貰う。

 その際、ステータス画面を浮かべたうえで、カメラで終了届を映してみる事も忘れない。

 すると、詳細説明には、こんな表示が出ていた。


『ピッ……この終了届は、贋作スキルによって偽造されています。また、ギルドマスターの確認印についても偽造。明らかに商業ギルド関係者もしくは顔が利くものによる犯行かと思われます』


 あ~、なるほどなぁ。


「くっそ、そういう事かよ」

「ご確認いただけたでしょうか。では、この件はこれで終わりという事でよろしいですか? 実は、商業ギルドからユウヤ・ウドウさまへ指名依頼がございまして」

「んんん? 指名依頼ってなんだ?」

「冒険者組合や各種職人組合などでもあるのですか、指名依頼というのは、対象となった商人に商品の納入を依頼するものです。貴族さまなどがよく行うものでして、絵画や調度品といった美術品関係の品物の納品依頼が多いのですが、ユウヤさまには露店で出していた『焼き鳥のタレ』と『レシピ』を納品して欲しいという依頼が届いていますが」


 ふむ。

 その依頼を出した阿呆は、どれだけ面の皮が厚いんだ?

 あきらかに露店の邪魔をした挙句、仕事がなくて困っているところに仕事関係の依頼をだしてくるとは、いい根性しているじゃないか。


「そうですね、残念ですがお 断 り し ま す。実は、今日でこの街を離れようと思っていたのですけれど。露店が終わった夕方にでも手続きをしようと思っていましたので、都合がいいです」

「そうでしたか。それは残念です。では、依頼人にはそのようにお伝えしておきますので」

「では、よろしくお願いします……」


 軽く頭を下げて、商業ギルドから出る。

 すると、一連のやり取りを横で聞いていたシャットとマリアンが、俺に不安そうな目を向けて来る。


「まあ、今の話は聞いていただろう? 明らかにダイスとかいう奴に嵌められたようだから、俺はこの街から出る。別に一つの場所に留まっている気もなかったし、仕事の邪魔をされたからといっていつまでも腹を立てている訳にもいかないからなぁ……」


 ぶっちゃけると、もしも俺があと20歳若かったとしたら、この一連の騒動を裏で手引きしている奴の顔面をぶん殴ってやりたいところだ。

 まあ、実質若返ってはいるのだけれど、精神年齢的にはもうすぐ還暦だったのでね。


「ユ、ユウヤぁ。私たちは、これからどうやってあの美味しい賄いご飯を食べたらいいんだよぉ」

「もう、ギルド酒場のクッソ不味いご飯には戻れない」

「おっと……そうきたか」


 さて、次の町といっても、この街以外にどこに町があるのかなんて、俺は全く知らない。

 売り言葉に買い言葉じゃないけれど、さっきはとっさにそう話しただけだからなぁ。


「シャット、ここから近い町までは、どれぐらいの距離があるんだ?」

「一番近いのなら、馬車で10日っていうところかな。アードベック辺境伯さまの領都、ウーガ・トダールが一番近いと思う」

「ウーガ・トダールでしたら、定期馬車が出ていますので、そちらに相乗りするのがよろしいかと」

 

 そりゃまた、随分と長旅だな。


「定期馬車? そんなものがあるのか」

「ええ。正確には、隊商交易馬車便(キャラバン)といいまして、商業ギルドが近隣の都市へと商品を輸送する馬車隊の事をそう呼んでいます。当然ながら一般客を乗せる馬車も同行しますし、それの護衛任務も冒険者ギルドに常設依頼として掲示されていますわ」

「ふむ。そんじゃ、それにでも乗っていくとするか。それで、お前さんたちを次の町まで護衛として雇う場合は、ギルドに指名依頼を出せばいいのか?」


 ニイッと笑いながら二人に話しかけると。

 まるで葬式帰りのように意気消沈していた二人が、パアッと笑顔になる。


「主要街道での護衛任務は、一日につき500メレルです。2人なので一日1000メレル、それが10日分ですので10000メレルといったところです」

「あ、あのな、賄い飯が付くのなら、私たちは割引も可能だ!!」

「はっはっ。賄いっていうのは、従業員の食事のことを差すんだぞ。まあ、二人を雇うという事は、従業員ということになるのかもな。よし、それで話を付けるとするか」

 

 話は決まった、善は急げ。

 急ぎ冒険者ギルドに向かい、指名依頼を提出。

 幸いなことに、次の隊商交易馬車便(キャラバン)は3日後に出発するらしく、馬車の3人分の席の予約と支払いも終わらせた。

 あとは出発まで、のんびりと町の中をぶらぶらするだけだが。


――グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 手続きを終らせて冒険者ギルド内の酒場に向かうと、派手に腹の虫を鳴らしているシャットとマリアンがテーブルに突っ伏している。


「おいおい、随分と派手に腹の虫をならしているなぁ」

「だってよぉ……いつもならユウヤの賄い飯が食べれるからさ、腹を空かせて仕事をしていたんだよ」

「でも、今日は仕事がないので、緊張感がすっかりほぐれてしまい……ということですわ」

「なるほどねぇ……とはいえ、ここはよそ様の酒場だから、勝手に食い物を出すわけにはいかないだろうし」


 どこか飯を食べる場所を探してみるか……って、ああ、いいところがあるじゃないか。

 この二人なら、俺が内緒といえばけっして口を割るようなこともないし、善悪でいえばかなり善よりのお人好しのようだからなぁ。

 まあ、酒癖が悪いのはどうにかしてくれと思うが。


「それじゃあ、ちょっと場所を変えてみるか」

「へ? どこに?」

「まあまあ、ユウヤさんについていきましょうよ」


 話は決まった、ということで、ちょいと町の裏路地へ向かってみるか。

 いや、町をぐるりと囲んでいる城壁でもいいや、そっちのほうが人通りは少ないだろう。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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