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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
王都ヴィターエで、てんやわんや

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88品目魔石の秘密と、救世教会(賄いの天丼と、定番メニュー)

 何だか判らない内に、魔物の解体と料理を行ってしまっていた。


 なんでこうなってしまったかというと、実は幾つもの勘違いが重なってしまった事が判った。

 アバンとロトの二人は、俺の店にマリアンがいる事を知っていた為、魔物の素材を持ち込んでも彼女が浄化の術式を施してくれるだろうと考えたらしい。

 そしてマリアンたちは逆に、ユウヤの店に持ち込んだということは既に浄化の術式は施されていたと思っていたらしい。

 問題なのは、魔物であるリエーブルを、誰が浄化したかという事。

 さすがに閉店時間になってしまったので、この件はマリアンとシャットの二人が調べてくれる事になったので、今日の所はこれでおしまい。

 アバンたちは今日もざっぱな支払いをして帰っていった。

 まあ、必ず多めに置いて行ってくれているので、また次に来た時は少しサービスしてやる事にした。


「ま、今回の件については俺も勉強させてもらったという事で」

「それでいいと思うにゃ。でも、一体だれが浄化してくれたのかにゃ?」


 腕を組んで頭を傾げるシャットだが。

 俺には大体の予想は付いている。

 そう思ってチラッと店内の神棚に視線を送ると、ヘーゼル・ウッドさまの御柱がカクカクと揺れている。

 

「ま、助かりましたよという事で。種明かしは無さそうだけれど、それはそういう事としておいていいんじゃないかなぁ」


 神棚に追加のお供えとしてピザとリゾットを供える。

 するとジ・マクアレンさまとヘーゼル・ウッドさまの御柱が震え、一瞬でお供え物が消えていった。

 まあ、これもいつもの事なので、特に驚くことはない。

 地球よりもほんの少しだけ、神様との距離が近いだけ。


「ああっ、ユウヤ店長、魔物の肉が浄化されている理由が判りましたわ!!」


 振り帰ると、店内中に大量の魔法陣が張り付いていて、クルクルと紋様が蠢いている。


「はぁ、こいつがその理由っていうやつか? こんなに大量の魔法陣が作られていたとはねぇ」

「いえ、この魔法陣は私が施した『解析の術式』ですわ。そして、今回の浄化については、こちらが原因だったようです」


 そう告げて俺に見せたのは、店内に置いてある『除菌スプレー』。

 ただし、よく見ると中に入っている液剤が、ほんのりと輝いているように感じるのだが。


「これが、なにかしたのか?」

「このスプレーをかけた場所は、ヘーゼル・ウッドさまの加護により浄化されます。そして、その浄化された場所にも、浄化の加護が一定時間は残るのですわ。アバンたちが最初にリエーブルを持ち込んだ時、カウンターに載せましたわよね? その時、カウンターに残っていた浄化の効果がそのまま既にリエーブルにも浸透したのでしょう。更に!!」


 成程なぁと納得していると、マリアンが懐から透き通った深紅の魔石を取り出した。

 それは解析できるなら頼むと、俺が預けていたやつだな。

 昨晩、アバンたちに返そうと思ったのだが、リエーブルは店長にあげたものだから返す必要はないって笑っていたんだよなぁ。


「この魔石、実は本来の魔石が浄化されたもので間違いはありません。リエーブルは火の属性を持つ魔物ですわ、これは火の魔石に間違いはありません……ああ、まさか上位魔石を見る事が出来るなんて思ってもみませんでしたわ」

「ふぅん。まあ、それが使えるのなら、その魔石でなんかマジックアイテムを作ってくれると助かるな。大き過ぎるのなら砕いて使っても構わないから」

「く、砕くのですか……これを……」


 ん? 俺は何か間違ったことを話したのか?


「ユウヤは知らないから無理もないにゃ。上位魔石は、上位の魔物を退治しても手に入るかどうか分からない貴重なものにゃ。その大きさでも、第二区画に屋敷を立てられるだけの儲けになるにゃ。それを砕いてマジックアイテムを作るだなんて、流石のマリアンでも無理だにゃ」

「そ、その通りですわ。私ではこれをうまく扱う事は出来ませんので、一旦お返ししますわ」


 そう説明してから、俺に火の上位魔石を返してくる。

 まあ、持ち歩く必要もないし店に置いておくとまた狙われる可能性があるので、こいつは空間収納(ストレージ)に放り込んでおいた方がいいか。


「まあ、うちの店に魔物の肉が持ち込まれたとしても、この除菌スプレーで浄化できるっていうことは理解したが……あまり魔物の肉は使いたくはないよなぁ」

「でも、普通に出回っている魔物の肉よりも、すっごく美味しかったにゃ。きっとそれも、女神様の加護だにゃ」

「それはありがたいねぇ……と、そろそろ開店準備を始めますか」


 昨日から始めたフィリーチーズステーキとホットドックは大盛況だったので、今日は少し多めに仕込んでおくとしますかねぇ……。


………

……


――そして営業中

 やはり、昨日の噂を聞きつけた客が殺到している。

 とはいえ、外壁には昼営業についてのルールを書いた看板を下げているので、それほどの混雑にはならない。


・割り込み禁止、列を作って並ぶこと。

・購入時は一人3品まで、飲み物は品数と一緒の分だけ追加購入可能

・ツケ禁止、いつもにこにこ現金払い

 

 この看板に加えて、今日はは更に二つ追加してある。


・素材の持ち込みは原則お断り

・大金貨の支払いはご遠慮ください


 さすがに釣り銭で時間がとられてしまうので、大金貨はお断りしている。

 いや、数日前に一度だけあってね、シャットが困っていたからな。

 そんなこんなで、昨日よりはゆっくりと販売する事が出来たのは実に重畳である。

 そう思っていたんだけれど。


「では、こちらのフィリーチーズステーキを3人前、寄進して頂けますか?」

「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、救世教会の使徒だにゃあ!!」

「あっちゃあ……とうとう目を付けられましたか」


 んんん?

 カウンターの前に立っている司祭服の女性に、シャットとマリアンが困った顔をしているんだが。


「あいすいません、流石に寄進はしていないのですよ。一人前90メレル(日本円換算900円)ですので、3人前でしたら270メレルですけれど、それでよろしいですか?」

「あの……私は寄進をお願いしたのであって、購入するとは申していません。まあ、こちらの店がそのようなことを申すという事は、すなわち我が救世教会が祀る神、ストレミングさまのご不興を買うことになりま」


――ガタガタッ

 おっと、神棚の御柱がカタカタと震えているのだが。

 そしてその音を聞いた司祭がビクッと体を震わせて、おずおずと神棚を見上げる。


「あ、ああ……なんということでしょう。この店は悪神を祀っているのですか……このような店は、世にあってはいけませ」


――ガタガタッ

 あ~、創造神と運命の女神さま、揃ってお怒りのようですが。

 そりゃそうだよなぁ。


「ヒイッ! き、今日のところはこれで失礼しますわ、早く、その悪神の像を燃やしなさい、さもなくは、この店には災いが降りかかるでしょう!!」


 それだけを叫んで、司祭は逃げるように走り去っていった。


「……ん~、とりあえず、ホットドックとフィリーチーズステーキをお供えします」


 なんだか分らんうちに解決しているようなので、神棚に追加でお供えをしておく。


「それにしても……さっきのはなんだ?」

「まあ、あとで説明するにゃ。このまま何もなければいいんだけれどにゃあ」

「はぁ、なんだかまた、面倒なことに巻き込まれたような気がするなぁ……」


 とりあえず、詳しい説明は後でして貰うということで。

 今は料理に集中しますかねぇ。


………

……


――営業後・賄いの時間

 今日はマリアンの注文で天丼を用意した。 

 といっても、天ぷらの具材は揚げ台に乗せてあるので、各々好きなものをトッピングして天丼のタレを掛けて食べている。


「しかし……あの昼間来た救世教会って、いったいどこの神様を祀っているんだ? ずっとジ・マクアレンさまとヘーゼル・ウッドさまがお怒りだったけれど」

「そもそも、あいつらの信仰している神なんて存在していないにゃ。救世神ストレミングっていうのが、あいつらの神様の名前なんだけれど、そんな神さまは存在していないにゃ」

「ユウヤ店長は、聖光教会の聖堂に入ったことがありますよね? あの中央の御柱と、その周囲に存在する柱が、この世界の神々を現わしています」


 そこからの説明で、俺は信じられないことを聞いた。

 創造神以外の神は存在するのだが、その数についてはどれだけの神がいるのか誰も知らないらしい。

 というのも、御柱、すなわちジ・マクアレンさまと周囲の12神、すなわちヘーゼル・ウッド様たち以外の神々については、八百万の神に近い教えで存在しているらしい。


 『万物には等しく神・女神・眷属神が存在している。それらを統治するのが12の御柱であり、その最高位がジ・マクアレンさまである』

 

 これが聖光教会の教えであり、ほぼ現存する国家では、この教えを忠実に護っているらしい。

 だが、救世教会は別であり、救世神ストレミングというのは存在しない。

 ストレミングは世界の創造期に、この世界に侵攻してきた魔神と戦い、世界を救った勇者の名前であり、神ではない。

 だが、それがやがて神格を持ち、神々の一柱となり、やがて最高位に君臨した……というのが、救世教会の教えだそうで。


「……つまり、聖光教会はストレミングの存在は否定していると」

「その通りだにゃ。でも、名前は違うけれど創世記の勇者は存在していたので、それをうまく改変して宗教国家を作ったのにゃ」

「はぁ、その宗教国家が面倒くさいと」

「ええ。海の向こうの宗教国家である神聖エピキュアー王国というのが、その救世教会母体となっている国家でして。なんというか……不思議なことに司祭たちはみなも、神聖魔法が使えているのですよ。なので、神の加護があるという事にもなっていますし、エピキュアー王国にあるストレミング大聖堂では、神の声を聴くこともできるとか」


 さらには、失われた秘術により、異世界から勇者を召喚することもできるという。

 そして救世教会の教義の一つには、その異世界からの流れ人を保護するということもあるとか。

 まあ、俺にとっては面倒くさい相手であることに代わりはないと。


「……まあ、相手をしなければいいだけなら、それに越した事はないな」

「それが……厄介なことにですね、救世教会の教えを信じている貴族がいるというのも事実なのです。ストレミングに忠誠を誓ったものには、勇者の加護である力が授けられるとか……この国にも、そこそこに信徒となった貴族はいますので」

「そういう連中が嫌がらせをしてくる可能性があるっていうことか」

「まあ、可能性でいえばありえますが……ユウヤ店長については、それ程心配する事は無いのですよねぇ」


 んんん、それってどういうことなんだろう。

 

「救世教会は、今日のように神に対して寄進をしなさい、祀る神を変えなければ悪い事がおきます。あなたの信じているものは悪神ですよと脅すようにして、それを受け入れない人たちには、いろいろと面倒なことが起こるのですけれど」

「例えば、商人なら仕入れが出来なくなったり、旅の最中に事故に遭ったり……不治の病気にかかった人もいるにゃ。でも、救世教会に駆け込んで寄進し、神に祈りを捧げれば一時的には収まるけれど……改宗しない限りは、その悪い事は続くのだにゃ」

「そりゃまた、なんとも面倒なことで。それで、俺に影響が無いっていうのはどういう事だ?」


 そう問いかけるが、そもそも仕入れについては問題がない。

 次に、旅の最中の事故といっても、俺が使うのは安全が確保できる隊商交易馬車便なので、大規模の盗賊や貴族の軍隊でも動かない限りは、そんなに大きな事故に巻き込まれる事は無いらしい。

 そして、俺自身が神の加護を授かっているという事。

 本物の、それも最上位神と上位神の加護を得ている以上、偽者の神であるストレミング神が俺にちょっかいを掛ける事は出来ないらしい。


 これは、聖光教会の大司教や枢機卿に対して、ストレミング神が手を出してこないという事が証拠になっているらしい。彼らは神の加護を得ている、本物の聖職者なのでね。


「はぁ。それって逆に、神の加護を持たない人に対しては、ストレミング神は干渉出来るっていう事か。なんとも、偽者の神様っていうのは、力を持っているものだねぇ。本当に神様なのか?」

「聖光教会は否定しているにゃ。でも、エピキュアー王国の国教なので、他国が何をいっても聞く耳を持たないにゃ。あの国はストレミング神を崇拝しているにゃ」

「成程なぁ……と、ごちそうさま。俺は少し体を休めるので、食べ終わったらシンク(流し台)に入れといてくれればいい。それじゃあ」

「かしこまり!!」

「ごゆっくり」


 さて、どの世界でも、宗教関係は問題になりそうで怖いよなぁ。

 まったく、何事もなければいいんだが。


 〇 〇 〇 〇 〇


――その日の夜

 今日はマリアンとシャットも従業員モード。

 ということで奥のテーブル席にはミーシャとアベル、そしてグレンガイルさんと、何故かアードベック辺境伯まで同席している。

 

「ふむふむ。これがグレンさんの最新作ですか……」

「うむ、ユウヤの酒場で学んだ技術で作ったナイフでな。残念なことに、まだ刀と呼べるレベルには達していない。じゃが、そのうち素晴らしいものを作ってみせるぞ」

「へぇ、これがグレンさんの打った最新のナイフですか……って、あれ、ユウヤ店長の使っている包丁に近いですね」

「はい、アードベック辺境伯、ウイスキーのロックですわ」


 グレンさん、アードベック辺境伯、そしてアベルがナイフ談義で盛り上がっていて、横に座っているミーシャがドリンク担当か。

 ちなみにだが、グレンさんはうちの娘さん達を真似て、ウイスキーのボトルを入れた。

 飲み方といっても、水割りかロック、ソーダ割程度だけれどね。  

 そしてカウンターには、たまに来る常連客が四人と、初めて来た二人組で盛り上がっている。


「……ああ、美味いよなぁ。この酒も焼き鳥っていう料理も、本当にうまいよなぁ」

「全くだ……どうする? このままだと仕事になんねぇぞ……」

「分かっているって……でもよぉ……ああ、この純米酒をお代わりで。あと、豚串? っていう奴を五本、タレで頼みますわ」

「だ・か・ら、どうすんだっていって……あ、俺は瓶ビールをください。あと、奥のテーブルで食べている変な揚げ物も」

「はい、まいど」


 奥というと、さっきマリアンに持って行って貰ったザンギとポテトフライか。

 それじゃあまあ、急いで作りますかねぇ。

 しかし、常連四人組はともかく、初めて来る二人は仕事関係で色々と揉めている感じだなぁ。

 冒険者っていうのは、つくづく大変なものだよ。


………

……


「なあ、マリアン。あのカウンターの二人組の話、聞いていたかにゃ?」

「ええ、しっかりと。どうやらあの二人は、ユウヤ店長の料理を食べてから、『この店は、こんなまずいものを客に食わせる気か!!』って暴れる予定だったようですわ」

「それってつまり、救世教会の嫌がらせということかにゃ? 今のうちにつまみ出した方がいいんじゃないかにゃ」

「でも、さっきからずっと、お酒と焼き鳥のお代わりをしていますし……さすがに、店長の料理を食べて不味いなんて叫べなくて困っているようですし」

「それじゃあ、様子見だにゃ……」


 ほんと、救世教会は面倒臭いったらありませんわね。

 今回のいやがらせは失敗のようですけれど、次はどんな手を使ってくるか分かったものじゃありませんわね。


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